第2話 初めての町コメンドール
野営をしながら2日目漸く、ガリブロ王国の国境の町コメンドールに到着した。
道中は特に獣や野盗に襲われる事なく、無事にコメンドールに到着出来て一安心だ。
国境の町だけあり、立派な堀や柵が設置されている。
ガリブロ王国とメチフ小国との仲は悪くはなく、普通で交易が盛んだとモルガーナに聞いたな。
コメンドールの門の前には、検査の為に行列が出来ている。
だが、商人よりも傭兵と思わしき者達が、多く並んでいるな。
20分程待ち、漸く順番が回って来た。
「ん?お前も傭兵か?なら例の狼狩りに来たのか?」
「狼狩り?」
「ん?違うのか?毎年この春先の時期になると餌を求めて狼どもが、森の中から街道沿いに現れるのよ。それで今年は厄介な事に魔獣の姿も確認されたんでこの町の代官様がいつもよりも報酬を奮発して各地から沢山の傭兵を募って居るってわけだ。だからお前もてっきりその口かと思ってな」
「いや、違うが腕には自信があるから、詳しい話を聞きたいのだが?」
「それなら町の詰所に行きな。其処で大々的に告知して居るからよ」
検査は違法品の所持の簡単なチェックと犯罪者では無いか、指名手配書の確認だけですんなりと通る事が出来た。
途中親切そうなおばちゃんやおじちゃんに、道を尋ねながら目的地を目指す。
目的の衛兵の詰所には数多くの傭兵が集まって居た。
木箱の上に衛兵の一人が登り声を上げる。
「明日の早朝に狼狩りに向かう!皆聞いての通り今回の狼狩りはいつもよりも難易度は高くなって居る!知って居るものもいると思うが今回は狼以外にも狼の魔獣であるバトルウルフの姿が確認されている!我々の目的はこのバトルウルフの殲滅と狼どもの間引きが目的だ!
今回は狼よりもバトルウルフ討伐に主目的を置く!それと討伐証明は狼、バトルウルフともに牙だ!狼は一匹に付き銀貨1枚!バトルウルフは銀貨10枚だ!
参加する者は明日の早朝に【南門】に装備を整えた上で集合するように!其処で班分けを行う!勿論事前に仲間内で集まって置くのも構わない!以上だ!解散!」
と解散を宣言すると傭兵達は仲間内で話し合ったり、ソロの傭兵は他のソロの傭兵やパーティーを組んでいる傭兵に声を掛けている。
さて、如何するかと考えていると、まだ年若い少年少女達5人組が話しかけて来た。
「なあ!そこのあんた!」
俺に話しかけて来たのかわからずに、素知らぬ顔をしていると「そこのハルバードを担いだあんただよ!」
「俺か?」
「そうだ!なぁ、見た所一人のようだし俺達と臨時のパーティーを組まないか?」
「見た所、5人組で十分な様に思えるが?」
「いや、実はさ……俺達のリーダーがこの前ちょっと腕を骨折してさ。それで前衛に空きが出たんで今募集しててさ。この辺りの傭兵は皆ある程度パーティーを組んだりしてるから引き抜くのは無理だし……中には暴利を要求する奴もいるからさ。あんたは見た所ここらの出身じゃないだろ?だから良ければこの狼狩りだけでいいから手を貸してくれよ?」
「わかった。良いだろう。だが、組む前に報酬の分配と得意な獲物を教えてくれ」
「オッケー。報酬は一人で倒したらそいつの物で、協力して倒したら協力した奴と分配でどうよ?」
「そうすると俺一人に対してお前達は五人もいるから、俺が不利ではないか?」
「なら協力した場合さ、あんたは6割でこっちは4割でどうだ?」
「まあ、それならいいか。よろしく頼む」
とアルガドは話しかけて来た少年と握手をする。
「ああ、よろしく頼むよ。俺はこのパーティーの副リーダーをしているバックだ。見ての通り剣と盾を使う」バックがツンツン頭の威勢のいい奴だな。
「おらはトンゴって言うだ。よろしく〜。武器はこの両手斧だ〜」とのんびりとした口調の恰幅のいい……いやデブがトンゴだな。
「あたしはジェンナよ。父が狩人であたしも習ったから弓が得意よ」とぶっきらぼうな茶髪ショートがジェンナと。
「わ、私はミリーです。や、槍を使います」と金髪サイドテールがミリーと。
「……ロブだ。………短剣とスリング、ボーラを使う……」無口な少年がロブと。
五人の名前と特徴を覚える。
「あんたは?」
「ああ、俺はアルガドだ。基本的にハルバードを使うが他の武器もある程度は使える」
「へぇ〜、ならその腰に差してる剣も伊達じゃあ無いんだな」
腰に差してある剣は魔剣クラウ・ソラスである。
