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第7話:邂逅編⑥



その存在は揺蕩う者、再生と破滅を司り、流転を繰り返す。

その瞳に映るのは流転を繰り返す度、変革を遂げる世界の姿。


変革の時は近い。

我の目覚めが転換期の兆し。


世界に傅き、運命と踊ろう

自分はそういう存在なのだ。


だとしたら、まずは依り代を探さなければと

その存在は自分を囲む鉄の檻に視線を向けた。


忌々しく、自分の力を封じる様に出来ている檻をなんとか壊そうと試みるも、

自分の体が気づくばかりで一向に開く気配がない。


しかしその時

その存在はあることを感じとる。


それは何者かがここに近づいている音、


そしてその存在とメグルは対面したのであった。


いくら力を封じようともこの距離であれば、たかが人間を操ることなど容易いと

メグルに扉を開けさせた。


開けた扉から出たところで、目の前に立つ人間になぜか懐かしさを覚えてしまう。

波長は合っている。まさにその存在にとっては絶好の依り代で合った。


おそらく、この人間は我の為に用意されたのだと

自己完結しているメグル、いや今はメグルの体を使い、外へと踊り出したウロボロスハートはそう達観した。


メグルに憑依、いや乗っ取ることに成功したウロボロスハートは 星見事務所を後にして、散歩に興じていた。


夕刻頃ということで、家に帰ろうとする子供や部活帰りの学生がいる中で、

ウロボロスハートは周りからの視線を集めている。


もちろん姿形はメグルであり、とりわけ彼自身、おしゃれなどとは縁遠い。

それゆえ、一見普通の少年なのだが、


一部普段と違う変化が彼の体に生じていた、

それは頰から肩にかけて刻まれた紋様であった。



本来、別次元に存在している高位生命体である刻聖(ディナミス)

