第10話:邂逅編⑨
聖刻府の二人と櫻子が相対していたころ
メグルはと言うと、現状に手をこまねいていた。
ーやるしかないって言っても、どうすれば良いのだろうか
相手の出方を伺いつつと言っても、
自分の行動によって相手がどんな行動をとるか皆目検討がつかない。
下手な刺激は優子を危険にさらしてしまう可能性もあった。
しかし現状、一番の問題は相対する敵ではなく、メグル自身であった。
「メグ君. . .」
不安げな表情でメグルを見つめる優子に
必死に恐怖を押し殺したように
「だ. 大丈夫. . .」
と言うメグルだったが、
震える体、焦燥している表情は
明らかに大丈夫ではなさそうだった。
そもそも、 何に対して大丈夫と言っているのか
もはやメグル自身にも分からなかったのである。
そんな様子のメグルに意を決したように優子が行動に出た。
そっと優子がメグルの頭を抱いた。
「あっ」
その行動にメグルが驚いたような声を出す。
ーー大丈夫、大丈夫、メグ君なら出来るよ
と頭を抱きしめながら、子守唄のように囁き
よしよしとあやすように頭を撫でた。
すると先程の、震えるが嘘のように落ち着いた。
同時に体に入っていた力みも一緒に抜け落ちる。
いくらかの体重を優子の方に預け、なされるがままのメグル。
いつまで、その体勢でいるのか。
中々優子が離そうとしないため、
端からみても分かる程、メグルの顔が赤面し始める。
『いつまでも、このままなのさ!?』
息の苦しさ、恥ずかしさの両方から来る
なんともいい表せない悶えるような感覚を覚え、限界と思ったところで、
その気配を感じとったのか、やっと優子のホールドから解放されたメグル
「あ、ありがとう」
と視線を逸らしながら、メグルは感謝を呟いた。
その言葉にただ「うん」とにこやかな表情を浮かべる優子だったが、
耳が真っ赤に染まっていたのをメグルは気づかなかった。
「さあ、汝の意を示せ」
びっくとメグルと優子が驚く。
王座に響き渡る声、
目の前の茶番に苛立ちを感じ始めたのか、
威圧感がましている。
冷徹な色を帯びた視線が射貫くように向けられた。
そして
その視線が優子に向けられた瞬間
メグルの背筋に冷たいものが走る。
「そなたはここに入る資格を持たず」
その一言の直後
「―」
と、メグルの耳に優子の悲鳴に近いかすれた声が届いた気がした。
メグルの目にはかすかにしか捉えられなかった、それが、ビュンという音を生み出し、優子に叩きつけられた。
優子の体は、王座の一番後ろの壁まで吹き飛び、扉に叩きつけられ、床へと倒れてしまう。 床に広がる赤い液体、彼女の体はピクリとも動かない。
まさに一瞬の出来事であった、
スローモーションのように吹き飛んでいく優子の体。
その光景を見たメグルの中で、何かが割れる音が聞こえた気がした。
ふつふつと言葉にならない何か湧き上がってくる。
自分でもコントロールできない程の感情の揺らぎがメグルを包み込んでいき、
メグルは絶叫した。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
空間に亀裂がビキビキと入っていき、メグルを中心に風圧が広がっていく。
何かを出し尽くしたようにメグルの上半身がぶらんと垂れ下がる。
俯いているその表情は確認することはできないが、
一歩、また一歩と人影に向かってメグルが近づいていく。
徐々に縮まる歩幅、メグルが駆けだした。
「我に近づくな」
人影が発した言葉に呼応するように、
優子に使ったと思われる、攻撃がメグルにもたたきつけられるも、少し後ずさるだけでまったく意に介していない。
「―」
人影から驚きの意が伝わってくる。
その人影の目の前に立ったメグルが
拳を握りこみ、振りかぶる。
露わになったその顔には般若のような形相を浮かべたメグル、
その拳が人影の顔面を捉え、王座の後ろの壁まで貫通する。
さきの叫びによってところどころに入った亀裂、その一撃で完全に空間を支える支点を失ったのか。 絢爛豪華な王座は崩壊し、暗闇の空間の中に人影、メグル、優子が飲み込まれるように消えていった。
時を同じくして、聖刻府を中心に、世界中の聖刻府支部に
ウロボロスハートと契約を結んだものが現れたことが伝えられた。
あの世界災厄の神蛇の復活は各地で大きな話題になった。
英雄の帰還を喜んでいる者、
危険性を問う者、
様子を見ている者、
とこれからの
メグルに待ち受ける大きな影響を予感させたのだった。
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