第1話 : プロローグ
昔は良かった。
柄にもなくそう思ってしまう時がある。
年を重ねるにつれて、わかってしまう。
広がる世界の中で知らず知らずのうちに自分の優劣が決まってきてしまうということに。
別にちやほやされたいとか、人気者になりたいとか思ってるわけじゃなかった。
ただ、ずっと続くと、変わることなく、いつまでも心地よい時間が続くと思っていたのだ。
でも、それはただの幻想で、現実は思ったよりも残酷だ。
だから特別なあの人たちと、特別じゃなかった自分があんなにも昔は仲が良かったなんて、誰も思わないだろう。
と独白するように、
教室のかどの席に座っている【金色メグル】はそう思う。
背はだいたい167cm、高くもなく低くもない。
別段、かっこよくも、悪くもない標準的な顔立ちだ。
だが、何だが体調が悪いのか、少し疲れた表情で、頬杖をついてぼーっと
この私立鳳学園の膨大な土地面積の象徴である校庭に目を向けていた。
「おーい、メグルやいッ!相変わらずしけたツラをしてるぞ!」
そんな弱々しいメグルの背中に覆いかぶさるように
腕を回してきたのは高校に入ってからの友人、【藤野 武成】だった。
決してイケメンではないが、キリッとした男らしい顔つき、
スポーツ万能で、クラスでの人気はそれなりに高い。
「武はいつもどおり元気そうだね。」
暑苦しい武成を見ながら、苦笑いのメグルは答えた。
武とはメグルが武成を呼ぶ時のあだ名だ。
何となく、言いにくいいというメグルの独断と偏見でそうなった。
最初はあーだこーだ言っていた武成も今ではそれに慣れてしまっている。
「お前も体を鍛えていけば、 並たいての現象には動じなくなるぞ!」
「それは武だけのような. . .」
呆れたような表情のメグルに無駄な筋肉アピールをする武成。
そんな二人の朝の日課とでもいう会話はある生徒の登場で、終わりを告げる。
メグルと武成の視線の先、
「これまた、今日は強烈だね. . . 」
「おそらく、こないだ、校内新聞で特集記事が組まれていたからだろうな。」
そこには二人の人物を中心にそのファンと思われる生徒が教室の中だけでなく、入り口や教室の外まで集まり、熱い視線を送っているのだ。
一人は女子生徒【雅優子】この鳳学園美少女ランキング1位を独占している。その類まれなルックスに加え、魅惑のボディ、そして、誰に対しても優しいおっとりした性格の持ち主。まさに様々な要素が天からの授けものとしか言いようがない少女。
そして、その向けられる視線の半分を独占しているもう一人が、【柳オルトランド徹】。鼻が高く、爽やかで整った顔立ちに加え、語学堪能、家は資産家で玉の輿も夢ではない。女子の彼氏にしたいランキング1位を独占中の三拍子揃った完璧超人。
そんな超人二人が来る教室ともなれば、ファンやら、その他大勢の生徒が押しかけるのは必然のように感じられた。
他人ごとのように思いながら、二人に視線を向けていたメグルに対して
「でも、お前、あの二人と幼馴染なんじゃないのか?」
といってきた。
突然の武成の言及に
ギクッと、まるで隠しておきたかったとでも言うようにメグルの体がビクついた。
「どうして. . . 」
その表情はなぜ知っていると
武成に無言の圧力をかけている
「うん?あれだ雅さんが、言っていたぞ」
そっちからか、とでも言う様に手で顔を覆い、
さすがに、本人から言われてしまうと防ぎようがないなと机に伏せるメグル
「そうだけど、もうほとんど話してないし、高校に入ってからは見ての通りさ」
伏せながらもボソボソと呟く姿はまるでもぞもぞと動く芋虫の様であった。
今の関係性は彼自身が状態を望んだわけではなかったが、
世界の縮図のような階層構造はどこでも発生するわけで
それはこの教室に限っても例外ではない。
小さな秩序がある世界の中で、人間は環境によって大別される。
その秩序にへの抗いは許されず、いつしか、
恵まれた者
抗い続ける者
諦観した者
と
示されたお告げのように、啓示され、グルーピングされるのだ。
メグルは自分が最下層の人間であると分かっている。
それは周りを見れば明らかだ、誰も何も期待していない、その他大勢の一人だと、
メグルだけじゃないその他大勢が互いにそう思っている。
メグルはそのあるがままの世界を受け入れている。
