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もふめだ もふもふないきものから運命を改変できるあやしげなメダルを手に入れた  作者: ゆーかり
猫の精霊とあらたなる逃走(仮題)
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猫の話はもうおしまい

「猫さんですか?」


 リンドウが鹿せんべいをつまんだ手を止めてこちらを見た。


「なんだか嫌われてるみたいなんだけど、理由がわからないんだよね」

「それでしたら、わたしも好かれてないかもです。あの猫さんはあんまりなでさせてくれませんから」


 ちょっと眉根を寄せたままそう言って、ふたたびポリポリと鹿せんべいをかじり始めた。

 二階の大部屋には今、わたしとリンドウしかいない。

 午後のこの時間、父様はたぶん仕事中で、カナエお姉ちゃんはそれを手伝っているのかもしれない。

 わたしはティーカップをソーサーに置くと、鹿せんべいを小さく割って、肩の上のイナリに食べさせる。


「もしかして、子供が嫌いなのかな。前にいじめられたことがあるとか」

「そういえば……」


 栗鼠みたいに頬をふくらませていたリンドウが鹿せんべいを飲み込む。


「アヤメ姉様は、小さい頃から仲良しだっていってました」

「そうなの?」


 確かにお姉ちゃんがあの猫に食べ物をあげてるのを見たことはあったけど。


「じゃあ、子供全般を警戒してるってわけじゃないのか」

「もしかしたら昔は子供好きだったのかもしれません」


 たしかに、ここ数年の間に猫の身に何かが起こったという線はあるだろう。


「ところで姉様、どうして猫さんなんですか?」

「えっと、まあ、なんとなく。せっかくだから仲良くしたいかなって」


 わたしの適当な言い訳に、リンドウは軽く首をひねった。 


「考えてみれば、姉様が動物さんに避けられるのって珍しいですよね」

「そうかな?」

「前から動物さんたちには好かれていたと思います」


 まあ、前世の頃から動物には懐かれやすい質だったかもしれない。

 白狼たちとも仲いいしね。


「お姉ちゃんに話を聞いてみようかな」

「でも、アヤメ姉様はお出かけみたいですよ」


 それは初耳だ。


「どこに行ったのか、知ってる?」

「いえ。わたしも先程お父様から聞いただけなので」


 なんとも間が悪いな。

 別にそんな重要な話でもないけど、どうにもうまくいかない感じがする。


「そうか。父様が何かしってるかも」


 猫に興味はないかもしれないけど、お姉ちゃんから聞いている可能性はあるだろう。

 でも、仕事をしてるところに入っていって、猫について訊くっていうのも抵抗がある。


「父様はあの猫さんが苦手みたいですよ」

「え、なんで?」


 またしても初耳だ。

 なんだかリンドウとの情報格差がはげしい。

 どうしてだろうな。


「理由はわからないですけど、あの猫さんを見る時はいつもみけんにしわを寄せてますよ」

「よく見てるね」


 同じ家に住んでて、なんでこんなに差があるんだろう。


「カナエ姉様は猫さんにあんまり興味ないですよね」

「そんなこと……ない、はずだけど……」


 考えてみれば確かに、あまり積極的に撫でに行ったりとかはなかったかも。

 猫の方が懐いてないから、こちらも手を出さないんだって思ってたけど、そもそもわたしの方もあまり近寄らなかった気もする。

 なぜだろう。

 猫自体は嫌いじゃない。

 むしろかわいいと思っている。

 前世のわたしはもっと猫好きで。

 そうだ。

 実家で猫も飼ってたし。

 その子は身体の大きな三毛猫で、寝っ転がっていると身体の上に乗ってきて、よく重いって文句を言っていた。

 寒い夜は布団の中に入ってきたりして。


「父様には猫の話しない方がいいな」

「どうしてですか?」


 わたしはリンドウのあたまをゆっくりと撫でた。


「いやなものの話をしても愉快じゃないだろうしね。どうせなら楽しい話をしたいじゃない」

「なるほど。たしかにそうかもしれません」


 猫の話はもうおしまい。

 もっと楽しい話をしよう。

 たとえば、おいしいお菓子の話とか。

 それは別に変なことじゃない。

 でも、どうして?

 なんで猫の話をしないのか。

 その理由に、心当たりがあった。

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