鞘は上等な物ではあるが、ありふれた物である。
この剣の斬れ味は鋭く、例え鉄の鎧を着ていようがバターの様に斬る事が可能であり、刃こぼれ一つしない。
だが、あまりこの剣に頼るつもりは無い。
この剣に頼っているといざ、普通の剣で戦う場面になった時苦戦は免れないだろう。
そうならない為にも普通の武器での鍛錬も怠るつもりは無い。
「俺はそろそろ、宿を取る為に行くよ」
「そうか、なら急いだ方が良いぞ。狼狩りで何時もよりも傭兵が集まってきているから何処の宿もいっぱいだからな」
「ああ、じゃあ明日の早朝に南門でな」
「おう!遅れんなよ!」
バック達と別れた後宿を探す。
運良く空き部屋がある宿に、最初に到着して宿を確保出来た。
夕食の時間までまだ少しばかり時間があるので、町を散策して見ることにする。
初めて(剣闘奴隷としてではなく)訪れる町だ。
何かないかとウキウキしながら町を見回っていると、いつの間にか裏路地に迷い込んでしまった様だ。
すると「何すんのよ!」と女の怒号が路地裏から聞こえたので、声のする方へと行き曲がり角を覗くと見たことのある女の子を三人の若い男達が取り囲んでいた。
「おいおい、痛えじゃねえかよ。これはあれだな。骨にヒビが入ったな」
「マジかよ!?そりゃあ大変だ。おう!姉ちゃんよ!よくもダチの大事な腕に怪我させてくれたな。こりゃあれだな」と下卑た笑みを仲間に向ける。
「おう。治療費を払って貰わねえとな。金貨5枚で手を打ってやるよ」
「ちょ!ちょっと!そんなに持って無いわよ!それにぶつかって来たのはあんたの方じゃない!」と顔を真っ赤にして怒って居るのは不愛想なジェンナって弓術士だった筈だ。
他の奴らは(ジェンナのパーティーメンバー)は何処だ?とあたりを見回すが見つからない。
それにあれほど大声で言い合って居るのに、駆け付けて来ないと言うことは、近くには居ないのだろう。
「うるせぇ!払えねえなら体で払って貰おうか!」といよいよ不味くなって来たのでアルガドは溜息を一つ吐いて手に持つハルバードの感触を確かめてから曲がり角から出る。
安宿なので手荷物などは、持ったまま移動して居たので、完全武装のままなのが幸いした。
まあ、魔剣クラウ・ソラスは肌身離さず持ち歩く所存だが。
「おい!お前ら其処までにしておけ!」と男達の後ろから大声で怒鳴る。
すると三人の男達は振り向き「っんだ!テメェ!関係ねぇ奴は引っ込んでろ!」
「そうだ!怪我しねえうちにどっか行きな!」
「おう!やんのか!」と三者三様の反応を示すが似た様な反応だ。
「っあ!あんたは!」
「よう、お困りの様だな。そこの女は俺の知り合いだ。関係ない訳じゃないんだよ。お前達こそ早く謝って何処かへ消え失せな」と言いながらハルバードを軽く振る。
重いハルバードを片手で、軽々と扱うアルガドに男達は動揺して目を泳がせる。
だが、男達は此処が狭い路地裏だと気付き嘲笑の笑みを浮かべる。
「おいおい、此処ではそんな長物満足に使えねぇぞ?」と言いながら短剣にナイフと狭い路地裏でも、問題なく振り回せる獲物を懐から取り出した。
「行くぞ!」と真ん中の男が叫びアルガドに突貫して来る。
それに続いて、他の二人もナイフと短剣を構えて向かって来る。
アルガドは先ず最初に突貫して来る男の手にあるナイフ目掛けて、寸分の狂いもなくハルバードの切っ先を当て、ナイフを男の手の中から弾き飛ばす。
まさか、ナイフだけを正確に狙う事が出来るとは思わず、呆けた顔をした所にアルガドは左拳を叩き込み一撃でノックアウトする。
殴られた男は鼻が曲がり、歯も何本か折れてしまって居る。
仲間が倒された事に動揺している二人の元へ、一気に駆け出して距離を縮めて、ハルバードの石突きを右側の男の鳩尾に叩き込み、意識を奪う。
残った左側の男が、唖然としている隙に首元に手刀を叩き込み気絶させる。
僅か10秒足らずで、大の男三人を無力化させたアルガドを、唖然として見上げて居たジェンナは、ハッ!として「た、助かったわ。ありがとう」とアルガドに頰を赤く染めながら礼を言う。
すると、この騒ぎを聞き付けて町の警備隊が数名やって来た。
「そこを動くな!」と警備隊の隊長と思われる立派な髭の持ち主が、アルガドとジェンナに制止の声を上げる。
「これはどういう状態だ?」
