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もふめだ もふもふないきものから運命を改変できるあやしげなメダルを手に入れた  作者: ゆーかり
閑話 もうひとつ、おまけのおはなし
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のんびりおでかけとようすのおかしい犬たち

「よーし、いくよー!」

「キュッ」


 焼き菓子をつまみ上げて軽く振ると、地面の上でイナリが背を伸ばして鳴いた。


「ジャーンプ!」

「キュッ」


 放り投げた焼き菓子の欠片が、放物線を描いて飛んでいく。

 イナリが落下点に向かって地面を駆け、タイミングを合わせてジャンプする。

 気持ちよく晴れ渡った青色の空の下、細長栗鼠の長い体が綺麗な曲線を描いた。

 地面に着地したイナリがこちらを振り向くと、その口には焼き菓子が咥えられている。


「おーっ、やるな!」

「クルッ」


 焼き菓子を使ったキャッチボールが、わたしとイナリの最近お気に入りの遊びなのだ。

 食べ物をオモチャにするのは良くないけど、一度も地面に落としたことはないのでゆるしてほしい。

 小さな口を小刻みに動かす様を愛でつつ、腰掛けた倒木の上で思わず出たあくびをかみころす。

 初夏の暖かな陽光が心地よくて、気を抜くとすぐ眠気がやってきてしまう。

 今日はマゴット家総出で森に来てるんだけど、ここには今わたしとイナリしかいない。

 父様とアヤメお姉ちゃんは狩りのために森の奥に入っているし、リンドウは屋敷の使用人を連れて近くの水場まで散歩に出ていた。

 残されたわたしは馬を繋いだ空き地でひと休みしているのだった。


「ワワウフフウ」


 声に気付いて空き地の反対側に視線をやると、犬が数頭こちらの方をちらちらと見ている。

 そういえば、馬たちの他に、屋敷の犬たちもここに残されていたんだった。

 元々狩りのために森に連れてきたんだけど、犬たちの半分はわたしとリンドウの護衛兼遊び相手として置いていかれたのだ。


「そんなに離れたところにいないでこっちにおいでよ!」


 試しに呼びかけると、犬たちがそわそわし始めた。

 最近、彼らの反応が少しおかしい気がする。

 なんというか、変な遠慮があるのだ。

 今までだったら、犬舎を覗くと尻尾を振ってこちらに突撃してきたはずの犬たちが、ちょっと離れたところからわたしを見つつうろうろするだけで、何故か近寄ってこなくなってしまった。


「しょうがないな」


 わたしは倒木から腰を上げた。

 すばやく駆け寄ってきたイナリが、わしわしと肩の上によじ登ってくる。

 イナリの顎下を指先で撫でながら、わたしは犬たちの方に向かう。

 彼らはというと、何故かずっと同じ場所をうろうろしてるだけだ。

 猛烈に尻尾を振っているので嫌われているわけではないみたいだけど。


「よしよし、最近どうしたんだね。諸君」

「ハフハハハフ」


 一番近くにいた一頭の頭をわしわし撫でると、周りの犬たちが集まってきて、整然と列を作った。

 もしかして、撫でられ待ち?


「なんか白狼たちみたいだね」


 犬と狼だから、反応が似てるのかな。

 次々と頭を撫でていき、ひと通り終わった頃には、わたしは犬に囲まれていた。


「みんな礼儀正しくてえらいね」

「フフハフフ」


 わたしの言葉を聞いて、犬たちの尻尾がパタパタと揺れる。


「キュッ」


 その時、肩の上のイナリがひと声鳴いた。

 すると周りの犬たちが一斉に伏せの姿勢を取った。

 キビキビとした動きが、なんかちょっと軍隊っぽい。


「え、いつのまにそんな訓練してたの?」

「クルッ」


 イナリが胸を張ってちょっと誇らしげなポーズを取る。

 それで、なんとなく気付いたことがあった。

 最近の犬たちのわたしに対する態度は、イナリに対するそれに似てる気がする。

 畏れられていると言うか、尊重されているというか、主君を慕う家臣みたいな感じ?


「最近、ちょっと他人行儀じゃない?」


 しゃがみ込んで伏せている犬の背中に手を伸ばす。

 少しゴワゴワした毛皮をわしゃわしゃと撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。


「もしかして、魔力が漏れてるかな?」

「クルッ」


 イナリの鳴き声に肯定の響きがあった。

 目を瞑り、頭の上の光の輪を意識する。

 いつも通り、ゆっくりと静かに廻しているはずだ。

 でも、たしかにちょっとブレているのかも。


「王様が言ってたのは、こういうことでもあるのかな」


 精霊になったことに、わたしがまだ馴染んでいない。

 だから、魔力のコントロールも安定しない。

 いつもよりも強めに力が溢れ出てるから、犬たちが警戒してるのかも。

 それとも、魔力の質が精霊っぽいとか?


