第4話:邂逅編③
武成による地獄の特別面接特訓を受けたメグルは
善は急げと、いつもだったら、人見知りがゆえに躊躇する電話も、なんのその、あっという間に電話をかけることに成功した。
電話をかけてみればちょうどよく、人手を必要としていたらしい事務所の方と意気投合。あっという間に面接の日程が決まったのだった。
面接当日、武成に手伝ってもらった面接予習メモを
片手にある建物の前にメグルはいた。
2階建の建造物で、外観からは真新しさを感じとれる。
さらにデザイン事務所だけあって少し変わった形をしていた。
ただ全体的に周りの建物の影になっているのか薄暗い。
正面に玄関はなく、2階へと続く階段のみ。
階段を上り、
木目調の扉の前でメグルは迅る気持ちを抑え、インターホンを鳴らす。
「. . . . 」
ガチャッと扉がわずかに開くと、無言で扉から何かヘルメットで顔全体を覆っている人物が首だけ出して現れた。
「!?」
バッと両手で口を塞ぎ、叫び声を飲み込む。
少し、じっとしていると
「どちら様?」
という明らかに機嫌がよくなさそうな声色が聞こえてきた。
くぐもった声、聞いた感じからすると女性の声であることがわかる。
あまりのぶっきらぼうさに、すでにどことなく後悔しているメグルだったが
「えーっと、今日面接を受けさせていただく、金色メグルというものですが. . .」
恐る恐るといった様子で、名乗りでたメグルに対して、
目の前の人物の視線が鋭くなった気がした。
「うーん、確かあの子がそんなことを言ってたっけかー」
ボソボソと呟きながら
メグルの顔を舐め回すように上から下まで確認した女性はそれで満足したのか
「. . .いいわよ、入りなさい」
そう言って
メグルを部屋の中に迎え入れた。
「おじゃまします. . . .」
と瞬間、メグルは言葉を失った。
その部屋の雰囲気と女性に圧倒されてしまったのだ。
ヘルメットで顔が全く見えなかった人物がメグルの前で、その全貌あらわにする。
わさーッと解放されたような黒髪のロングヘアー、
キリッとした凛々しい顔つきの女性がそこにいた。
何かを着色中だったのだろうか様々なペンキの色が付いている作業着を腰まで下げ、露わになったタンクトップ姿に目線を奪われてしまったメグルであった。
またその美しい美女を飾るように、特徴的なのが建物の内観であった。
下から天井に吹き抜けるように開かれた部屋、
天窓から光が差しこみ部屋の中央でひときわ異彩を放っている、 大木を照らしている。
玉ねぎ型の内観の中心に木が生えてきたような構造で、周りは作業用のデスクやら、本棚が置いてあり、大木をぐるっと囲むように配置されていた。
圧倒されているメグルを横目で、満足そうに見つめている女性。
「ふふん、どう、この星見事務所は」
「星見事務所. . .」
あっけにとられていたメグルが
びっくりしたでしょといいたげな彼女の言葉をつぶやく。
「そうよ、中々素敵なところでしょ」
作業用のデスクの近くにある椅子に腰を下ろすメグル、
先ほどとはうって変わって、少し緊張感が漂ってきた。
「冷たいお茶と温かいお茶どっちがいい?」
「冷たいお茶でお願いします」
女性はメグルに背を向けたまま、棚から2つカップを取り出し、何かを注いでいる。
「まずは、自己紹介ね。私はこの星見事務所のオーナーの夜霧櫻子よ。」
2つあるうちの一つを差し出し、櫻子はそう名乗った。
「はい、どうぞ」
「あ、すいません、ありがとうございます。」
慌てたように、挨拶するめぐるに
「そう緊張しないで」
クスッと笑う櫻子。
「は、はい」
とさっきとは、まるで別人のようだと
相手の変化に戸惑ってしまう。
机を挟んで、対面でお互いを見合う二人、
メグルは櫻子を直視できずに、
ちらちらと顔色をうかがっている。
「さっきは、悪かったわね。ちょっと最近タチの悪い営業が来るようになってね、困ってたのよ」
どうやら、さっきの玄関での挨拶を言っているらしい。
