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鳥の魔物が先か、卵の魔物が先か

 飛び回る鳥の嵐の中で、部屋の奥に誰かが倒れているのが、わずかに見えた。

 突進してきた黒い鳥のほとんどは、そのままわたしたちが来た通路へと飛び去っていく。

 アカツキが姿勢を低くして鳥のくちばしを避けようとしている。


「ちょっと中の様子を見てきますけど、アカツキさんは扉のところで待っててください!」 

「いや、ここはオレが行った方がいいだろ!」


 普通に考えれば前衛のアカツキが突入するべきなのかもしれないけど、今回はちょっと嫌な予感がする。

 わたしが軽く目を凝らすと、辺り一面に不気味な紫色の光があふれ出した。

 やっぱり、これ鳥の魔物だ。

 説明する時間が惜しかったので、わたしは魔力の気配を押し殺すのを止めて、頭の上の光の輪を強く廻す。


「おい! それ、なんだよ!」


 アカツキが目を見開いてこちらを見ている。

 このくらい強いと、彼女でも魔力の大きさがわかるみたいだ。


「合図をしたら、扉を閉めてください!」


 そう言って、わたしは部屋の中に飛び込んだ。

 魔力を込めた短剣を振り回しながら、身体能力も強化していく。

 黒い鳥の魔物が次々とぶつかってきて、それを剣で払いのけると、クシャリとまるめた紙みたいに萎れて消えていく。

 短剣を振りかぶって大きく揮うと、一瞬目の前に道が開かれた。

 

「やっぱり、ミカヅキさんたちだ」


 鳥の嵐がわずかに切れ、そこにミカヅキとロクサイの姿が見えた。

 折り重なるように倒れていて、意識を失っているのか、ピクリともしない。

 まさか死んでるってことはないよね。


「これ、立ち止まったらまずいな」

「キュッ」


 わたしは吹雪の中を突き進むみたいにして、なんとか二人の元にたどり着いた。

 ミカヅキを守るようにして、ロクサイが覆い被さっている。

 黒い鳥の魔物達から彼らを守るため、短剣を大きく振り回しながらしゃがみ込む。

 ミカヅキは無事そうだけど、ロクサイがまずい。

 怪我をしているらしく、身体のどこからか、流した血があたりに大きく広がっている。

 触ってみるとまだ体温はあるし、息もしてるけど、かなり弱ってる感じがする。


「なんとかしないと」


 思わずつぶやきが口から漏れる。


「クルッ」


 首の周りでマフラー状態になっているイナリが、どうするのって言うみたいに鳴いた。

 考えてみる。

 二人を引っ張って外に出るのは難しい。

 全ての鳥を倒すのはどうだろう。

 どれだけいるのかもわからないのに?

 わたしは、姿勢をより低くしながらあたりを見まわす。

 大広間と言っていいくらいの部屋。

 そこに大量の鳥の魔物が飛んでいる。

 黒い渦の流れがどうなってるのかをつかもうとして、気付いた。


「白い、卵?」


 渦の中央、部屋のまんなかに、人の背丈くらいの大きな卵が浮かんでいた。

 その白い素焼きの陶器のような殻には罅が入っていて、欠けた殻の中から無数の鳥の魔物が飛び出してきていたのだった。


「なるほど」


 始まりがあれば、たいてい終わりがある。

 わたしにはそれが一枚の絵のように見えた。


「クルッ」


 イナリが鼻先をわたしの頬に近づけて、何って感じの声で鳴く。


「今このときが、この物語の終わりってこと」


 どうすればいいのか、わたしにはわかった。

 服の内側の隠しに手をあてて、堅い感触を確かめる。


「アカツキさん! 扉を閉めてください!」


 外からは見えないだろうけど、とにかく目撃者は少ない方がいい。

 鳥の魔物からも見えないように、ミカヅキとロクサイに覆い被さるようにして空間を作った。


「クルッ」


 気を利かせたイナリが、隠しの中から小さな袋を咥えて引っ張り出してくれた。

 わたしは袋の口を広げ、指先で<それ>をつまみ出す。

 背中に次々と鳥がぶつかってきて、嘴で傷をつけられていく。

 長くは耐えられそうにない。

 頭の上の光の輪をさらに勢いよく廻し、身体を魔力で満たすと、痛みは多少楽になった。

 あまり時間はなかった。

 いろいろ考える余裕が欲しかったけど、しかたない。

 わたしは自分の身体で作った隙間に<それ>を軽くほうり投げた。

 石畳に跳ねているあいだに、小さな声でつぶやく。


「いまこの場所では、これの存在に誰も気付きませんように」


 転がった<それ>が動きを止める。

 表側を向いて落ちているのが見えた。

 もう一度。


「ミカヅキとロクサイの命が助かって、すぐにここから出られますように」


 小さくつぶやいて、<それ>を再び転がす。

 堅い金属質の音を立て、何度か跳ねてから地面に落ちた。

 裏だ。

 大丈夫。

 何か問題がおこったら、もう一度使うと決めていた。


「キュッ」


 イナリが警戒の鳴き声を上げる。

 わたしは素速く<それ>を拾い上げて、小さな袋の中に押し込んだ。

 まちがいなく、何かが起こっている。

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