「でも、この子達にそこまでわかるものかな」

「キュッ」


 イナリがひと声鳴くと、犬たちが伏せを止めて立ち上がる。


「うーん、なかなかの練度だね」


 いや、もしかしたらイナリが犬達に近づかないように言いきかせてるのかもしれない。

 前からこの子達がじゃれついてくると、叱ってくれてるみたいだったし。


「姉様!」


 森の方からわたしを呼ぶ声が聞こえた。

 立ち上がって振り向くと、リンドウが散歩から帰ってきたところだった。


「あれ、他のみんなは?」

「すぐに来ると思いますよ」


 リンドウはパタパタとこちらに駆け寄ってきて、にっこりと微笑んだ

 犬たちは私から離れてまたうろうろし始めたけど、さっきとは違ってちょっと困惑しているような動きだった。

 いつもだったらリンドウにワッと群がってくるんだけど、今日は大人しい。

 その理由には心当たりがあった。

 あくまで予想でしかないけれど。

 確かめたいけど。

 でも、なかなか踏み込めずにいる。


「少し座って休んだら? お菓子もあるし」

「お菓子、たべたいです!」


 うれしそうに微笑むその表情は、やはりいつものリンドウのものだった。


「君たちも食べる?」

「ハハフフハフ」


 犬たちが迷うようにうろうろ歩き回る。

 わたしは籠を持って倒木の上に座った。

 小走りにやってきたリンドウが、並んで腰を掛ける。


「いつものやつしかないけど、いいよね?」

「シカセンベイですか? わたしあれ好きです!」


 お手製の焼き菓子には特に名前がないので、なんとなくそう呼んでいる。

 実際は同じ物ではなくて、ロクサイにあげたやつは味つけをしてなかったけど、こっちはちょっと甘味を足していた。

 リンドウがうれしそうに食べ始めたので、欠片を割ってイナリにもあげてみる。

 ちょっと迷うように匂いを嗅いでから、少しだけポリポリとかじった。

 さっきのキャッチポールで沢山食べたからおなかいっぱいなのかな。

 それとも、別の理由があるのか。

 犬たちはまだ遠巻きにこちらを見ていて、なかなか寄ってこない。


「こっちにこないの?」


 わたしが声を掛けても、犬たちは動かない。

 いったい何を遠慮しているのか。


「そういえば、あの黒犬は来てないのかな」

「ヨイヤミちゃんの話ですか?」


 わたしのつぶやきに、リンドウがパッと顔を上げた。


「あいつ、最近、毎日のように顔を出してるじゃない」

「そういえば今日は見てませんね。みんながいるから避けてるのかもしれません」


 まあ、それはあるのかも。

 そもそも犬じゃなくて魔物だしね。


「姉様がヨイヤミちゃんの話をするのは珍しいですね」

「ここのところ屋敷の犬たちが大人しいから、あいつの半分くらい図々しくてもいいかなって」

「最近、うちの犬さん達は元気ないですよね」


 その言葉には心配する響きがあった。


「ちょっと前まではすごい構われたがりだったのにね」

「そうですね……なんというか……」


 言葉からすうっと感情が消える。


「リンドウ?」


 倒木からゆっくり立ち上がり、リンドウは犬達の方を見た。


「いつも通りで、いいんですよ?」

「バウワウワワウワウ!」


 突然、犬たちが一斉に吠え始める。


「どうしたの、一体……」


 わたしは思わず腰を浮かせた。

 イナリが肩の上で身体を硬くする。

 数歩近づいたところで、何故か足が止まる。

 犬たちはまだ吠えている。

 振り返ってリンドウの顔を見ると、彼女は口元にうっすらと微笑みを浮かべていた。

自分へのごほうび的な気持ちで書き始めたはずなのに妙な展開に。

もう何本かおまけのお話を書くと思いますけど、時系列はばらけるかもしれません。

思いつきで書いてるので。

あと、Twitterを始めました。

投稿したあとツイートするのをやってみたかった。

でも自動投稿だとタイミングずれちゃいますね。

いいやりかたないかな。

IDは @Yuukari_yptus です。

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