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もふめだ もふもふないきものから運命を改変できるあやしげなメダルを手に入れた  作者: ゆーかり
猫の精霊とあらたなる逃走(仮題)
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子猫とおおさわぎ

 村長さんの家は村の奥側、広場を越えたさらにその向こうに建っている。

 この村のメインストリートからまっすぐ進むと、少し上り勾配になり、ちょっとだけ高台になったあたりに結構立派な屋敷があった。

 石を積んだわたしの胸くらいの高さの低い壁があたりをぐるっと取り囲み、その内側に二階建ての建物が見える。

 正面の壁が途切れた部分には扉とかはないけど、たぶんここが入り口なんだろう。

 そこから中に入り屋敷に近づくと、庭仕事をしていた下働きらしいおじさんが足早に近づいてきた。


「これはこれは、マゴットのお嬢様ではありませんか!」


 岩で出来たみたいにごつい男の人だったけど、口調は明るく愛想よかった。

 さすがに領主の娘だったりすると、小さな子供が突然訪れても、こんな風に待遇がいいのでありがたい。

 これが村の子供とかだったら、追い払われていたかもしれない。

 わたしはなるべく礼儀正しく見えるように挨拶をして、さっそく本題を切り出しすことにした。


「ああ、それはうちのお嬢が拾った子猫ですな。まさかマゴット様のお屋敷の猫だったとは」

「実際に見てみるまでは、まだそうと決まったわけじゃないです。ちなみに灰色の猫なんですけど」


 わたしがそう言うと、おじさんは何度も大きく頷いた。

 

「それですそれです。灰色の毛をした子猫ですよ」


 まさかとは思ったけど、いきなり大当たりかもしれない。

 とはいえ、もし別の子猫だったとしたら、同じ灰色で見分けられるだろうか。

 場合によっては、親猫のところまで連れて行かないと、結論は出ないかもしれない。


「数日前にお嬢がこの屋敷の前で拾ったと言って連れて参りまして、飼い始めたのはいいものの、今はお嬢よりも下の赤ん坊の方に懐いております」


 おじさんはわたしを屋敷の中に招き入れながら事情を話してくれる。


「赤ん坊にですか?」

「生まれたばかりのお嬢の妹さんでして、たぶん今も同じベッドで仲良く寝ているはずです」


 わたしを大きな部屋に案内してソファに座らせると、おじさんは村長を呼ぶために出て行った。 

 この調子だとスムーズに渡してくれそうだけど、子猫を拾った娘さんにはショックかもしれない。

 懐いてる赤ん坊にも、引き離すのは申し訳ない気もするけど、こればっかりはしょうがない。

 女の子がここにいるんだったら、呼んでもらって直接わたしが説明しよう。

 そんなことを考えていると、なんだか急に屋敷の奥が騒がしくなった。


「どうしたんだろう。なにかあったのかな?」

「クルッ」


 すっかりマフラーのふりをしていたイナリが、ちょっと抑えめの声で相づちを打ってくれた。

 それからしばらく、階段を昇ったり降りたりする騒がしい足音が続き、さらにちょっと待ったところで、ようやく部屋の扉が開いた。


「カナエ様、お待たせいたしまして申し訳ございません」


 そう言って入ってきたのは、この村の村長さんだった。

 父様と一緒に村を訪れたとき、何度か言葉を交わしたことがあった。

 今は妙に落ち着かなげな様子で、どうにも困ったといった顔をしている。


「村長さん、お忙しいところをお邪魔してすみません」


 ソファから立ち上がって挨拶すると、村長さんは恐縮したように手を振った。


「いえいえ、邪魔などということはございませんが、実は急に問題が起こりまして」


 見たところ、何か言いづらいといった感じの雰囲気だ。


「それでしたら、あらためて出直して参ります」

「ああいえ、そのようなお気遣いは無用でして。いや、なんと申しましょうか。実は子猫をお渡しするだけでしたら、まったくかまわなかったのですが、その……」


 どうやら本人も混乱しているようだったので、しばらく村長さんの言葉を待つ。

 すると、とても真剣な顔つきになり、こちらに一歩近づいてきた。


「実はベッドで寝ていたはずの子猫がいなくなりました。探させているのですが見付かりません。こちらにつきましては、見つけたところであらためてお屋敷につれて参りますので何卒」

「あ、いえ、そこまでしていただかなくても。やっぱりあらためて伺いましょう」


 なるほど。

 そういう話だったか。

 とはいえ、猫が見付からないだけで、こんなにも大騒ぎになるだろうか。


「あの、子猫のこととは別に、なにかありましたか?」

「これはその、場合によってはマゴットの領主様にもご相談にうかがうかもしれないのですが……」


 言うか言うまいか迷っている、といった感じだった。


「でしたら、前もってお話を伝えておきますよ」


 そう言ってみると、しばらく黙っていた村長さんがやっと口を開いた。


「猫だけではなく、うちの赤ん坊がいなくなっておりまして、その、子猫と同じベッドに寝かせておったのですが、どちらも一緒に姿が見えなくなりまして。場合によっては人攫いの可能性もあり……」


 それは、思ったよりも大変な話だった。

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