あのヘルメット姿も、そのためかと、納得したメグル。
理由があったということで、自分に非がないことに胸を撫で下ろした
「あ、いえ、その話し聞いて安心しました、僕、何かやらかしてしまったかと思ってしまって. . . .」
ごめんなさいねと、櫻子からもう一度謝罪を受けたところで
さて、始めましょうかと櫻子から面接の開始がされた。
「それじゃあ、メグル君。一応、形式としてどうしてここで働きたいか教えてもらえる?」
一応、通過儀礼みたいなものでね、
あの子にもちゃんと聞けっていわれてるのよ。
と、お茶目な顔で戯けてみせる。
あの子が誰かとか、そんな理由でと
考えるよりもメグルはすぐに頭の中で答えをまとめ始める。
最初は適当に武成と作った それらしい理由を説明しようとしたが、
櫻子の雰囲気と視線になんとなく、
本当のことを喋った方が良いのではないかと考え始めた。
ブルブルと頭を左右に振り、パチンと気合を入れるように頬をたたく、
櫻子は何も言わずに、ただ少し興味深そうにメグルを見つめたままだった。
「. . .あの、少し長くなっても良いですか?あ、あとちょっと愚痴っぽくなってしまうかもしれません。」
「いいわよ、話してみなさいな」
少し優しげな声色で、OKを出してくれた、
櫻子に最近の自分の気持ちを話し始めたメグル。
「実は. . . .」
「ということでして. . .」
メグルが自分の秘めた思いを不器用ながらに言語化している最中も、
櫻子はメグルの目を見ながら真剣に聞いていた。
そして、話しが終わり櫻子が口を開く。
「なるほど. . . 真面目ねぇー」
少し笑いながらの櫻子の第一声はそれだった。
背伸びをしながら、体ほぐすようにひねる
「えっと、そうですか」
少し恥ずかしげなメグルに
「あ、バカにしているわけじゃないのよ、これでも感心してるんだから」
「感心. . .」
「そうよ、今時、そこまで考えられる高校生なんてそういないわよ。
私が学生の頃はもう毎日どれだけモテるか、カッコつけるかしか考えている男子しかいなかったわよ」
入れてもらったお茶に口をつけんながら、それはすごく極端なようなと思うメグル。
「少し前までは、そんなことなかったんです。ただ臆病で逃げ虫で。今も. . .正直変わってないかもと思っているんです。ただ漠然と何かを変えないといけないっていう思いだけあって、このまんまじゃダメだって. . .そう思ったんです。」
メグルを見つめがら、ウンウンと頷く櫻子
「行動はともかくこれからとして、何か夢中になることが見つかれば良いわね」
するといきなり、櫻子が立ち上がり、
「よし、決めた!」
と大声をあげる。
いきなりの行動に言葉が出ないメグル。
その沈黙が流れる中で、
天窓から差し込む光が二人を照らす。
すると櫻子が我に返ったように
「あら、もうすっかりこんな時間ね」と
そう言って窓から外を眺める櫻子につられるように、
メグルも外を見る。
すっかりとオレンジ色の明かりが差しこみ、メグルたちを明るく照らしている
長く話していたんだと思ったメグルは、これが面接だったことを思い出す。
「そういえば、これ面接でしたよね. . .」
やってしまったと自分のことを話しすぎてしまったかなと顔を青白くするメグルに対してにこやかに笑みを浮かべる櫻子。
「そうね、私もすっかり時間を忘れていたわね」
「あの、それで、僕の合否ってどうなりそうでしょうか」
恐る恐る聞くメグルに、先に答える。
「ふふふ、ご・う・か・く。これからよろしくね」
櫻子の言葉にメグルの表情がパァーと明るくなる。
「櫻子さん、こちらこそよろしくお願いします!」
差し出された、右手にメグルは両手で答えるように握手を握り返した。
そして、メグルは星見事務所で第2号のアルバイトになったのであった。
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