だから身を引いたのだ。
「お前が、そういうならそうなんだな。
そういう関係がちょっと羨ましかったりしたんだがな。」
「幼馴染だから『幼馴染のような振る舞い』をするなんて、ただの幻想だよ。
結局のところみんな自分が一番可愛いんだよ、
個々人の損得に従って、行動しているにすぎないし
その結果として、win-winな関係性のグループが続くだけだよ」
『僕は彼らとは違っただけ、僕じゃ役不足なんだよ』と口からでかかる言葉を飲み込んだ。
何か暗いものを感じさせるメグルの雰囲気になんとも言えない武成は黙ってしまうのであった。
キーンコーンカーンコーンと
話は終わりといった形、タイミングよく、授業開始のチャイムが鳴る。
最後の授業が終わり、
今日は久しぶりに精神が摩耗してしまったと早めに教室を出ようとするメグル、しかしそんな彼に近づく影が。
「メグ君、一緒に帰りましょー」
聞いた者の心を揺さぶる魅惑の声。
しかし、ある程度耐性がついているメグルは
それを無視するかのように、歩みを止めることなく進む。
話しかけられた瞬間、視線が集中したことがわかった。
どうでも良い視線だが、
まだ高等部2年の1学期始まった時点で敵をあまり作りたくないというか、
無駄に注目されたくないというのがメグルの本心だった。
いらぬ反感を買って、生きづらくなるぐらいなら、
ひっそりと暮らしていた方がマシだとひねくれ根性を爆発させている。
メグルは自分を過大評価していないし、良い意味でも、悪い意味でも自分のことをよく理解していた。その自分自身がこう自覚しているのだ、
その他大勢に睨まれながら、学校生活を生き抜く力がないということを。
そんなメグルとは対極に位置する少女は
その視線にもお構いなく、声をかけ続けてくる。
「ねぇ、なんでの無視するのかなぁ」
後ろから付いてくる優子、そしてそれ無視しているメグルを廊下ですれ違う生徒が、一々視線を送ってくる。
教室を出て少し進んだ廊下、階段を降りれば、下駄箱につくというルートを確保して、メグルはようやく歩みを止めた。
彼女の方を振り向き、
少し、冷たく、素っ気ない態度で
「なんですか?. . .雅さん」
と言った。
無視されたことに起こっていたのか、
元から少し膨れていた優子の頰が
そのメグルの言葉にぷくっとさらに膨れる
「もう、何でそんな他人行儀なのさ!
昔は優子ちゃんって呼んでくれたのにッ」
少し、凄みが増した優子の声に戸惑うメグル。
思わず、あえて敬語にしていた喋りが解けてしまう。
「いや. . .ムカシハムカシでしょ。今と昔は違うし」
「変わらないよ、全然!なんか最近、メグ君が避けてくるし. . .ちょっと悲しい」
優子本人には全く自覚はないだろうが、
彼女の天性の男殺したる所以はど直球の感情をぶつけてくることだった。
基本裏表がない彼女とその天然が相まって
これまで犠牲になった人間がどれほどいたのだろうか。
「う、うーん」
その態度に思わず、困惑してしまう。
いつもならもっと簡単に引き下がってくれるのだが。
「昔、みたいに呼んでほしいなぁー
それに敬語も禁止ッ!」
喜怒哀楽の四十奏を奏でる優子の前に
メグルは早々に白旗を上げ、
こっちが折れることに決めた。
割に合わない戦い程、
めんどくさいものはないのだ。
「はぁ、わかったよ. . .優子. . . 」
「うん!」
しぶしぶといった形で、どうこうを許可すること同意した。
「とりあえず、途中まで. . .」
「わぁー、ありがとうメグ君!」
メグルの発言にパァーと笑顔を浮かべる優子。
「. . . . 」
思わず、その表情見とれてしまったメグルだが、 背後から聞こえた声に我に帰る。
「優子、メグル、僕も一緒にいいかな?」
いつの間にいたのだろうか、メグルと優子の背後にはあの完璧超人を冠する徹がいた。
まさかの2大超人の勢ぞろいの状況に、確保していた退路は生徒で塞がれどんどんと生徒が周りに集まってくる状態に
メグルは二人に声をかける。
「とりあえず、早く移動しません?」
メグルの言葉にうんうんと首を激しく上下させる二人がいたのだった。
久しぶりの投稿になります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
引き続き、お楽しみいただけますと幸いです。