第6話:邂逅編⑤
その耳ざわりな音は少しの間で収まったが
しかし次の瞬間、
何かを叩きつけるような、動かすような音が聞こえてくる。
今度は定期的になるその音にゆっくりゆっくりといった様子で近づいていく。
音の方に顔を向けると、そこは
星見事務所の中で、唯一櫻子から立ち入り禁止を伝えてられていた場所だった。
そもそも扉自体が、人を寄せ付けないような薄気味悪い雰囲気を醸し出してる。
星見事務所の他の扉に比べて、やけに古びた木材での材質
極め付けは扉の4角に札らしき物が貼られていることだった。
メグルは恐る恐るといった様子で扉に顔を近づけ、耳をすまそうとする。
しかし、微かに寄っ掛かった扉はギィという、耳ざわりな音を立てて開いてしまった。
「開いちゃった」
メグルの呟きは、その扉の奥の
薄暗がりの虚空に消えた。
音はあいもかわらず、なっている。
「. . . 」
無言のまま一歩を踏み出し、その片足を扉の中に入れていった。
メグル自身、なぜそう判断したのかと問われれば、それは色々と、起こりすぎたからだよとリミッターが外れた状態に近かったようであった。
もちろん、泥棒の可能性も捨てきれなかったが、
何はともあれ、一番の悪手を選択してしまったのはいうまでもない。
先の見えない、暗がりの部屋の中をメグルは手に持った携帯の明かりを頼りに進んでいる。
どうやら、この部屋は物置部屋らしい。
メグルを挟んだ両脇の棚には
見たこともない生き物のホルマリン漬けや
気味の悪い人形、悲壮感漂う絵画
より一層、メグルを恐怖に落としいれるものが設置されている。
ビクビクしながら奥へと進んでいくと、それに比例して。
聞こえる音はだんだんと大きくなっていった。
そしてつい手にメグルの視線はあるものを捉える。
同時に、金色の粒子の様なものが
舞っては消えを繰り返している
思わず、息を呑むメグル。
「蛇?」
大きめの段ボールを思わす、鉄製の籠の中に
1匹の蛇がいた。
大蛇のような大きさはなく、手から肘ぐらいの長さ。
真っ白な地肌に、灰色の紋様がところどころ
確認できる。
しかも、よくよく観察してみれば
体全体が発光し浮いているように見える。
長くない体を一生懸命振り子の
ように動かし、籠の扉を壊そうと
しているようだ
しかし、その体躯が籠の扉に当たる度に
その蛇から金色の靄が現れ、消えていく。
まるで、その蛇自身の命の雫のように。
その光景をずっと見ていたメグル。
あまりに現実ばなれした現象に
理解が追いつかない。
そんなメグルに、蛇が気づいたように視線を向ける、交差する視線。
その内、メグルはその眼差しに当てられたかのように、意識が混濁してきた。
メグルの意識に反するように、
鉄籠の扉を開けようと腕が動き出す。
蛇の瞳が怪しく輝いて、
「. . . 」
ガシャんと音を立てながら、扉がメグルの手によって開け放たれた。
朦朧した意識のメグルの前に、プカプカと浮いた蛇が近づいてくる。
次の瞬間、ありえない程大きく口を開いた蛇が自分の体長の5倍はあるだろうメグルを飲み込んだかと思うと、
その場を中心に金色の波動が次々に現れ、どんどん広がりを見せていく。
そして、今度はまるで巻き戻しのような動きで、波動が発生点へと収束していきパッと、光が部屋を覆った。
-◆-
【聖刻府】、そこは【刻聖】と呼ばれる存在によって
許可されたものしか立ち入ることができない別次元の空間世界。
聖刻府は、刻理界と呼ばれる世界とメグルたちの住む世界の間に存在する場所。 そこにあるのは空と、城を思わせる建物のみ。
城の周りに見渡せる程度の大地と周りを覆うように存在している一面の空
実界の摂理を一部、反映しながらも、幻想的に構築された建物全体が聖刻府の本部【刻理城】である。
その最上階、【七天】と呼ばれる、最上位に位置する刻聖に選ばれ刻約を結んだ者たち、 聖刻府のメンバーの中でも上位に位置する存在が今、一同に集結していた。
7つの席とさらに奥、神聖な何かを隠すように薄いカーテンがされた奥間に一人
