第8話:邂逅編⑦
一面、見渡す限りの闇
川の浅瀬を歩くようなバシャバシャと液体に足をつける音が
メグルが歩く度に鳴る。
「はぁ、もうどうなってるのさ. . . ここは」
地平線に続く闇を、
ずっと彷徨い歩いて、
どのくらいたったのだろうか。
半ば半泣きの状態で愚痴が出てしまう。
「あの、不思議な蛇を見た辺りから記憶が曖昧だし、暗いし」
目を覚ました瞬間、辺り一面の暗闇の空間に放り出されていた。
左右正面後方、見渡す限り道はなく、当てもなく彷徨い続けていたメグルは
いよいよ少し心が折れ始める、
もうずっとこんなところで、過ごすのだろうかと。
そんなメグルの前、前方に小さい影が浮かびあがる。
子供のような大きさまでになった、それにメグルは見覚えがあった。
「あれは、僕?」
メグルの視線が捉えたのは、小さいころの自分のようだった。
あれはまだ優子や徹と仲良くなる前の時、周囲の環境に
馴染めず、常に孤独を感じていた当時の自分。
そして、そこにまた変化が起こる。
小さいメグルの周りに優子と徹が現れる。
体育座りで顔を膝に埋めていたメグルが、
二人の幼馴染を視界に入れ、笑顔を浮かべる。
立ち上がるメグルと、
二人が仲良く3人でどこかにかけて行った。
場面がまたもや変わる、
今度は現在のメグルたちの関係だろうか。
徐々に二人から離れる、メグルと二人に集まる視線と人の波
そして見てしまった、あの告白のシーン。
まるで、今までの記憶を振りかえされているような光景、
現実の刃を喉元まで 突きつけられているような感覚だった。
そんなメグルの目の前の光景がまた闇に紛れ、今度は
周囲にぽつーう、ぽつーう、色がつき周囲に広がり始める。
暗闇でなにも見えなかった光景に
ある景色が浮かび上がる。
「王座?」
一切の闇が晴れ、空間の全体像が把握できるようになった。
玉の間とでも、言うのだろうか
絢爛豪華な装飾に床を真紅のカーペット。
そして一際高い位置にある王座に
朧げに人影が浮かび上がる。
『我、環を司りし神蛇なり。
世界を眺め盟約を順守するものなり
汝、我が意に答え、意を示せ。』
と
はっきりとした口調で、
部屋全体に響き渡る声。
突然の宣誓に、固まるメグル。
怖ず怖ずと、相手の行動を伺うように答える。
「えっと、意を示せってどうすればいいのでしょうか?」
人影はなにも答えない。
あぁぁぁと頭を抱えるメグル。
相対する人影からは視線を感じるのみで、
何かしらのアクションを起こしてこない。
「 今度は突拍子のない質問かぁ. . .」
先週までの日常が懐かしい。
とさえ思う程、今の状況が異常であることは理解している。
自分の不運を恨めしく思いながら、
頭を抱えくぐもった声で、ボソボソと呟く。
なんとか冷静さを保とうとするメグル。
ふと、なんだか違和感を感じ、足元に視線を落とす。
とレットカーペットの床が水面のように波打ちながらメグルの足を
飲み込んで行こうとしている。
「うわぁぁ」と
情けない声をあげ、まるで沼のように変化した床に足が 取られそうになるのを
はまらないように交互に足を大きく上げながら移動する。
周囲を探して、まだ侵食らしきものを受けていない床に移りながら、
メグルは王座の目の前へと移ってくる。
人影とメグルの距離がどんどんと縮まってくる。
なんとか落ち着ける場所まで移動し
人影を目の前に捉えながら、メグルは先ほどの質問を思い出す。
そもそも、人影が伝えていきたこと自体、曖昧で要領をえない
なんとなく、自己紹介と何かしらの意思に従えというものあることは理解した。
相手が主導権を握っている中で、果たして質問をする意図があるのだろうかと思うが、
同意を示せということは自分の同意が
何かをするために必要なことであるということだとメグルは予測している。
「とはいえ、八方塞がりな感じだなぁ. . .」
相手の返事に答えないことで、ここから抜け出せるという保証もない、
着々と床の沼化はその侵食は進んでおり、
メグルをゆくゆく飲み込んでいく未来を描くことは難しくなかった。
時間も有限、うかつに動けない。
