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やみあがりの妹とあそんでくれる黒犬

 白狼に送ってもらって屋敷まで戻ってきた。

 ずいぶん久しぶりな感じがしたけど、実際は今朝出てきたわけだから半日くらいのことだ。

 でも、本の世界に没頭していたせいか、ずいぶんと時間が経ったように思えた。

 門を抜けて屋敷の側まで来たとき、妙な気配に気付いた。


「クルッ」


 ほぼ同時にイナリも気付いて、肩の上からこちらの方を覗き込んでくる。


「この魔力、なんだろう」

「キュッ」


 イナリはぐっと背を伸ばし、やる気のあるポーズだ。

 とにかく様子を見に行かなくちゃいけない。


「庭の方かな」

「クルッ」


 屋敷の横の庭園を通って、気配のする場所に向かう。

 広場まで来たとき、見知った魔物の気配が混ざっていることに気付いた。


「バウルと……あれはリンドウ?」


 芝の植わった広場に足を踏み入れると、その中ほどに小さな女の子と黒犬の姿が見えた。

 わたしが足早に近づいていくと、途中で気付いたのか、リンドウがこちらを向いて手を振ってきた。


「姉様、イナリちゃん、おかえりなさい!」


 今朝に比べると、ずいぶんと顔色が良かった。


「リンドウ、もう外に出ても大丈夫なの?」

「全然平気です! なんだか急に具合が良くなって……」


 たしかに見た感じ、平気そうではあった。


「でも、病み上がりなんだから、大人しくしてなきゃ駄目だよ」


 そう言って、リンドウの頭を撫でようとして気付いた。

 光の輪の色が今朝とは違っている。

 元通りではないけれど、妙な色が抜けて、普通の人間に近くなっている。

 でも、ちょっと不思議な色合いだった。

 それに輪のサイズがさらに大きくなっている。

 見たときに気づいてはいたけど、あの魔力の気配はリンドウのものだった。


「姉様、どうかしましたか?」

「なんでもないよ」


 わたしがリンドウの頭を撫でると、うれしそうに目を細めた。


「それで、こいつは何をやってるの」


 自分が話題にされても、黒犬の魔物はまったく気にした様子もなくそっぽを向いている。


「ヨイヤミちゃんと遊んでいたんです」

「そういえば、前もそんなこと言ってたね」

「キュッ」


 イナリが注意するみたいに鳴いたけど、バウルは全く気にする様子もなかった。

 妹が魔物と一緒にいるってだけで、かなり不安ではある。


「それで、なにして遊んでたの?」

「棒を投げて、それを取ってきてもらったりとか」

「え、こいつがそんなことしたの?」


 元々無愛想でそのうえ魔物なんだから、人間の言うことを聞くみたいな遊びをするとは思えない。


「ほんとうですよ。よし、ヨイヤミちゃん、いきますよ!」


 リンドウは手に持っていた短い木の枝を大きく振りかぶり、軽く助走をつけて投げる。

 枝はくるくると回転しながら、思った以上に遠くまで飛んでいった。


「さあ、取ってきてください!」


 ビシッと枝の方をリンドウが指さすと、バウルは無言でそちらの方を見た。


「ヨイヤミちゃん! 行きましょう!」


 リンドウが元気良く言うと、黒犬がなんだかだるそうな動きで歩き出した。


「頑張りましょう! もう少しですよ!」


 謎の応援をうけてか、バウルは歩調を早め、木の枝が落ちているところまでたどり着いた。

 そのまま様子を見ていると、こちらをチラリと見てから、木の枝を咥えて戻ってくる。


「ヨイヤミちゃん、ありがとうございます!」


 リンドウはバウルから枝を受け取ると、逆側の手で黒犬の頭を撫でる。

 特に逃げるでもなく喜ぶでもなく、いつもの無愛想で頭をぐりぐりされている姿がかなり意外だった。


「あんた、なにしてんの?」


 わたしが小声で聞くと、バウルはフイッと顔を背けた。


「キュッ!」


 イナリが再び叱責するように鳴いても、相変わらずの知らん顔で、別に人が変わってしまったって感じでもないようだ。


「もう日が落ちるから、屋敷に戻ろう」

「そうですね。じゃあ、ヨイヤミちゃん、明日も遊びましょう!」


 そう言われたバウルは、なんだか嫌そうな目をして押し黙る。


「約束ですよ! ね!」

「ワフ」


 リンドウが重ねて言うと、バウルは溜息を吐くみたいな声でしぶしぶと鳴いた。

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