第3話 グランソリア大陸の過去に付いて学ぶ
あれから暫く飲み食いした後、彼らとは別れて帰路に着く。
暫く歩いていると、この時間にも関わらず骨董品店がまだ、開いて居たので興味本位で、覗いて見ることにした。
色々と面白そうな物が置いてあり、興味をそそられる。
そして、ある物が目に止まった。
それはモルガーナからもらった古い金貨に描かれて居たのと同じ、紋章が入った壊れた短剣である。
柄の部分にその紋章が入っている。
カウンターにいる少年に声を掛ける。
「あの短剣に刻まれた紋章に付いて聞きたいのだが」
「ああ、あの短剣に付いてですね。僕よりも店長の方が詳しいので呼んで来ますね」と少年は言うと奥へと引っ込む。
暫くすると、初老の男性を連れて先程の少年が戻って来た。
「初めまして。この店の店長をしているイーフルと申します。何でもあの短剣に刻まれた紋章に興味がお有りとお伺いしましたが?」
「ああ、出来れば教えて欲しい」
「ええ、もちろん喜んで」とイーフルはとても嬉しそうに言う。
「あの短剣に刻まれた紋章は、過去この大陸グランソリアを唯一統一したと言われる偉大な国の物です。知っての通り、現在このグランソリア大陸は東西を"あの"ビィゲラ大山脈により分割されて居ますが、何でも細い抜け道があるとの事です。
この国ガリブロ王国はビィゲラ大山脈に接して居ませんので、詳しくはわかりかねますが」と前置きする。
「何故そう言えるかと言えば、この古い大陸の全体図が描かれた地図には、ビィゲラ大山脈は載って居らず、他にも古い文献などに付いて調べても、ビィゲラ大山脈に付いては書かれて居ません。ビィゲラ大山脈に付いて書かれたのは大きな地震があった、400年ほど前ですから、その時の地殻変動により出来たと推察されます。
そして、この地殻変動などの言葉の意味は凡そはわかりますが、詳しい原理などはわかりません。この地殻変動により、大陸の殆どの国は滅亡し、文明もそこで一旦リセットされたからです」と驚愕の事実を教えてくれる。
モルガーナに教えられた歴史は、殆どがここ400年ほどの歴史でそれ以前に付いてはあまり教えてくれなかった。
「知りたければ自分で調べなさい」と言われたので、それ以上は深くは聞かなかった。
「その為に文献も殆ど残って居ません」と残念そうにイーフルは言う。
「それで、この紋章はその失われた国の物だと?」
「ええ、そうです。その国の名前は神聖ゾルダッド王国と言う国で、この世界で最も偉大な国だと私は思って居ます。現在はいくつもの国が並び立つ戦乱の世ですからね。まあ、東側は知りませんが、この西側は現在は三つの超大国と、それ以外の国で分類されてますがね」と自嘲気味にイーフルは言う。
ゾルダッド?何処かで聞いた覚えがある名だな。
はて?何処で聞いた?
アルガドは考えたが中々答えが出て来ず一先ずイーフルの話の続きを聞く事にした。
因みにガリブロ王国はその超大国に分類されて居ない国である。
「それと古い文献によれば、このグランソリア大陸以外にも、別大陸があったとされて居りますが、現在の船では外洋に耐えられる物は無く、精々が近くの島までが精一杯と聞きますね。まあ、私は別に船などにそこまで詳しくは無いので、もしかしたら最遠くの沖合まで行けるかもしれませんがね」
軽くイーフルは息を整える。
「それにしても、この紋章に何故興味を持たれたので?」
「ああ、実はな」と言いモルガーナに貰った古い金貨を見せる。
するとイーフルは興奮する。
「こ、これは!古代金貨!しかもとても貴重な神聖ゾルダッド王国の物では無いですか!?は、初めての現物を見ましたよ!?」と、とても興奮するイーフルに少し引くアルガド。
「そ、そうか。それでこの金貨の価値はどれくらいだ?」
少し落ち着いたのか、深呼吸してからイーフルが答える。
「ふぅ、失礼しました。そうですね。歴史的価値なども換算しまして、その古代金貨は金貨で最低でも30枚はするでしょう。勿論!私に売ってもらえるなら!その倍の金貨60枚出しますがどうでしょうか!?」
「いや、すまない。これは大事な物なので売る事は出来ないな」
「そうですか。………当たり前の事ですね。仕方がありません」
チラリ、チラリとイーフルは名残惜しそうに古代金貨に視線を向けながら、イーフルは「因みにそれを何処で手に入れたので?」と質問して来る。
それにアルガドは、あの森の場所を教えるとイーフルは驚愕する。
「な、何と!?帰らずの森と言われる危険地帯である【フェーゲルの森】を無事に生きて、しかも五体満足で生還した人を初めて見ましたよ」と驚愕を露わにする。
「それほどの危険地帯なのか?」
「ええ、そうですよ。前にあの森を開拓しようとした、領主一族は全員謎の奇病で亡くなりました。それに、あの森へと入った者のその後は誰も知りません。前にあの森へと盗賊が20人程逃げ込んだ事がありましてね、衛兵が追いかけるか如何か悩んでいると、盗賊達の断末魔が聞こえてきて、盗賊の者と思われる身体の一部が森の外へと飛んで来た事があるそうです。それ以来誰もあのフェーゲルの森へと近付いた者はいませんよ」と教えてくれる。
そんなに危険な森だったか?