そんな状態を打破しようと、何かないかと考えているメグルの耳に
かすかに誰かの声が聞こえた気がした。
−−メグくぅぅぅぅんん
−−メグくうぅぅぅぅぅんんん
−−メグくうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんんんんんん
「えっ?」
確かに、優子の声がささやきのような小ささから、
徐々にはっきりと聞き取れるまで、大きくなってきた。
しかし辺りを見回してみても、
優子らしく姿を捉えることはできない。
「優子?どこにいるのさ!」
大きな声で、まだ姿を捉えることができない優子に呼びかける。
「ここだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ピカリッと頭上に光が現れる、ゆっくりと宙に浮いているその光だ、
その落下地点に合うようにメグルが駆け出して移動する。
その全貌が捉えることができる頃には、その光の中に優子がいることが確認できた。
メグルが自分の手をその光に向かって差し出すと、光からその手を優子が握り返す、
その瞬間に光が消え、優子はメグルの元に舞い降りたのであった。
「君、どうやって. . .?」
「櫻子さんって人に、お願いしたの。」
「櫻子さんが?」
メグルにとってみれば、全くの予想外の人物の名前だったが、
あの人ならやりかねないと心のどこかで思ってしまう。
そもそもが、星見事務所の開かずの間から始まってしまったことであり、
櫻子が部屋の中のものに関して、知らないはずはないのだ。
「でも、優子、なんで君までここに?」
「メグ君が突然いなくなっちゃうからでしょ!. . .それで私、探しまわってやっと見つけたと思ったら、なんかよくわかないことになってるし. . . 」
と堪えていたものが崩壊したようにボロボロと涙を流す優子
どうやら、相当心配をかけたようだと、まだそこまで心配してもらえていたんだと二重の意味で、優子には悪いが、嬉しくなってしまったメグル。
そんな感情が表情に出ていたのか少し笑みを浮かべる。
しかしそれは、よからぬスイッチを押してしまったようで、
「もう、人がこんなに心配しているのになんで笑っているのかなぁ、本当にいつもメグ君は勝手だよ、人の気持ちを考えないで. . .」
いつもの優子節によって
言葉がひっきりなしに投げかけられる。
「いや、ゆ、優子、落ち着いて、わ、悪かったから」
「もう、反省してる?」
ぐっと近づけられる顔にメグルは狼狽える。
「汝ら、いい加減にせよ」
その言葉を皮切りに、人影より強風が二人に打ち付けられる。
ぐっと優子の前に守るように出てなんとか、直撃を軽減する。
正面を位置する場所で例の人影はあいかわらず動かない。
しかし、先ほどよりも、明らかに威圧感は上がっていた。
「あ、メグ君ありがとう」
目の前の敵から視線をはずさずに、
ゆっくりと距離を取る。
優子がここにいる理由を考え、櫻子から何か打開する手立てを聞いていないかと
「それより、今はここから出ること考えよう、何か、櫻子さんから聞いてない?」
「えっと、えっと」
うーん唸る優子は、櫻子の言葉を思い出す。
『いいかい、メグル君はおそらく試されているはずなんだ。
そこから抜け出させるには力を示すか、外部から強制的に介入するしかない。ただ、今の私ではそこまでの介入は難しい。せいぜい君をメグル君のところまで送るぐらいしかできないだろう. . .これから行くであろう空間では意思の強さがものをいう
結局のところ最後はメグル君次第だ』
「メグ君の意思しだいだって」
「櫻子さん. . . 」
まさかの根性論近しい内容に、どうすればいいんだぁーと嘆くメグル。
もっと、何か良い作戦を優子に託したんじゃなかったんですか!と
くぐもった笑い声を漏らす。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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