頼りになるお兄ちゃんですことで
「牧野じゃね?」
静かな静かな緊張感で縛られた晩御飯を終えたあとは兄の部屋で一服する。
兄も喫煙者である。
彼はコンビニでバイトしてタバコ代を稼いでいる。
私がしていることを恐らく知っているが知らないふりをしていてくれる。
「牧野?」
「牧野優人。陸上部のエース。茶髪でイケメンって言ったらあいつじゃねえかなあ」
「ふーん…」
マキノユウト、ねえ。
「たしかお前の学年の顔可愛い女子と付き合ってた気がするから狙っても無駄だぞ」
「狙うわけないじゃん。身の程は弁えてます」
ほんとに身の程弁えてたら体売るなんてしないだろうけれども。
階下からはくぐもった両親の怒鳴り声が聞こえる。何を叫んでるのかは不明瞭だが、どうせいつもと同じ内容だろう。
「そろそろ30分経つねえ」
「俺が止めに行くからお前はこそっと風呂入ってこい」
「いーっつもすまないねえ」
「空気の読めない妹に止めに行かせて更に炎上するくらいなら最初から俺が行った方がマシだろ」
「そりゃそうだわ」
頼りになるお兄ちゃんですことで。
兄が大学進学を機に、ひとり暮らしを始めたら私はどうなるのだろうか。
そんな不安を潰すように灰皿に火を押し付けて立ち上がる。
しかしこの部屋煙で真っ白なんですけども。