第5話:邂逅編④
人の噂も七十五日
人の噂には限りがあり、放っておけば、そのうち消えてしまうという意味合いの諺である。
ただ、最初はそれなりに盛り上がりの熱が高まるわけで、今がピークなんじゃないかというぐらいの盛り上がりをここ数日見せている。
それは鳳学園きっての 美男美女である、柳オルトランド徹と雅優子が付き合っているというものであった。
噂の出所はわからないが学園はこの噂で持ちきり、
真相を解明しようとメグルの教室には連日生徒たちが押し寄せているが、
本人たちが曖昧な言葉で濁しているため
決定的な答えをみんながわからずじまい。
中には登下校を一緒にしているところを見かけたという証言も出回っており、
鳳学園全体がざわざわとざわついている様子だった。
そんな噂話、どうでも良い!とメグル自身は思っているものの、
なんとなくであるがついに来たかと、心のどこかで後悔している自分がいた。
連日この噂が出回るたびに、それぞれ二人の様子が気になってしまっていたが、
よく考えれば、もう自分には関係ない話だと頭はそう思っているメグルであった。
しかし、感情の方は思ったよりも正直で、どことなくここ数日元気ないがないメグルを武成は心配していた。
今も、席に座りながら、心ここにあらずといった様子で、窓に顔を向けている。
「はぁあ」
深いため息に武成が反応する。
「どうしたんだ?あれか、ショックだったのか?」
「いや、別にぃー」
と、まるで自分には関係ないととでもいうような気持ちでいるものの、メグルはそれ以上、反論しなかった。
そんなメグルを横目で優子が観察しているおり、何かを言いたげに見つめていることを彼は気づいていない。
放課後
学校帰りにメグルは星見事務所に寄った、
別段今日は来る日ではなかったのだが、なんとなく体を動かしたくて、
櫻子に頼んで、仕事の大掃除をしに来たのだ。
「それはショックを受けてるのよ」
なんでそんなことにも気づかないのかしらと首をかしげ櫻子が言う。
体は動かしているものの、
やはり櫻子にはいつもと様子が違うことが気づかれたようで
元気がないメグルに櫻子が、理由を尋ねて今に至る。
「やっぱり、そうなんですかね」
「そう簡単に割り切れるものじゃないのよ、恋愛ごとはね」
経験者は語ると言った貫禄を見せる櫻子。
「. . . .うーん」
と頭を抱えるメグル。
そんな彼に対して、世話がやけるわねぇと言わんばかりの櫻子がアドバイスした
「本人に直接聞いてみたらどうなの?気になるんでしょ。」
「別に告白するわけじゃないんだから、ほら」と
こうしちゃいられないとばかりに、メグルを追い出すように
外にほっぽりだした櫻子は
「答えを見つけるまで、帰って来ちゃダメだからねー」
と言って力強く扉を閉めたのだった。
−−別に帰ってくるもないのになぁ
と冷静なツッコミを入れるメグル。
とはいえ、櫻子の助言もその通りではあると自宅への帰路につきながら、
さらに頭を悩ました。
翌日、朝起きると、優子からメールが送られてきていた。
内容は放課後に会えないかというものであり。
昨日の今日ということで、すぐに了解と返信した。
「待ってるねー」という簡素な文書が送られてきて、その時間はあっという間に訪れた。
放課後、
わざわざ自分が帰ったという疑似事実を作り、完璧な準備の元、待ち合わせの教室の前までたどり着く、
廊下に生徒はおらず、中の様子を伺おうとしたところで、教室の中からかすかに話し声が聞こえることに気づいた。
優子以外に誰かいるのかなぁ?と恐る恐る、少しだけ扉を開くと
優子ともう一人、誰かいることが確認できた。
「あれは、徹?」
聞いてはいけないと思いながらも
耳を澄ましてしまうメグル。
「優子、僕と付き合ってほしい。」
聞き取った第一声はメグルの心を揺さぶるには十分で、
次の瞬間、その言葉の衝撃にガタと扉に足をぶつけてしまう。
こちらに向く二つの視線。
一つは戸惑ったような優子の顔と
何か言いたげな徹の表情だった。
いてもたってもいられず、
「ごめん、お邪魔しました」
とメグルは廊下をかけだした。
優子の声が聞こえた気がしたが、
最早、その真意を聞く度胸は
メグルには残されていなかった。
力のかぎり、息つく暇もなく。
ただただその場から離れようとかけだす。
自分がどこに向かっているかも、分からず、
息を大きく荒げながら、メグルが最終的に行き着いたのは星見事務所の前だった。
オーナーがいない時でも、ということでスペアのキーを持っていたメグルは
飛び込むように扉を開けて中に入った。
まるで誰にも会いたくないとばかりに。
櫻子から与えられた、専用の椅子の上に体育座りで膝に顔を埋めるメグル。
自分の心音がまるで、滝から落ちる水の様にうるさく響く。
どのくらい経ったのか、少しずつだが
冷静さが戻って来た。
「なんで、逃げちゃったんだろ」
別にたかが、告白シーンに
立ち会ってしまっただけでないか。
後悔先に立たずとはこのことだ。
「明日からどんな顔をして会えばいいだろう」
暗くなる自分の思考を振り払う様に立ち上がるメグル。
するとメグルの耳にギィィィィィという
耳に残る嫌な音が響いた。
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