第2話: 邂逅編①
例えば、いきなり初対面の人間と話をしてみないさいと言われて、最初はなんとか繕うも、後半戦ネタを使い切り重い雰囲気を生み出してしまった経験があるだろうか。
メグルは、そんな気持ちに襲われながら、今すぐここから抜け出したい気持ちに駆られていた。
学校の並木道、下校中の生徒たちの好奇な視線を受けながら、ビクビクと震えるメグルとは反対に堂々としている優子、徹が3列で並んで歩いている。
時たま、感じる冷たい殺気に明日を生き抜けるのだろうかという心配をしながらメグルは「(気まずい)」と心の中で愚痴ってしまう。
幼馴染であるならば、
肩肘張らずに、楽しく帰れるであろう家への帰路も、この組み合わせだと話が別なのだ。
元来の人見知りを発揮していることに加え、距離を置いていたこの二人との邂逅。正直何を喋れば良いか全くわからないメグルは周囲に目線を逃がそうと辺り見つめるも、見えるのは人、人、人。
すでにメグルに退路はなく、うつむき加減で、ニコニコと話しかけて来る優子を適度に交わすしかできることがない。
それでもなんとかこの流れから抜け出せないかという方法を模索することに頭を切り替えた。
そんなメグルをよそに、
徹は、積極的に優子に話しかけていた。
彼こそ、まるでメグルがその場にいないかのように
優子を楽しませようとうまく立ち回っているように見える。
そんな二人の会話を聞きながら、メグルはある出来事を思い出していた。
それはメグルが鳳学園に入学してから間もない頃、徹に呼び出されたことがある。
小学生の頃に優子を通して紹介された徹はなんでもできる少年で、メグルとは真反対に活発だった。おそらく、メグル自身優子に紹介されなかったら一生友達にならない人種だったからもしれない。
中学校になっても変わらず徹はクラスの中心男女問わず人気があった。その性格の良さに加え、造形の整った表情から生み出される凛々しい笑顔を誰隔てなく浮かべているのがメグルが思っている徹の印象だった。
だから、誰も居なくなった放課後の教室で、
神妙な面持ちの徹を見たときは内心びっくりしたものだ。
徹は夕日に照らされた教室で、窓側に両肘をかけながら、目線は校庭に向いていた。
「クラス、同じだな」
「. . .そうだね」
「優子も一緒だったな、あいつもう、友達作ってたぜ」
「はは、彼女らしいね、昔から行動力に関してはピカイチだったから」
「このまま、どんどん増えていくだろうな、そしていつかあいつにも大切と思える人ができるのかなぁ」
夕日に照らされた徹の横顔がこちら向いてくる。それは何かを決意した表情で、夕日に照らされたことと相まって、神々しさを感じさせた。
「. . . .」
「この学校、生徒の人数も多いし、あいつのことを好きになるやつも多いだろうな. . . 」
「そうだね」
とメグルは次の徹が言ってくることがなんとなく予測できてしまった。
心臓の鼓動が早くなるのがわかる。
「メグル、俺さ優子が好きだ。あいつの隣に立っていられるようになるために俺は手段を選ばないよ」
真っ直ぐで純粋で強い決心を帯びた言葉。
真剣な面持ち徹に、メグルは黙り込んでしまう。
徹はふぅと一息ついたかと思うとニカッと笑みを浮かべる
「俺からの激励は一つ、後悔するなだ!」
お互いにな、と冗談交じりに真剣な面持ちから、笑いかけるように徹はメグルにいうのであった。
徹の宣言はある種、メグルにとってみれば戦線布告のようなもので
今まで、自分の中であやふやにしてきた気持ちと向き合わざるえなかった。
「(徹、君は本気なんだね. . . 僕はどうなんだろう)」
優子をそういう目線で見たことがないか言われれば、それはNOである。
ただ周りを見れば、誰だって一目瞭然で、自分自身でも優子にふさわしくないとメグルはそう思っている。
だからなのか、その出来事以来、メグルは極力二人を避けるようになった。
学校での環境の変化や二人の特異性を発端としたことも悪い意味で助けになり、
幼馴染の関係性は疎遠になっていった。
かっこよく、綺麗になる二人の影でメグルは
自分が小さくなって消えていくのを感じた。
消えかかっても良いはずなのに
自分の中の羨望、嫉妬心が邪魔をする。
でもそんなちっぽけなプライドを盾にして行動するのも限界だったのだろうと
今にいたる過程を 思い出して、自己嫌悪に陥るメグル。
そんなメグルを優子が覗き込んでくる。
「うわッ!?」
思わず、仰け反るメグルに優子が言う。
「もうやっと反応した~、メグ君が、全然話聞いてないんだから~」
「えっと、ごめん。なんだっけ?」
そんなメグルに徹が助け舟を出す。
「今週3人でどこか行かないかっていう話さ」
「あー. . .. こ、今週は野暮用が. . .」
と苦笑いを浮かべなら、視線を優子に向けると案の定
ぷくっと頰膨らませている。
メグルの返事を聞いた徹が視線だけ優子に向ける。
「えー、またぁ。。その用事キャンセルできないのー!」
優子がメグルの腕をとりながら、揺さぶる。
「ちょっとッ、優子、落ち着ついて!」
思いの外、力強い優子に力に振り回されるメグルだったが、
なんとか止めようと離れることに成功する。
「えーと、そんなに行きたいなら、二人で行けばいいんじゃないの?」
何気なく、軽く言った言葉であったが、
優子がショックを受けた表情を浮かべ
ぼそっと「メグ君は. . .そう思ってるんだ」 と呟く。
その言葉はメグルと徹には聞こえない。
二人の様子見ていた徹が、優子に聞いた
「どうする、メグルがそう言ってくれてるし、二人でいくか?」
「ううん、やっぱり3人じゃないと意味ないかな. . .」
残念とすこし悲しげな優子がボソッた言った。
「あっ」
メグルが何かに気づいたように声を漏らす。
視線の先、そこにはそれぞれの分かれ道に着いていた。
「じゃあ、僕はこれで. . .」
いち早く、そこから抜け出そうと、メグルは自分の帰り道の方に進み出す。
メグルはなるべく二人に目線を合わせないように、足早さに立ち去ろうとする。
そのメグルに、何かいうおうとした優子だったが、徹が遮るように、
「送ってく」
と言って、優子の腕を掴んでしまう。
「あ、ちょっと徹君. . .」
優子に反論させないように、強引に引っ張っていく徹。
メグルの後ろすがたチラチラと目線を送るも、
優子は徹に連れられるまま帰宅するのであった。
そんなやり取りを耳で捉えならが、
「これで、よかったんだ. . .」
そうメグルはつぶやいた。
周囲の視線、特別でない自分、幼馴染との関係性。
それが総合的に俯瞰して決めたメグルの答えなのだ。
最後までお読みいただきありがとうございます。
引き続き楽しんで、お読みいただけますと幸いです。