なんの力もない人間にとって見ることは愚か、第6感でも感じることはできない。


それゆえに、一般人にまで見えてしまう、その状態は今のメグルとウロボロスハートの関係性を示すかのように不安定なのである。


だが、そんなことは何のその、


「人間、大. . .した存. . .在. . .ゆえ」


辺りを見回しながら、まだコントロールできない言語中枢を、言葉数が少ないながら、呟くウロボロスハート。

その表情は興奮冷めやらぬと言った様子である。


その歩みは、道、裏路地、商店街とメグルの住まう街を踏破していき、

最後にある公園へと行き着き、近場のベンチに腰掛ける。

すでに、辺りは夕方を過ぎ、真っ暗な公園内を街灯の灯りが周囲をともしている。


「我、満足。ゆえに, , , ,」


しかしその言葉は最後まで、つぶやかれることはなかった。


「見つけた. . . . ッ!」


その声の主は、ゼェゼェと呼吸を荒く、

疲れ切った表情で、ウロボロスハートの目の前に立ちふさがった。


息を切らした優子とメグルが

対面で見つめ合う

しかし、正しくはメグルではなくウロボロスハートであるのだが。


なんとなくメグルの異変を感じ取った優子は

恐る恐ると言った感じで尋ねる。


「えーっと、メグ君ってそんなタトゥー入れてたっけ?」

とぼけたように言った。


しかし優子の質問にも

ウロボロスハートはピクリとも表情を変えずに何も示さない。


ウロボロスハートは突然現れたその人間に、別段驚くわけでもなく、

ただ淡々と眺めているだけだった。


明らかに様子のおかしいメグルに、もっと直接的に

優子は彼の肩をに手を置き力のかぎり揺すって見た。


「ねぇ、どうしちゃったのさ、メグ君ッ!私、ずっと捜したんだよ。

 何で何にも言ってくれないの!」


「汝、何者ゆえ?」


数時間ぶりに聞いたメグルの言葉だったが、

抑揚のないその言葉に衝撃を受けた優子は、少し後ずさってしまう。


「な、何を言っているの、メグ君。ねぇ、ねぇ ねぇってば!」


「汝、離せゆえ」

「何が、【ゆえ】よ!、変な語尾つけて、何なのさ!」


メグルの体の両肩を掴んだまま

言葉を詰まらせ、うつむき、体を震わせる優子。


一方で、

ウロボロスハートはその瞳の奥に剣呑を感じさせる。

優子の存在を煩わしいと感じ始めていた。


ウロボロスハートは座っていた姿勢から立ち上がり、


「あ. . 」と声を漏らす優子は

立ち上がったウロボロスハートから手を離してしまう。


その優子に向かって手をかざす。


「汝、消えよゆえに」

「きゃッ!」

いきなりの閃光に悲鳴をあげる優子


瞬間、ウロボロスハートの手のひらから金色の靄が溢れ出し優子の体を包みこもうとする。


もう少しで優子の身体全体を覆う、その時


ザンッとウロボロスハートと優子の間の靄を断ち切るように、何者かが二人の頭上から訪れる。


空中に霧散した粒子に降り立つ人影


「困るのよねぇー、うちの可愛いバイト君の体で、そういうことしちゃうのわ」


いつもの作業着とは、うって変わって

周囲の漆黒に溶け込むような服装を

纏った夜霧櫻子がそこにいた。


なんとか間に合ったわね。急いで来たのだろうか

かすかに呼吸の乱れを感じさせる櫻子だが、


「汝、何者ゆえ」

櫻子はウロボロスハートの言葉を無視しながらも、

横目でその姿を視界にいれながら、尻餅をついた優子の隣にいく。


「あなた、大丈夫?」

「は、はい」


この現実離れした光景に、

呆然としていた優子だが、


突如現れた絶世の美女にかけられ

いくぶんか冷静さを取り戻す。


「えっと、ありがとうございます?」


「その天然なところはお姉さんの評価ポイントね、でも. . . ッ」



と言いかけた櫻子は突然優子を横抱きで抱え上げ、その場から飛び退く。


飛び退いた場所には


ウロボロスハートが二人に向けてけしかけた

金色の靄が漂っている。


「不安定な状態だから、まだ力の残滓しか扱えないみたいね。」


世界最悪と言われたウロボロスハートの力、

もし本来の力で、迫られれば、あっという間櫻子達が殲滅されることは自明の理。


その状態に陥っていないことに、櫻子は理解し、突破口を見出していた。


もちろんこのままあの不安定な状態が続くことは世界しいて、メグルやウロボロスハートにとっても良くない事態を発生させる。


幾つかの対応策と状況を鑑みる、

メグルを観察しながら作戦を絞っていると

視線をメグルに向けている優子がこちらに向き直る、


「あ、あの、あなたは?」

「私?うーん、なんて言ったらいいかしら、まぁメグルくんの保護者みたいなものよ」


すると、メグルに再度視線を戻しながら、悲痛な声を漏らす優子

「あの. . . メグ君は大丈夫なんでしょうか?」


「. . . 」


「私、ちゃんと話せてなくて. . .だから. . 」


うまく整理がつかず、拙い優子の言葉を聞きながら

櫻子は優しく、安心させるように抱きしめる


その心中で、なんとなくメグルの言っていたこの子が優子なのだろうと確信を持ちながら。


「大丈夫よ、こんなところで大切な男手を失ってたまるもんですか。」


優子の頭を撫でながら、

櫻子は微かな可能性にかける決断をした。


ちょうど、彼女が考える作戦のピースも揃っている。


胸に抱いた優子を離し、同じ目線で語りかける


「いいよく聞いて、メグル君は今、暗い闇の中にいる。彼を助けるには、貴女の力が必要なの。彼の心に響く貴女の声が。でももちろん無理強いはしないは、これはあなた自身にも危険が迫る行為なの」


「私が手伝えば、メグ君は元に戻りますか?」

覚悟を決めたその表情に、櫻子が頷き返す。


優子が思案したのは本の数秒の時間だけ、

危険が迫ることに全く躊躇なく答えを出した。


「私やります。」


力強く頷いた優子に


「ありがとう、優子ちゃん。」

了承してくれた優子に深く感謝しながら、

櫻子はウロボロスハートに向き直り、メグルを助ける準備を始める。


一方ウロボロスハート


目の前の女が何かを準備して始めていることに気づく。

もう一人の女はさっきと違って騒がしくない。


立ち去るのであれば、見逃してやるのもやぶさかではないが。

あの表情は何かしてくると、ウロボロスハートは警戒体制に移行した。


といっても本来の力の1%も満足に扱えない不安定さ、

せいぜい見せかけの力で相手を威圧するのが、限界だった。


ウロボロスハートの警戒体制を感じとったのと、準備ができたのが同じタイミングだったのか

優子に少し後ろに下がってなさいと伝えると

櫻子はウロボロスハートに向かって駆け出した。


もちろん不安定とはいえ、ウロボロスハートが憑依しているメグルの身体能力は

並みの人間と比較して大きく向上している。


今のウロボロスハートにとっても、櫻子の動きは余裕で対応できるものだ。

迫り来る櫻子にカウンターを合わせるようにメグルの体をなんとか操り拳を繰り出す。


拳が当たるギリギリのところで、

たしかに「ふふっ」と微かに櫻子の笑い声をウロボロスハートの耳が捉えた。


そして、拳が櫻子に触れた瞬間

櫻子の身体波打つように弾けたと思うと、

その粒子が、ウロボロスハートを包み込む


「(我、動けず、、、)」

身体を締め付ける圧力に

身体が自由に動かせない。


ぴたっと、いつのまにか後ろに移動していた

櫻子はメグルの背中、中心の辺りに手の平を当て作戦の最終段階に移行しようとする


「優子ちゃん!」

「はい!」


櫻子の呼びかけに、今まで遠くから状況を見守っていた優子は側まで駆け寄る。


櫻子が空いているもう片方の手を優子に向けると暖色の光が優子を包み込み、球体状になる。


そしてもがくウロボロスハートの背中

に向けて


「優子ちゃん、うちの男手を頼んだわよッ!」

そう言い放ち、優子が入った球体をぶつけたのだった。


メグルの背中に触れた瞬間からみるみる小さくなっていく球体はそのまま、ウロボロスハートの中へと入って行った。

あたりが静けさを取り戻す。


「まずは、第1段階終了といったところかしらね。」


ふぅと大きく息を吐いた、櫻子の横顔に大粒の汗が一雫流れ落ちた。


最後までお読みいただきありがとうございます。

引き続きお楽しみいただけますと幸いです。

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