動物たちといっしょのお茶会
それからしばらく、わたしとミカヅキはたわいもない話をした。
いままでこの屋敷で弟子達がどう暮らしていたのかとか、わたしが最近旅に出た時のちょっとした出来事とか。
あと、リンドウやアヤメおねえちゃんのこととか、小さい頃のロクサイの話とか。
ミカヅキはわたしの師匠の話を聞きたがった。
「それで、あんたはどうやって精霊の弟子になったわけ?」
「うーん、なりゆきですかね」
実際そうとでも言うほかない感じだ。
「なにそれ。全然わからないんだけど」
「森の中で迷子になった時、精霊に出会って、その導きで師匠のところにかくまってもらったんです」
ミカヅキはいまいち話を飲み込めないようで、眉間にしわを寄せてこちらを見ている。
「うーん。神隠しみたいなもの、と言えなくもないか」
「別に連れ去られたとかじゃないですよ。案内された御所の部屋も快適で、お茶も出してくれたし」
「ちょっとまって」
突然、話を遮られた。
「精霊が人の住んでるような屋敷を持ってるってこと? もしかして、それってこの辺りの森に住む精霊王のことなんじゃ」
「あ、ご存じでしたか」
ミカヅキが身を乗り出して、ぐっと顔を近づけてきた。
「当然ご存じだよ! 有名な精霊王だよ! この国の子供だったらおとぎ話とかでみんな知ってる森の王だよ!」
「人違い、というか精霊違いじゃないですか? 精霊の王は何人もいるって話でしたし」
わたしの言葉に、ミカヅキが呆れたような顔で見てきた。
「このあたりの森には精霊王はひとりしかいない」
「うーん、そうなんですね」
まあ、猫の王様がすごい精霊だとは知ってたけど、そこまでとは思わなかった。
「人間が精霊王の弟子になるってことがどれだけ珍しいのか、あんた全然わかってないでしょ」
「ムイッ」
背中にイナリを乗せて楽しそうに遊んでいたロクサイが、こちらにやってきてひと声鳴いた。
「クルッ」
イナリがロクサイの頭の上に登って、小さな前足を手前に突き出す。
これはおかしくれくれのポーズだ。
「よしよし、これをお食べ」
焼き菓子を二つに割って、大きい方をロクサイに、小さい方をイナリに渡す。
「ちょっと、ロクサイに勝手に食べ物をあげないでよ」
「ムイッ」
あっというまに食べ終わったロクサイが、おかわりを要求するみたいに鳴いた。
「しかたないなあ。今日だけだよ」
呆れたような口調の割に楽しげに口元をゆるめながら、ミカヅキが焼き菓子を差し出すと、ロクサイがうれしそうに食べ始めた。
「あんた、これからどうするの? もう魔法を教えてくれる先生もいないじゃない」
「うーん、そうですねえ」
確かにこのままでは人間の魔法を学ぶのは難しそうだ。
ミカヅキが追加で焼き菓子をロクサイに与えながら、こちらをちらりと見た。
「初歩の初歩までだったら、勉強は出来るけどね。それくらいだったらハンゲツでも教えられるでしょ」
「そういえば、教科書で勉強してる途中でしたね」
本はあらかた読み終わったので、次は実践を始めるくらいのところまでは来ていた。
「別に、わたしが教えてもいいし」
ミカヅキがちょっと素っ気ない口調でそう言ったけど、たぶん照れ隠しなんだと思う。
「それは助かります」
「毎日は無理だからね。わたしも研究しなくちゃいけないし」
たぶん、ロクサイをもう一度使い魔にする方法を探すんだろう。
「クルッ」
「イナリはちょっと食べ過ぎじゃない?」
くれくれのポーズで追加のお菓子を所望してきたので、指先で顎下を撫でた。
「とりあえず一度、師匠のところに戻って相談しようとは思ってます」
「まあ、それがいいかもね」
そうやってしばらく話をしてから、夕方前にはたそがれの魔女の屋敷を出て家に帰った。