「あっ!ヒゲールさん」とジェンナは問いかけて来た隊長に声を掛ける。
「ん?お前ジェンナか?こんな所で何をしているんだ?この時間帯は危険が多いからあれほど近付くなと言っただろう?」
どうやらジェンナとヒゲールと呼ばれた警備隊の隊長とは、知り合いの様だ。
事の成り行きを黙って見守るアルガドに、ヒゲールは視線を向けて「で?ジェンナこれは何事だ?」と次に倒れ臥す三人の姿を見ながら、ジェンナに問いただす。
「この3人があたしに因縁を付けて絡んで来た所を、このアルガドが助けてくれたのよ」と簡単に事の事情を説明する。
「成る程な。事情はわかった。後は此方で処理しておくからもう行っても良いぞ。ああそれとアルガドだったか?お前ももう行っても良いぞ。今回はジェンナが世話になったな。だが、あまり騒ぎを起こさんでくれよ」と礼をと軽く注意を述べて来た。
後で聞いた話だが、ジェンナの父とこのヒゲールは友人らしく。その付き合いでジェンナやその他のメンバーとも親しいらしい。
ジェンナ達はこの町の近郊の村出身らしく、時々依頼を求めてこの町に来るらしい。
ヒゲールと別れた後ジェンナは「さっきは助かったわ。お礼に晩御飯を御馳走するわ」と言われたので、御相伴に預かる事にした。
案内された酒場には、ジェンナのパーティーメンバーの4人が居た。
「あっ!ジェンナ何処に行って居たんだ?」とツンツン頭の少年のバックがジェンナを見つけて声をかけて来た。
「ごめんなさい。ちょっと何時ものところに薬草を下ろして来たのよ。その帰り道でチンピラに絡まれて居たところをアルガドに助けてもらったの」と横にいるアルガドの事を説明する。
「そうだったのか。ありがとう」と素直にバックはアルガドに頭を下げてお礼を言う。
「気にするな。明日は同じ班で行動するんだ」と気にしてないと答える。
「そうか、でも礼は受け取ってくれよ。ジェンナは大事な仲間だからな」
「わかった」
「よし!そうと決まれば此処は俺達が出すから好きな物を頼んでくれ」と笑顔で告げるバック。
「……俺……達?……」とロブが不満そうにバックを睨むがバックは「良いだろロブ?ジェンナを助けてくれたんだしさ」と言うと渋々ロブは頷いた。
「あ、あの…ジェンナちゃんを!た、助けて下さいまして、あ、ありがとうございます!」とミリーは緊張した様子でお礼を告げて来る。
どうやらミリーは、極度の人見知りで初対面の人とまともに話すのはかなり困難らしいが、打ち解けるととても元気な女の子だとジェンナが教えてくれた。
ウェイトレスが来たので、アルガドは遠慮無く料理を注文した。
「俺達はみんなこの近くの村の出でな大きくなったらビックになる。って決めて村を出てこのコメンドールの町に来たんだ。それで取り敢えず何をするにも金がいるから、傭兵になり将来の軍資金を集める為に今活動してるんだ。アルガドは何で傭兵になったんだ?」
基本的に傭兵同士は過去の詮索をしない。
要らないトラブルなどは御免だからだ。
アルガドがどう答えようか悩んでいると、ロブがバックの脇腹を小突いた。
それでハッ!とした表情を浮かべたバックは「すまない!今の話は忘れてくれ!」と頭を下げて来たので「大丈夫だ。気にしてない」と告げる。
微妙な空気が漂う中、ウェイトレスが料理を運んで来た。
この空気を変えようとジェンナが「さて!料理も来た事だし乾杯しましょう!」と元気よく告げて来た。
「そ、そうですね。食べましょう」とミリーもジェンナに乗りこの空気を払拭しようとする。
「そうだ〜食べよう〜おら腹が減って死にそうだ〜」と何時もの間延びした口調でトンゴも同意する。
「そうだな。冷めないうちに食べるか」とアルガドも告げるとバックも元気を取り戻し「よし!ならこの出会いに乾杯!」と音頭を取る。
それにみんなも「「「乾杯!!!」」」と続く。
運ばれて来た料理は、どれも美味しくて思い思いに談笑しながら食事をする。
思えばこうやって複数人でテーブルを囲み、楽しく喋りながら食事をするのは、初めての経験だな。
と考え深くこの景色を目に焼き付ける様に、全体を見回す。
酔ってウェイトレスにちょっかいを掛けて、宿の女将にどつき回されている馬鹿な傭兵や、仲間と肩を組み陽気に歌っている者達など、皆楽しそうに飲み食いをしている。
そんな光景を見ながら、アルガドも思わず頰を緩めながら食事を進めて行く。