と、さらに壁に背預け、立っている複数の人間がこの部屋にいる。
室内に重苦しい雰囲気が漂っている、誰一人喋らない状態の中、
一人の女性が、壁側から前へ進み出る。
クールな面持ちで、縁がハッキリとした眼鏡と聖刻府の制服を身にまとった長身の女性が声をあげる。
「こちら、聖刻府情報部の【奏京子】でございます。本日、緊急招集させていただきました事案に関しまして、ご説明させていただきます。
夕刻頃、表世界で、刻約の儀の刻波をキャッチしたとの情報を捉えました。」
部屋にざわざわとした声がそこらじゅうから聞こえてくる、騒がしくなる空間に、
薄いカーテンの奥から幼い、しかし力強い少女の声が投じられた
「本来であれば、刻理界敷いては、刻力で満ちている、聖刻府の中でのみ可能な契約の儀。 自力で行える刻聖は神蛇ウロボロスハート. . .かの者しかいませんね。」
またシーンと静まる空間に京子が言う。
「天子様のおっしゃる通り、確認されたのは神蛇ウロボロスハートの刻波に違いありません。 前刻印者との破刻以来、行方知らずとなっておりましました刻聖です。
情報部としては、七天様のどなたかに 現地に向かっていただきたいと考えております。」
7つある席の一つにだらしなく腰掛ける20代後半過ぎの男、
着崩した和風の浴衣を着ており、その腰には刀がぶら下がっている。
「止めるなら、今ですかねぇ?天子様ぁ~」
その男が、全く礼儀を感じさせないユルい喋り方で天子と呼ばれた少女に問う
「道航、貴様、天子さまになんて口の利き方をッ」
対面に座っているその男とは正反対のような、シャキッとした気の強そうな顔の女性が道航の言葉使いをたしなめる。
「まぁまぁ、固くなんなよ~、椿さんよぉ~」
手をプラプラとさせる態度に
「その態度が気に入らんのだ」と
怒気を強める女性に対し
天子が二人に視線を送ることで、その場に静けさが訪れる。
「道航、ことは慎重を要します。一応、あなたが行くのであれば椿をつけますが. . .
いいですか、 第一優先すべきは 無垢の刻聖であるウロボロスハートの保護です。
契約者のいない刻聖ほど、暴走した際の危険性ははかりしれません。」
「じゃあ、難しいそうだったら依り代を破壊してウロボロスハートの保護ですかねぇ~」
「最悪の場合は、それもいたしかたないでしょう。最大級に配慮しなければならないのは転化と暴走です。」
天子の言葉に了解と言うと大人しく黙る道航と
椿と呼ばれた女性は天子に最大限の同意をしめすように相槌を打ちながら目を輝かせながら見つめ返すのだった
すると、
揃ったメンバーの中でも一際大きな体躯に凶暴な顔立ち、野生の獣を思わせる風貌の男が声を荒げながら席から立ち上がる。
「とりあえずよぉ、いろんな事態を想定して強ぇ奴が行けばいいんだろ。
俺にも行かせてくれよ、最強最悪のウロボロスハート。俺が見定めてやるよ」
「おお、えらく積極的じゃないのさぁ、不動旦那よぉー」
「おうよッ、なんたって相手が大物だからなッ!」
不動と呼ばれた男の勢いに、道航も悪ノリするように、同調していく
隆起している鋼のような高身長筋肉男、不動
と
だらしなく椅子に座り、大笑いしている品のない男、道航
なんだかんだの似た者同士の二人に周囲の人物たちは呆れた様に頭を抱えた。
その二人に対して、
「おい、貴様ら、天子様のお言葉を忘れたのかッ!戦いに行くわけではないんだぞ」
椿が注意を促す。
「へぃー」「わかっとるわい」
大の男二人の頼りない返事に
顔を手で覆う椿
「椿、よろしく頼みます。」
「はい、天子様の御心のままに。」
男二人のお祭り騒ぎのような危なげな様子に、 天子は託すように椿を言う。
なんとなく、行く面子が決まったのを、察したのか京子が話しをまとめる。
「決まりですかね、七天様からお2人、相楽道舟様、桐生椿様で。」
視線を各人に送りながら、最終的に、天子へ伺う。天子は大丈夫ですと発した。
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