アルガドは基本的にあの遺跡周辺を活動拠点にして居たが、時々遺跡から地上に出て周辺を散策したりもしたが、何処にでもある普通の森……いや他の森に行った事が無いから比べようが無いが、危険は無く土地も肥えて居り自然豊かで動植物も多く、近くの湖には沢山の小魚の群れが泳いで居たりと、住みやすかった記憶しか無い。
まあ、言っても信じないだろうし、出来るだけあの森へは人が立ち入って欲しく無いと思っているので黙っている。
「そうなのか、態々貴重な情報をすまないな」
「いえいえ、私も初めてゾルダッド金貨(古代金貨)を見れてとても満足して居ります」とイーフルはホクホク顔だ。
「そろそろ宿に戻って明日に備えなければ行けないのだ。戻るとするよ」
「そうですか。長い間引き止めてしまいましてすいません。ですが!いつでもやって来て下さいね!お待ちしてますから!」と興奮が冷め切らないのか、目をクワッと見開いて告げてくるその姿は、少しばかり恐怖を感じるものだった。
その後アルガドは寄り道せずに、真っ直ぐに宿へと戻り就寝した。
翌朝は朝早くに起き、軽くハルバードを振るい行水した後、しっかりと朝飯を食べ女将に用意して貰った、弁当を持ち装備を整えて南門に向かう。
朝早い時間帯にも関わらず、商店は幾つか開店して居る。
南門に続く通りを歩いていると、宿から次々と傭兵が出て来て、皆狼狩りの為に南門へと向かって行く。
南門に向かう途中バック、ロブ、ジェンナ、ミリー、トンゴの五人と合流した。
「あっ!アルガド!」と元気よくジェンナが手を振ってくる。
「おはようございます」
「おはよう〜」
「おっす」
「……おはよう……」
あの後皆と打ち解けて、ジェンナ達は気安く話しかけてくる間柄になった。
ミリーも最初は緊張から吃って居たが、今は普通に話せる様にまでなっている。
「おはよう」とアルガドも挨拶を返す。
「準備は出来てるか?」
「おう!勿論だ!」
「それにしても今回は傭兵の数が多いんだな〜」
「そうなのか?」
「ああ。俺達は去年参加したんだが、去年よりも倍近く参加人数が増えて居るな。やっぱり魔獣が多数確認されたからだろうな」
「そうですね。魔獣は野生の獣よりも大きく頑強で速いですからね。今回はオオカミ型の魔獣との事ですから俊敏でしょうね」
「足の速い獲物はあたしの腕ではまだ荷が重いのよね〜。まあ、工夫さえすれば当てられる筈よ。頼んだわよロブ」
「……任せろ……」
「ロブは罠の設置が得意なのか?」
「ええ、バックかトンゴが、獲物をロブが仕掛けた罠の場所に追い込んで、仕留めるのが基本ね。足の速い獲物ならあたしが矢でロブの罠が設置してある場所まで追い込んで罠で仕留めるか、もしくは動きを阻害してその間にあたしが射抜くのよ」
「ロブの罠は巧妙で、この歳では一番じゃないか?」
「……そんなこと……ない………」
「そんなことないだよ〜。ロブは自信を持った方がいいだよ〜」
「トンゴの言う通りですよ。ロブはもう少し自分に自信を持っても良い腕前ですよ」
「……わかった」
本当に仲の良いチームだな。
そうやって談笑して居ると、目的地の南門に到着した。
其処には何台もの馬車が置いてあり、更に人ももの凄い数だ。
「順番に空いている馬車に乗り込んでくれ!」と衛兵が空き箱の上に立ち指示を出して行く。
それに従い傭兵は、各々のパーティー毎に次々と馬車に乗り込んで行く。
「じゃあ、俺達も乗るか。あの馬車にするか?」と近くの馬車を指差したバックに他の者達は同意するが、アルガドは嫌な予感がしたので「いや、隣のあの馬車にしよう」と提案する。
五人は不思議そうにしたが、特に反対せずにアルガドが指差した馬車に乗り込む。
いよいよこれから狼狩りである。