始まりは終わりの予感
次の日もその男は現れた。
一時間目のオーラルコミュニケーション、略してOC。英語でディベートしろと言われてもほとんど予習で作ってきた英文で討論してるだけである。予習をサボった私の出る幕ではない。そっと図書館に入り込み、ソファーで寝そべって本を読む。今日は最近人気のライトノベル。何が面白いのか正直分からない。どこに人気要素があるのだろうかというそれだけを探るために読み続ける。
そういやこの部屋の鍵をくれたおじいちゃん先生が50ページ読んでつまらなかったら読むの止めなさいって言ってたなあ。私は忍耐強い女だからがんばるとも。
コンコンコンコン
ノック4回。
内鍵を開けるとやはりその男だった。昨日得た情報によるとマキノ先輩。
「開けてくれたんだ?」
無駄に爽やかな笑顔にいらっとくる。
「開けなかったら延々ノックされそうじゃないですか」
分かってるじゃんと言いながらソファーに座り、懐からタバコを取り出す。
「その歳でラークは渋すぎですよ」
「セッターのJKに言われたくないかなあ」
そんな軽口を叩き合いながら私は窓を開けた。
「今日、雨降りそうですね」
「午後から降るらしいよ、めんどくさいなあ」
「じゃあ帰ろうかなあ」
「は?帰るの」
「雨が降るので帰ります」
この前は天気がいいので帰りますって帰ったけれども。
「お前ほんとに学校嫌いなんだなあ」
「イケメンで進学校にいるちやほや人生送ってきたマキノ先輩には分かりませんよ」
「ん?俺マキノ?」
「え、違うんですか?3年で茶髪でイケメンって言えばマキノ先輩って聞いてますよ」
「んーまあマキノでいいや」
違ったのだろうと思った。しかし敢えて聞くのもおかしな空気だったので私はこの後もそのままマキノ先輩と呼び続けた。そして、彼の本当の名前を知った時、少しだけ後悔した。
「楽しいよ、学校」
「どこがですか?」
「大人になれば分かるよ」
「一つ年上なだけでよく言いますよ」
そして、マキノ先輩との喫煙仲間ライフが始まった。