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もふめだ もふもふないきものから運命を改変できるあやしげなメダルを手に入れた  作者: ゆーかり
猫の精霊とあらたなる逃走(仮題)
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赤ん坊さがしとみつからない猫と混乱するわたし

 ミュオスが立ち去って、わたしはやっと村の広場に足を踏み入れた。

 低い位置から差し込む夕日が石畳を赤く染め、その中を大人たちの一団がランプを手に通り過ぎていく。


「お嬢ちゃん! こんな時間に出歩くもんじゃない。早く家に帰りな!」


 広場の反対側を歩いていたおじさんのひとりが、わたしに向かって声を掛けて、そのまま歩き去って行った。

 わたしが誰なのかは気付いてはいないみたいだった。

 人攫いがいたら危ないからって、注意してくれたんだろう。

 軽くお辞儀をしてみたけど、おじさんたちはもうこちらを見ていなかった。


「それじゃあ、猫を探そうか」

「クルッ」


 イナリがまかせてって感じでしゅっと背を伸ばした。

 いつもなにかと勘が鋭いから、すぐに見つけてくれそうだ。


「広場でって約束はしたけど、細かい場所は決めなかったからね」


 とはいえ、そこまで広くもないからすぐに見付かるだろう。


「と、思ったんだけど」


 簡単だろうって探し始めたけど、ひと通り歩き回ってみても灰色の猫は見つからない。


「まだ来てないのかな? もう一周してみようか」

「クルッ」


 それからさらに探し回って、日が暮れるまで待ってみても猫は現れなかった。

 何か理由があってここに来られないのかもしれない。

 広場を離れ、路地を歩き回って猫の集会も探し出したけど、そこにも灰色の猫はいなかった。

 しかたないので、わたしたちはそのまま屋敷に帰ることにした。



 家の中に入ると、一階のホールに椅子と机が置かれていて、即席の対策本部みたいなものが出来ていた。

 お姉ちゃんはいつでも外に出かけられる格好で、机の上の地図らしき物を覗き込んでいる。


「お姉ちゃん、ただいま」

「カナエ、おかえりなさい」


 わたしが声を掛けると、お姉ちゃんは顔を上げて微笑んでくれた。


「赤ん坊は見つかりそう?」

「うーん、村から出て行く道に全部人を置いて塞いだけど、間に合ったかどうかはわからないね。他の村にも連絡を入れて、あやしい奴を警戒してもらってるところ」


 道を封鎖しているのは、人攫いが逃げるなら馬車を使うって考えているからだろう。

 赤ん坊とはいえ、子供を背負って森に入るのは大変だろうし。


「わたしは忙しいから、食事はリンドウと二人で食べてね」


 お姉ちゃんが地図の方に眼をやりながらそう言う。

 待ってるだけだから余裕があるのかと思ったけど、そういうものでもないらしい。


「わかったけど、あまり無理はしないでね」


 わたしの言葉に、お姉ちゃんは口元で笑って軽く手を上げた。 



 たぶん最初は時間との勝負なんだろう。

 子供をさらって逃げていく犯人を、追い詰めるというよりも、外に出られないように行き先を塞いでいくわけだし。

 人攫いが先に逃げ出してしまったら全て無駄になってしまう。

 そして次に、包囲網が出来たら、その中を探していくことになる。

 よっぽどの覚悟がない限り、人里に出ずに旅をすることはむずかしい。

 どこかで目撃情報が上がってくるはずだ。

 それを元に、限られた人数で犯人を追い詰める。

 だから人をどう配置して、どう動かすかが問題になる。

 こうやって考えてみると、たしかに大変そうな作業だった。

 わたしは赤ん坊の行方と子猫の行方、それと灰色の猫の行方のことを考えながら眠りについた。

 夜中に父様は一度帰ってきたらしいけど、朝早くに出て行ったそうで、結局顔を見なかった。

 次の日も、さらに次の日も、捜索は続いた。

 そして、わたしは灰色の猫の姿を見かけた。

 しかもマゴット家の屋敷の中だった。


「あの、ちょっとよろしいでしょうか」


 思わず敬語で話しかけていた。

 曇り空の下、猫は花壇近くの木の上にいた。

 そんなに高い木じゃないけど、どうしても見上げるような体勢になる。


「子猫はまだみつかってなくて、ごめんなさい!」


 わたしの言葉を聞いてか、灰色の猫はうろんな目つきでこちらを見た。

 お前は何を言っているんだ。

 そんな顔だった。


「一度は村長さんの家にいるのがわかったんだけど、またいなくなっちゃって、今日もこれから探しに行く予定なんだけど」


 灰色の猫があくびをした。

 なにかおかしい。


「あの、もしかして何かありました?」


 とりあえず近くに寄って顔をよく見よう。

 そう思って木に手を掛けると、猫はすばやく木から滑り降りて、そのまま走り去ってしまった。


「なんなの、一体……」

「クルッ」


 わたしとイナリは遠ざかっていく猫のお尻を呆然と眺めるしかなかった。

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