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お茶を飲みながら迷宮事件を説明するこころみ

 わたしたちは特に決めたわけでもなく、自然と食堂にやってきていた。

 いつもの自分の席にそれぞれ座ると、どこからともなくメイドさんがやってきて、お茶を淹れてくれた。

 しばらく無言でカップから立ち昇る香りを嗅いでいると、ハンゲツがじれてきたらしくそわそわし始めた。


「それで、いったい何があったんですか?」

「すまんけど。ちょっとだけ休ませてくれ」


 アカツキがお茶をゆっくりと飲みつつそう言った。


「ずいぶんお疲れのようですね」


 ハンゲツが諦めたようにカップに手をつける。

 気が緩んできたのか、わたしの体も疲労で重くなってきていた。

 しばらく、そうやって無言の時間が続いた。


「ハンゲツさんは卵の魔物のこと、知ってますか?」


 どこから話し始めたものかひと通り迷ってから、わたしは思いついたことから話すことにした。


「もちろん、知ってますよ」


 特に驚いた風でもなく答えが返ってきたところから見るに、別に秘密の話とかではないらしい。


「魔物の王から先生に下賜された、卵の魔物のことでしょう?」

「そうです。直接見たことってありますか?」


 ハンゲツはちょっと考える風に顎に手を当てる。


「かなり昔に見たきりですね。もう何十年も前です」


 その言葉に驚いたけど、やっぱりと思う部分もあった。

 見た目はアカツキ達と同じくらいの歳に見えたけど、前にミカヅキがここに来た頃の話をした時、小さくてかわいかったとか言ってたから、実は結構年上なのかなとは思っていた。

 さすがに何十年も前の話をされたのには驚いたけど、魔法使いだから何らかの方法で若作りしてるんだろう。


「地下の奥で、わたしたちはその卵の魔物を見ました」

「迷宮の中ですか?」


 わたしが頷くと、ハンゲツはちょっと考えるように押し黙った。


「なあ、あの卵の話って実際にあったことなのか? いや、あったんだろうけど、なんて言うか、どうにも妙なことばかりだからさ」


 アカツキが眉をひそめてこちらを見た。


「ほんとうだと思いますよ」

「えっと、地下で何があったんですか?」


 ハンゲツが訊いてきたので、迷宮で起こった出来事を、なんとか時系列順に説明してみる。

 自分でもよくわからないところもあるくらいだから、上手く伝わらないかもしれないけど、アカツキの話も聞きながら、なんとか話しきった。

 わたしがこの奇妙な体験を説明する間、ハンゲツはずっと無言だった。


「わかったような、わからないようなお話ですけど、それってつまり何が起こったんでしょう。今のこの事態に関係あるってことなんですよね?」

「どうだろうな。そうかもしれんが、正直なにがなんだかわかんねぇよ」


 表情からして、アカツキは最初から諦め気味だ。


「たぶんこういうことじゃないでしょうか」

「カナエさんにはわかりましたか?」


 ハンゲツが目を軽く見開く。


「自信はありません。あくまで仮説というか」

「是非、聞かせてください」


 好奇心がうずいたらしく、ハンゲツの長い背がぬうっとテーブルの上に乗り出す。


「先生は、卵の魔物を使い魔にしたんじゃないでしょうか」

「魔物を使い魔に?」

「そんなこと出来るのか?」


 二人からすぐに疑問が返ってくる。

 たぶん、これは魔法使いの間では非常識なことなんだろう。


「特殊な魔法を使ったんだと思います。ロクサイをミカヅキさんの使い魔にしたのと同じものではないかと」

「なるほど。さっき聞いた話からすると、普通の使い魔とはまったく違いますね」


 どうやらお互いの命すら繋がるような魔法だったらしいけど、一般的な使い魔にはそこまで強い結びつきは生まれないみたいだ。


「たぶん魔物の魔法をつかったんだと思います。卵の魔物を使い魔にして、魔物の魔法を手に入れたんじゃないかと」

「なんかそれ、前後が変じゃないか? 魔物を使い魔にしたことで魔物の魔法を手に入れたのに、その為の魔法が魔物の魔法だってのか?」


 アカツキの疑問は、わたしも悩んだところだった。


「正直、そのあたりはよくわかりません。とにかく、魔物の魔法を手に入れて、その後にミカヅキさんとロクサイに出会って、二人を助けます。これが十年くらい前ですね」

「そうです。結局、先生はミカヅキさんを弟子にして、ここに連れてきたんです」


 ハンゲツが懐かしそうな目をして頷いた。


「それから三年後、何らかのトラブルが起こります」

「何らかってなんだよ?」


 当然の疑問だ。


「それはわかりません。たぶん、魔物を使い魔にしたことが原因なんじゃないでしょうか。それで先生は大きく力を落としました」

「アカツキさんはまだここに来てませんでしたが、それって七年前の事件のことですね」

「ああ、なんか話は聞いてるけどな」


 アカツキはいまいちピンときてないみたいだ。

 初めて会ったときから、たそがれの魔女は今の状態だったんだから、彼女にとってはそれが普通なのかもしれない。


「それで先生は卵の魔物を地下に閉じ込めたんじゃないでしょうか。そしてわたしたちを送り込んで、卵の魔物を倒すような課題を出した」

「なるほど。でも、課題は迷宮の奥に到達すること、だったような……」

「だいたい、倒したいなら先生が自分の魔法でやればいいじゃないか。地下に閉じ込めることは出来たんだろう?」


 そうなんだよね。

 いろいろ理屈はつけられそうだけど、自分でも詰めが甘いとは思う。


「なにか、それが出来ない理由があったのではないかと……」

「ちょっとあいまいというか、わからないことだらけだなあ」


 アカツキが大きな溜息を吐く。


「まあ、すぐに全部解決するってものでもないでしょう。これから考えていけばいいのでは?」


 ハンゲツがやさしく微笑んでフォローしてくれた。

 確かにわかっていないことが多すぎる。

 でも、どこかにヒントがあるような気もする。

 違和感を覚えるところが、いくつかあるのだ。

 でも、日が傾いてきたので、とりあえず今日のところはお開きにして、わたしは屋敷に帰ることに決めた。

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