迷惑人種
未成年の喫煙は違法行為です
私の読書タイムが邪魔された。そんな苛立ちを抱えつつ、扉の前にいた生徒を部屋に引きずり込む。教師だったら面倒くさいことになると思ったので、生徒でまだよかったのかもしれないが。
「ここ、タバコ吸うのに最適って聞いたんだけど」
穏やかそうな雰囲気の茶髪の男。顔は王子様系で甘ったるく整っている。将来ホストにでもなればいい。だが問題はそこではない。私の根城の侵略の危機だ。
「どこでですか?」
「人伝に。まあほら、この進学校にわずかに棲息するチャラい系だからさ」
「で、客ではないんですね?」
「客ではない。あえて言うなら喫煙仲間」
「まだ仲間じゃないし。これからもないし」
「そんなこと言わないでさー。人類皆兄弟じゃん」
甘ったるい顔で甘えられるとくどい。男は既にタバコを取り出して火を点けている。目立つ外見だが見たことがないから同学年ではない。世間慣れした雰囲気は一年生のものではないとなると、先輩である三年生。
「私、一人の時間、邪魔されるの嫌いなんです」
「俺も嫌い」
「それなら、私の居場所、邪魔しないでください」
透き通った薄茶の瞳が見透かしたように私を見つめる。
「他に居場所がないから?」
「………うるさい」
「当たっちゃったー」
タバコの火を灰皿に押し付けて応接セットの向かいのソファーに座っていた男が立ち上がる。
「ほんじゃ、また来るから」
「意味分からないし」
「俺、ノック4回するし、営業時間の昼休みには来ないから。他の奴らも連れ込まないし」
「お断りします」
「じゃまたねー」
どうしたものやら。本を読もうとした気が削がれてもう一度、タバコを取り出す。彼からは育ちの良さがうかがえて、あの顔で進学校。あらゆる頼み事を断られたことがない人特有の厚かましさを感じた。
「サイッアク」
とりあえず、今日はこのまま家に帰ろうと思った。母はパートでいない。祖母は私が遅刻しようが早退しようが無関心である。声もかけてこない。
兄が帰ってきたら心当たりの茶髪イケメンがいないか聞いてみよう。