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もふめだ もふもふないきものから運命を改変できるあやしげなメダルを手に入れた  作者: ゆーかり
猫の精霊とあらたなる逃走(仮題)
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消えた子猫はかえってきたか

「帰ってきたらしい」


 そうアヤメお姉ちゃんが言った。

 リンドウと二人で朝食を食べ、そろそろ子猫を探しに行こうと一階のホールに出た所で、突然呼び止められたのだった。


「えっと、帰ってきたって、何が?」

「今朝、あの村の村長が二階の部屋を覗いたら、ベッドの上で赤ん坊がすやすや眠っていたのを見つけたって報告があったんだよ」


 つまり、行方不明だった赤ん坊が帰ってきたってこと?


「赤ん坊だけ? 人攫いの人とかは?」


 わたしの言葉に、お姉ちゃんは軽く肩をすくめた。


「今のところ手掛かりはなし。ただ赤ん坊だけが、何事もなかったみたいにベッドで寝ていたらしい」


 そんなことってあるだろうか。

 どう考えても変な話だ。

 いや、あるか。

 わたしはコナユキの家で失われたオーブを見つけた時のことを思い出した。

 あれは、最初からずっと同じ場所にあったのだ。

 単に見えなくなっていただけで。

 そして、結界が解けて、突然オーブは現れたのだった。

 今回もそういう事件なんだろうか。

 どうだろうな。

 少なくともこのあいだ手で触った限りでは、ベッドには誰もいなかったはずだけど。


「赤ん坊が無事に帰って来たのは良かったけど、犯人が見つかってないのは不安だね」

「これから調査に入るから、何か手掛かりが出てくるかもしれない」


 わざわざ赤ん坊を連れて帰ってきたんだったら、目撃者とか、証拠品とかが見つかる可能性はある。


「でも、なんでそんなことしたんだろ」

「逃げ切れないと観念して、赤ん坊を返しに来たのか。何か他の理由があるのか」


 お姉ちゃんは考え込むように目を細める。


「普通に考えれば、わざわざ村長さんの家に戻さなくても、赤ん坊をどこかその辺に置いて、自分だけ逃げればいいよね」

「村の外から連れ帰ってきたと考えると大変な労力だけど、村の中に潜伏していたんだったらまだありそうかな。さらに言えば、内部に犯人がいたって可能性もある」


 だとしたら、赤ん坊は村長さんの屋敷の中に隠されていたんだろうか。

 すごく探したはずだし、赤ん坊が泣けばうるさいから、秘密の地下室とかなにかそういうものが必要だろうけど。


「まあ、事情は直接犯人に訊いてみればはっきりするからね」


 明るい口調でお姉ちゃんが言う。

 無理に理由を考えなくても、犯人が捕まったら自ずから明らかになる。

 だからまずは犯人捜しだって、そういう考えなんだろう。


「帰って来たのは赤ん坊だけだったのかな」

「赤ん坊、だけ?」


 お姉ちゃんがちょっと虚を突かれたような顔になった。

 細かい事情を調べたんだったら当然知ってるはずだけど、消える直前まで、赤んぼうの隣には子猫がいた。


「ああ、そういえば同時に猫が居なくなったんだったね。どうだろう。特に猫に関しては報告はなかったけど」


 重要だと思わなかったから報告されてないのか、それとも、子猫の方は帰ってきていないのか。

 あの日からずっと行方不明だったから、実は一緒に連れ去られたんじゃないかってちょっと思ってたんだよね。


「子猫のこと、気になるかい?」


 お姉ちゃんがなぜか軽く微笑みながら訊いてきた。


「うーん、別に」


 この話を深くするとめんどうなことになりそうだったので、追求しないことにした。

 子猫はわたしだけで探せばいい。



 これから父様と相談しに行くというお姉ちゃんと別れて、わたしはもともとの予定通り外に出た。

 村へと続く道を歩きながら、考えを整理していく。

 今回の事件を時系列でまとめると、こうだ。

 子猫が村長さんの娘に拾われる。

 赤ん坊と子猫が仲良しになる。

 わたしがおばあさんに子猫の話を聞いて、村長さんの家を訪ねる。

 赤ん坊と子猫が消えていることに気付く。

 村長さんたちが屋敷の中を探し、父様に話が伝わって、捜索隊が出される。

 村へと続く道が封鎖され、周りの村にも伝令が行く。

 数日後、赤ん坊が屋敷に帰ってくる。

 子猫は帰ってきているのかもしれないし、消えたままなのかもしれない。


「んー、なんだろうね」

「クルッ」


 思わずうなり声が漏れ出て、イナリがどうしたのって顔をした。


「この事件って、なんかピンとこないんだよね」


 イナリの耳裏を指先で撫でながら考える。

 なんというか、軸が見つからないのだ。

 それぞれの出来事が、どうにもバラバラに思える。

 犯人の目的は?

 どうやって赤ん坊を攫った?

 なんで今になって返しに来たの?

 どこかに軸がみつかれば、それを元に再構成できる気はするんだけど。


「そういえば、前になにか思いついたような。大事なことを忘れているような。うーん、なんだったけ?」


 まとまらない考えをもてあそんでいるうちに、気が付けば村の入り口まで辿り着いていた。

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