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小さな女の子の依頼

「ただいま我が主は来客中でして、その間はカナエ様を近づけぬようにと申しつけられております」

「お客さんなんて珍しいね」

「実際、珍しい方が見えられているのですが……」


 白い狒々の執事さんはそう言って、ちょっと戸惑うように押し黙った。

 どうやらあまり歓迎できないタイプの来客らしい。


「カナエ様がいらっしゃった時のために、我が主がひとつ課題を用意されております」


 そう言って、執事さんが背後から小さな女の子を引っ張り出してきた。

 大きな身体に隠れて、いままで見えていなかったらしい。

 緊張しているのかちょっとおどおどした様子で、もしかしたらずっと執事さんの背中に隠れていたのかもしれない。


「こ、こんにちは……」


 女の子は白い毛皮のコートの裾をぎゅっと引きつけながら、上目遣いでこっちを見ていた。

 年齢的にはたぶんわたしと同じくらいだろう。

 わたしは十歳にしては背が低い方だったけど、この女の子は少し猫背なせいで視線の高さは大体同じくらいだ。

 とりあえず相手の緊張をなんとかしようと、にっこりと笑顔を浮かべてみる。


「初めまして。わたしはカナエっていうの。あなたのお名前は?」

「えっと、コナユキ、です」


 女の子が小さな声で答えてくれた。

 わたしは軽く頷いて見せてから、執事さんの方に向き直った。


「それで、王様の課題っていうのは何なのかな」

「このお方のお悩みを聞いて、そちらを解決していただきたいのです」

「それが課題?」

「解決する際は魔力を使うように、と申しつけられております」


 なるほど。

 これは森の王に持ち込まれたやっかいごとを、こっちに丸投げされたってことなのかな。

 たぶん王様本人が対応する程の問題じゃなかったから、わたしの修行にちょうどいいって思ったんだろう。

 わたしはあらためて女の子の様子を見直してみた。

 人間の女の子がここにいるのはちょっと驚いたけど、珍しいお客さんが来てるって話もあったから、もしかしたらその関係者なのかもしれない。

 見た感じ服装はこぎれいで、肌も髪もつやつやしてるし、良いとこのお嬢さんっぽい。

 なかなか可愛らしい感じの子だった。

 そう思ってから、こういう意見を口に出すのにちょっと抵抗があることに気づく。

 これは多分前世の記憶に引っ張られている。

 幼なじみでもある腐れ縁のリカは、わたしが別の女の子を褒めると自分の方が可愛いって主張してなぜか不機嫌になるのだ。

 目の前にリカがいなくても、そういうシチュエーションになるとどこからともなく現れるので、なんとなく素直に女の子を褒められなくなっていた。

 その記憶が今のわたしの言動に影響を与えている。

 前世を思い出す前だったら、たぶんそんなこと関係なく素直に褒められただろう。

 気を取り直して、目の前の女の子を観察する。

 ちょっと目をこらして頭の上の光の輪を見ると、オレンジ色に輝いている。

 その光は嫌な感じは全然しないし、それに思ったよりも魔力が大きそうだ。

 お姉ちゃんや妹のリンドウよりも全然強い。

 それでもわたしよりは大きくないだろうとは思うけど、こっちはあくまで推測だ。

 自分では頭の上の光の輪は見えないから、これに関しては猫の王様の話を元に想像してるだけなんだけど。

 話によると、わたしの光の輪は王様とどっこいどっこいのサイズらしい。

 ただ、精神を集中して回転させると大きくなるらしくて、潜在的にはもっと強いみたいだ。

 この辺に関しては、猫の王様もあまり教えてくれない。

 もしかしたら、自分の魔力が強いと知ると増長すると考えているのかもしれないし、なにか無茶をやらかすと思われてるのかもしれない。

 猫の王様に比べれば、女の子の光の輪は小さい。

 でも、前に遭遇したマントお化けの光の輪よりも全然大きい。

 ちなみに、家族の中で一番魔力が大きいのは妹のリンドウだけど、それでもマントお化けの光の輪の半分くらいのサイズだ。

 だから目の前の彼女は、なかなかに人間離れしてる感じだった。

 そういうと自分も人間離れしてるって認めることになるけど、まあそれは本当なんだからしょうがない。

 正しい現状認識はなかなかに大事なのだ。

 わたしが人間離れしてる理由はわからないけど、前世の記憶があることとか、イナリが現れたこととか、神様のメダルを持っていることとかも関係してるのかもしれない。

 イナリの光の輪も猫の王様と変わらないサイズなので、もしかしたら、あの子にわたしの光の輪を廻してもらったことが影響しているのかもしれない。


「じゃあ、お話を聞かせてくれる?」


 なぜか自然と年下の子に話を聞くみたいな感じになるのは、このおどおどした仕草が原因だろう。

 女の子はちょっと迷うように視線を左右に振ってからわたしを見た。


「あの、探してほしいものがあって、それで……」

「よろしければお部屋を用意いたしますので、そちらでお話を聞かれてはどうでしょうか」


 口ごもってしまった女の子を見かねたのか、白い狒々の執事さんが親切に提案してくれたので、ありがたく部屋を使わせてもらうことにした。

 案内されたのは、前に泊めてもらったときの部屋に似てるけど、位置的には王の御所の中では端の方の部屋だ。

 この御所は見かけよりも結構広くて、もしかしたら魔力によって何らかの仕掛けが施されてるのかもしれない。

 わたしたちは執事さんに入れてもらった紅茶を飲んでひと息つくことにした。

 軽く世間話を振ってみたけど、どこに住んでるのかとかそういったことに関しては口が重い。

 この周辺の村の、わたしと同じくらいの歳の子供の顔は大体知っているので、たぶん遠くから旅をしてきたんだと思う。

 子供が旅をするのは結構珍しいんじゃないだろうか。

 たぶん、訳ありということなんだろう。


「もしかして、今日王様と面会してるお客さんと一緒にここに来たのかな?」


 わたしがそういうと、小さな女の子はこっくりと頷く。


「カザリさんがここまで連れてきてくれたの。わたしだけじゃ旅をするのは無理だったから、お願いして……」

「そのカザリさんって人は、親戚とかそうい感じなのかな」

「ううん。そうじゃなくて、偶然わたしたちの集落に来て、それで」


 これはもしかしたら、ちょっとめんどくさい案件かもしれない。

 森の王にお願いがあって、家出同然で飛び出してきた良いとこのお嬢さんって、かなり危なっかしい感じがする。


「もしかして、家の人に内緒で出てきたとか?」

「その、家族はいなかいから、そういうんじゃないけど、でも同じ集落のみんなには何もいわなかったから、その……」

「じゃあみんな心配してるんじゃない?」

「それは、たぶん、そうかも……」


 わたしの問いに、女の子はまたこっくりと頷いた。

 彼女がここまで来た理由が、わたしの課題になるってことなんだろう。

 王様は魔力を使って解決しろっていったけど、ここから遠出しないと解決しない課題だったら、これはちょっとやっかいだ。

 この子はさっき捜し物だとかいってたけど、まだ詳しい話を教えてもらっていなかった。

 わたしはとりあえず具体的な内容を聞いてみることにした。


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