第3話:邂逅編②
夕日が住宅街の路地裏を照らし出す。
オレンジ色の光を背に受け
俯いた様子のメグルがとぼとぼと歩いていた。
答えを出したはずなのに、 もやもやとする、自分の気持ち。
そんな気持ちを押し殺すように、なんでもない、なんでもないと
メグルはズキズキと痛む胸に手を当てる。
メグルの気持ちを汲んだかのように、
彼の足は家には帰らず、ある場所へと進んでいく。
険しい階段を登り、拓けた土地の横を抜け、そして辿りついた目的の場所で
メグルの歩みが止まった。
彼を囲むようにしているのはたくさんの墓、
メグルが来たのは墓地だった。
眼前の墓、【金色獅子二郎】という名が刻まれている。
それは紛れもなく、メグルの血縁者だった。
「じいちゃん. . .」
メグルがいるはずのない祖父に呼びかける
メグルの祖父は、生前世界を旅してまわっていたトレジャーハンターだったらしい。
よく家に、知らない外国の人が遊びに来てたり、 ことあるごとに面白い話を子守唄のように聞かせてくれた祖父だった。
そんな関係性の中で、いつからかメグルは
悩みを祖父に相談することが多くなった。
それは祖父が、亡くなってからもつづいており、決まって何かあると祖父の墓石に話しかけるのが、彼にとって日常に一部になっていた。
「もうよくわからなくなったよ. . .じいちゃん」
それは幼馴染との自分の気持ちとの決別。
「もう感情なんて消えればいいのに. . .邪魔だよ. . .こんなのがあるから. . . 」
メグルのつぶやきに、返答するものは誰もいない。
うつむきながら立ち尽くすメグルに
次の瞬間、バッーと強い横殴りの風がぶつかってきた。
その強風に乗って、一枚のチラシがメグルの顔面に張り付く。
「ウプッ. . . .」
思わず体勢を崩して尻餅をつくメグルの前に
顔から剥がれた一枚の紙がヒラヒラと落ちてくる。
「なんだよ一体. . .」
落ちている紙を拾い、確認すると
「アルバイト広告. . .?」
メグルは今まで、アルバイトをしたことがない、
年齢的な問題もあったし、そもそもここら辺だと必ず、知り合いに出くわしてしまう。働くなら、知り合いと会わないものが良いと思っていた。
広告の内容は依頼主の助手のような立ち位置でのお手伝いだった。
内容を軽く見た限りだと、室内での仕事が主なようだ。
建物自体の名前は聞いたことがなく。
ただ紙に記載されている住所を見れば、
メグルの家からも近いことがわかった。
「違うことに、目を向けてみろって言われたのかなぁ」
豪胆なじいちゃんの口癖で、その言葉はよく覚えていた。
一つの見方ではそれに囚われた結果しか出せない。
いろいろな可能性を信じて、視野を広げた時、世界が自分の視野が広がるぞと
昔に話していたことを思い出した。
メグル自身、別段運命というものを信じているわけではない。
特に信仰する宗教もなければ、家族にもそういう類の親戚はいなかったと認識している。
ただ何となく自身の直感は信頼しており、次の行動は決まっていた。
それは、新たな環境に飛び込み、自分を変えようとするメグルの決意だった。
何となく、勇気づけられたような少し晴れやかな表情を浮かべたメグルが
「じいちゃん、ありがとう。行ってみるよ。」
そう言って祖父の墓石を後にした。
帰宅後、更に詳しく内容を読んでみると
そこは小さなデザイン事務所であることがわかった。
生前、じいちゃんが
「手に職をつけるのは将来の糧になるぞ」と言われたことがあったのも、
応募する上で決めてとなった。
なんとなく、期待感が湧いてきたこともあり、必要事項に記載されている書類の準備を始めるメグル。
気合の空回りで、準備に徹夜を費やしたメグルの次の日の遅刻は確定的であったのであった。
◆
翌日 、一人の生徒の声が教室に響いた。
「え、アルバイトに応募する?」
藤本武成がひどく驚いた様子で メグルを見つめる。
その声の大きさで、周囲の視線が集まる。
「ち、ちょっと!?声!」
周囲になんでもないと、フォローをいれつつ、目の前の武成を嗜める。
しかし、その声に反応するものはいるようで、
「金色君、お仕事するの?」
と厄介と思っている人物に声をかけられてしまう。
視線の先にはショートカットで、
気の強そうな顔が特徴の我らが委員長、【緑川皐月】が鋭い視線をこちらに向けていた。
「いえ、違います!あはは、ちょっと武がアルバイトしたいなぁなんて言い出したもんで」
黙っていれば、クール系美人の委員長の鋭い眼光が二人を射抜く
「(す、すまん。まさか、あのメグルがそんなことを言い出すと思わなくてな。)」
「(もう、武のバカぁ)」
「あなたたち、分かっているとは思うけど、我が校のルールではアルバイトは原則禁止よ」
「もちろん、分かっているぞ!なぁメグル」
ウンウンと激しく、頷くメグル。
皐月がきな臭いと言わんばかりに、二人を一睨みすると
「信じるわよ」
と一言。どうやら二人は難を逃れたらしい。
「おおう、神に誓ってだぞ!」
「ぼ、僕も、誓います!」
ふぅと一息吐くと、彼女はメグルたちから離れ、
また友達の輪の中に加わって行った。
皐月がいなくなったのを確認して、二人は背中あわせのように床に座り込む。
声のトーンを落としながら、
「すまん、危なかったな. . . 」
「もう、頼むよ. . . 」
難を逃れ、疲れた様子のメグルに対して、
「まぁ、何はともあれ、あのメグルが一歩踏み出す為に頑張っているんだ、応援するぞ!」
武成はキラリッと 良い笑顔でエールを送ってきくれた。
「武。ありがとう。」
友人からの激励に今一度、モチベーションが上がったメグルは
さあ、帰って面接の準備しようと意気込んで、
ガシッと誰かに腕を掴まれる。
視線を上げるとそこには
興奮冷めやらぬと行った感じの武成がいた。
「えっ!?な、何. . .」
なんだか、背筋が凍りそうな悪寒を感じ、
なんとか腕を解けないかと、
試みるもガシッと掴まれた腕を外すことはできなかった。
「そうと決まれば、特訓だ」
笑顔を貼り付けたような清々しい顔の武成が
そう言って、 有無を言わさぬ早さで教室からメグルを連れて出ていった。
「うわーーーーーーー」
響きわたるメグルの悲鳴を最後に
その日、彼らを見たものはいたとか、いなかったとか. . .
最後までお読みいただきありがとうございます。
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