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もふめだ もふもふないきものから運命を改変できるあやしげなメダルを手に入れた  作者: ゆーかり
猫の精霊とあらたなる逃走(仮題)
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猫のくびに鈴をつけるがごとし

「まいったな。これ」


 気が付いたら、妙になつかれてしまっていた。

 鹿せんべいを食べ終わった三人の女の子たちは今、それぞれ思い思いにわたしの身体にしがみついている。

 最初の一人は倒木の上に座るわたしの膝の上に上半身をべったりとのせていて、時折り身体を揺らしてゴロゴロしては、こちらを上目遣いに見上げてくる。

 二人目の女の子はわたしの左隣に座って、腕にしっかりとしがみつき、地面につかない足をぶらぶらさせている。

 最後に現れた三人目の子は倒木の上に立って、わたしの右肩に手を伸ばしては、マフラー状態のイナリに追い払われていた。

 ふらふら揺れる尻尾にも興味があるようで、このままだといきなり引っ張ったりしそうでちょっと不安だ。


「仲良くしてくれるのはうれしいけど、これじゃ動けないよ」

「クルッ」


 まかせてくれればなんとかするけど、みたいなニュアンスでイナリが鳴く。


「うーん、まあ別にこのままでもいいんだけど、少し話は聞きたいかな」


 とはいえ、三人の小さな女の子たちは、これまでひとことも喋っていない。

 幼児とはいえ、普通はもう少し言葉を話せるんじゃないかな。

 すくなくとも、妹のリンドウが小さい頃はそうだった。


「あのさ、きみたちはどこから来たのかな? 近くにお母さんとかお父さんとかはいないの?」


 膝の上の子の頭を撫でながら、なるべく優しく聞こえるように話しかけてみる。

 すると、しばらくこちらを見上げていたけど、集中力が切れたのか、また膝の上に戻ってしまった。

 左右の子にも声を掛けてみたけど、全く同じ反応だった。


「これじゃあ、保護者の人を探しに行った方が良いのか、ここで待ってた方がいいのかもわからないよ」

「クルッ」


 こんどは同感のクルッだ。

 一番良さそうなのは、この子達をここに置いて、わたしがあたりを探しに行くことだけど。


「うーん、うごけない……」


 しっかりとしがみつかれてしまってるから、まずはこれを外すところからスタートだ。


「申し訳ないけど、ちょっと立たせてね」


 膝の上の子の両脇に手を入れて持ち上げながら、わたしも立ち上がる。

 すると、左側の子は腕にしがみついたままぶら下がってきて、右側の子は倒木の上からこちらにしがみついてきた。


「やっぱり動けない……」

「クルッ」


 本日二度目の、まかせてくれればなんとかするよのクルッだ。


「いや、平気平気。まずはこの子を地面に下ろして……」


 倒木の上に立っている子を持ち上げて、地面に立たせる。

 するとわたしの右側にふたたびしがみついてきて、結局三人に囲まれるかたちになった。


「とりあえず、ちょっと距離を……」


 わたしが歩き始めると、ずるずる引きずられるように三人の女の子がついてきた。

 しかたない。

 三人まとめて手前に引き寄せて、視線を合わせるようにしゃがみ込む。


「わたし、ちょっと様子を見てくるから、この草むらのところでしばらく大人しくしててくれる?」


 目を見ながら三人に話しかけると、皆おんなじポーズでちょっと首をかしげた。

 これは、わかってないような気がする。


「うーん、どうしよう……」


 三人引き連れてあたりを探しに行くべきだろうか。

 これが一番簡単かつ安全な選択だとは思うけど、保護者がここにやってきたら入れ違いになってしまう。

 とはいえ、この場所でずっと待っていても、かならず迎えが来るという保証もない。

 やっぱりわたしだけで保護者を探しに行くのがよさそうだ。

 小さな子供を置き去りにするのが不安といえば不安だけど、いままでもこの草むらにいて無事だったみたいだし、このあたりに危険な動物はいそうにないし。

 ただなあ。

 問題はひとりで行かせてくれなさそうだということだ。

 護衛兼遊び相手として白狼を呼んでみる、という手もある。

 指笛で白狼を呼び出して、あたりを調べてもらうことも出来る。

 でもなあ。

 普通に考えれば、小さな子だし、狼を怖がるかもしれない。

 それに、仮に保護者があらわれたとしたら、普通は驚いたり、逆に矢を射かけてきたりするかもしれない。


「やっぱりわたしが行くしかないよね」


 いちおう、策はあった。

 わたしは上着の隠しから残しておいた鹿せんべいを取り出す。

 すると、磁石で引っ張られているかのように、三人の視線がそちらに集中した。


「おとなしく待っていてくれる子には、これをあげようかなー」


 鹿せんべいを持った手を左右にゆっくり振ると、女の子たちの顔も追いかけてくる。

 この集中力ならいけそうだ。


「じゃあ、ひとりいちまいずつね」


 手を動かしながら、わたしの身体から離れるように誘導しつつ、鹿せんべいを渡すと、無事に三人が離れてくれた。


「そうだ。これもあげようじゃないか」


 そのままポリポリやり始めた子たちに、わたしの呼び子笛を差し出す。

 三人は目線だけでこちらの方を見た。


「わたし、ちょっとあたりの様子を見てくるけど、何かあったらこの笛を吹いて。こんな風に」


 笛を口にくわえて軽く吹いてみる。

 甲高い音が鳴って、三人が食べるのを止めてこちらを食い入るように凝視する。

 これは、かなり興味があるみたいだ。


「やってみる?」


 最初の一人目の子に笛を手渡すと、わたしのまねをするみたいに、笛を吹いた。

 何度か気の抜けたような音を立てた後、ちゃんと笛が鳴った。


「おお、じょうずに吹けるね。何かあったら笛を吹いてね。わかる?」


 女の子はしばらく笛を見詰めていたけど、あいかわらず何も言わずに、また鹿せんべいに戻った。


「これ、わかってるのかなあ……」


 とりあえず笛に付いた紐を女の子の首に掛けて、なくさないようにはしておいた。


「じゃあ、ちょっと行ってくるから。すぐもどってくるからね」


 そう言って、鹿せんべいに夢中になっている三人の女の子を置いて、わたしはまわりの森に入った。

 意識を集中して、あたりの気配を探る。

 わたしの感覚では、人の気配も、動物の気配もなかった。


「どう、イナリ。誰かいそう?」

「クルッ」


 これはどうだろうね、のクルッだ。

 感覚の鋭いイナリでも見つからないんだったら、ほんとに誰もいないのかもしれない。

 草むらのある空き地を中心に、わたしはしばらく森を歩き回った。


「熊とか狼なんかがいないのはいいけど、保護者はどうなのかな。もしかして、やっぱり迷子とか、捨て子とかだったり?」

「クルッ」


 いなりが悩みの鳴き声をあげたところで、草むらの方から、聞き覚えのある甲高い音が響いた。


「呼び子笛!?」

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