猫の王様の行く先は
その螺旋階段は木で出来ていた。
巨大な木の中にあるんだから当たり前かも知れない。
深い艶を持つ磨き抜かれた木材で出来ているように見えるけど、よく観察すればどこにも継ぎ目がない。
木の内部を掘り抜いて作ったのかとも思えるけど、そんな普通なものでもないだろう。
いや、それにしても階段が長すぎる。
登り始めてから随分経つのに、まだ上に続いている。
なんらかの魔法で、巨大樹の中に、本来以上に広い空間を作っているんだろう。
魔力を使って身体能力を強化しているから疲れたりはしないけど。
「それで、どこへ行くんですか?」
目の前で尻尾をふりふり階段を登っている猫の王様に尋ねる。
「鏡の間だ」
「そういう部屋があるんですか?」
ライオンみたいなサイズの巨大な猫の姿に戻った王様は、ちらっとこちらを振り返った。
「間と呼ばれているが部屋ではない。この城の外にある、精霊にとって特別な場所だ」
「よくわかりませんけど、わたしが入っていい場所なんですか?」
「精霊以外は立ち入らぬが、別に決まりはない」
ならいいか、とも思ったけど、なんだか大変なことになりつつある予感がする。
王様は精霊の魔法を学べと言った。
いままでずっと駄目だって言い続けていたのに。
今回の出来事で、王様の心の中で何かが変わったんだろう。
人間にも精霊の魔法が使えるかもしれないって判断したのか。
「どんな場所なんですか?」
「行けばわかる」
「まあ、そうなんでしょうけど。心構えというか……」
突然、猫の王様が立ち止まった。
勢い余ってふわふわのお尻に顔を突っ込んだ。
「カナエ、失礼だぞ」
九本の尻尾がわたしの頭をぺしぺしと叩く。
「いきなり止まるからですよ」
「ここから外に出る」
そう言って、王様が階段横に開いている通路に入った。
しばらく進むとバルコニーみたいな場所に出る。
木の枝が絡まり合って出来た寄せ木細工のような床に、緑色の苔が絨毯みたいに生えている。
王様はしゃなりしゃなりと優雅なキャットウォークで進むと、軽い動きでバルコニーから飛び出した。
「え、ちょっと!」
わたしがあわてて駆け出すと、王様は近くに生えていた大きな木の枝の上に乗っていた。
「鏡の間はこの先にある。ついてきなさい」
そう言ったかと思うと、また別の木の枝に飛び移った。
「簡単にいうけどさあ」
わたしはバルコニーの端から地面の方を覗いたけど、木の枝に隠れて地面がよく見えない。
でも、とてつもない高さだって事はわかった。
「早く来ないか!」
遠くで猫の王様がこちらを振り向いて言った。
「ああもう。わかりましたよ!」
「クルッ」
肩の上のイナリが励ますみたいに鳴く。
わたしは頭の上の光の輪を廻し、体に魔力を行き渡らせる。
「よっと!」
軽く助走をつけて跳んだ。
さっきまで王様が立っていた枝に足を掛けると、あやうくバランスを崩しそうになる。
平泳ぎするみたいに手を振り回して、なんとかまっすぐ立った。
正面を見ると、猫の王様はもうけっこう先に行っていた。
「修業の一種かな?」
「クルッ」
イナリはちょっと元気になったみたいだ。
王様と少し離れたからかな。
相手が偉い精霊だからか、近くにいる時は大人しいんだよね。
「よし、いっちょ行きますか!」
次の飛び先を探すと、近くにぼんやりと光を放っている枝があった。
道順を教えてくれてるのかもしれない。
思い切って飛び移ると、さらに向こうに光る枝がある。
ずいぶん小さくなってしまった猫の王様の後を追って、わたしはさらに枝を蹴った。
ちょっと短いけどとりあえず。
次くらいで二話は終わるはず。(フラグ)