第1話 始まりの出会い
檻の中は暗く聞こえるのは馬車を引く馬の足音のみだ。
檻の中には八人の男達が入れられている。
皆逞しい身体つきをしている。
檻の中は静寂が包み込んでいる。
彼ら8人は剣闘奴隷と言われる戦闘奴隷に属する奴隷達だ。
殆どの者達は物心つく前に奴隷へと落とされている。
そして奴隷へと落とされた理由の殆どは誘拐だ。
まだ幼い時に誘拐され小さい頃から剣を一日中振る毎日を過ごして来たのが彼ら剣闘奴隷である。
暫く進むと外が騒がしくなる。
耳を澄ませて外の様子を探るとどうやら魔獣の襲撃の様だ。
剣戟の音とこの一団の主人である奴隷商人の悲鳴と護衛の傭兵達の怒号が響き渡る。
奴隷商人が「そ、そうだ!剣闘士どもを檻から出して戦わせろ!」
「し、しかし旦那様!逃げられる可能性が!それに反逆の恐れも!」
「ならば足枷でもして棒切れを渡して囮にでもすれば良い!」
「しかし旦那様。こいつらはただの奴隷ではなく剣闘奴隷ですよ!?彼らを全て失えば我々は多額の負債を背負う事になります!」
「ええぃ!ならば奴だけをだせ!アルガドを!奴は儂が持つ剣闘士の中で最強の者だ!奴に剣を一本渡せ!それで十分だろう!」
なおも言い募ろうとする従者を奴隷商人は怒鳴りつけ従者は渋々檻の鍵と剣を持ち急いで檻へと向かう。
襲って来た狼型の魔獣の襲撃により当初15人いた傭兵も半数の8人にまで減っていた。
ガチャガチャとしてカチンと音がなり檻の鍵が開けられる。
「アルガド!出て来い!出番だ!」
従者の男に言われてアルガドと呼ばれた男は檻から出る。
「ほら、剣だ受け取れ。そして早くあの魔獣どもをーー」と従者がアルガドに向けて話しているとその後ろから一匹の魔獣が襲いかかって来たのでアルガドは従者を盾にして交わす。
「グッ!こ、この!アルガド早く助けーー」従者は喉笛を噛み切られ絶命する。
その隙に渡された剣を抜き狼型の魔獣に剣を上段から振り下ろして首を跳ね飛ばす。
流石に魔獣だけあり毛皮も頑丈な為に渡された剣が早速刃こぼれを起こした。
従者の死体から鍵を取り檻の鍵を開けて中にいる他の剣闘奴隷仲間達に「俺は此処から逃げるが、お前達はどうする?」と言い「逃げるも残るも好きにしろ」とだけ言い残して奴隷商人の元へと向かう。
後ろを振り向くと檻から次々に剣闘奴隷が逃げ出して行くのが見える。
「おお!アルガド来たか!早く魔獣をーー」と贅肉を揺らして怒鳴ってくる奴隷商人を一刀両断にする。
傭兵達は魔獣の相手に精一杯でまだ此方の異変に気付いていない内に奴隷商人の懐から財布を抜き取り荷物を漁り着ている襤褸を脱ぎ手早く着れそうな衣服を着て近くの鞄に少しの食料と衣服を突っ込み刃こぼれした剣の代わりに置いてある上質の剣を一本と予備の短剣を持ち森の中へと逃げ込む。
あの後傭兵達や他の剣闘奴隷がどうなったのかアルガドは知らない。
森の中を警戒しながら進むと古びた今にも倒れそうな建物を発見した。
一休みする為に建物の中へと向かう。
「?何だ。空気の流れが下へと続いている?」
床を蹴り抜くと階段が現れたので近くの机の脚を折りそこに布を巻きつけて家の中にあった火付け石で火を起こし即席の松明を作り階段の中へと進む。
暫く進むと此処が何かの遺跡である事が分かる。
学がない為にこの遺跡がどれくらい古い物かは知らぬがまあまあ古そうだと思いながらアルガドは歩みを進める。
暫く進むと祭壇の間に出た。
祭壇の上には光輝く一振りの剣が納めてあったのでその光に導かれる様にアルガドは近付いて行く。
すると気配を全く感じさせずいつの間にか目の前に女が目の前に姿を現した。
アルガドは思わず後退り額から冷や汗をかく。
まさか、此処まで全く気配を感じさせないとは。
と驚愕したが、その女の顔をよく見るとまさに絶世の美女と言ってもいいほど美しかった。
「何者です?」と発せられた声は凛としていて今まで聞いた声の中で一番美しいものであった。
アルガドは本能に突き動かされ無意識に片膝をつき「俺と結婚してくれ」と求婚していた。
目の前に現れた美女もまさかいきなり求婚されるとは思って居なかったのか、軽く目を見開き驚いて居た。
その驚いた顔も美しかった。
驚きから立ち直った美女が口を開いた。
その声はやはり美しく、綺麗で凛としていつまでも聞いて居たく成る程魅惑的な声色であった。
「私と結婚したいと?」
「ああ!今すぐに!」
「まあ、可愛いお人だこと。それにしても貴方の魂は面白い形をしていますね。……ならば貴方に一つ条件を出します。見事それを成し遂げたなら私は貴方の伴侶になりましょう」
何か気になる事を言った気がするが、今はそんな事よりも重大な事がある。
「その条件とは?」
「貴方の国を手に入れなさい。この世界で一番強大な貴方だけの国を。それを見事に成し遂げたなら再びこの地へと戻ってらっしゃい。その覚悟があるならこの魔剣クラウ・ソラスを手に取りなさい」
白く輝く魔剣クラウ・ソラスを戸惑うことなくアルガドは手にする。
「よろしい。では旅立つ前に貴方は読み書きや地理などは分かる?」と聞かれたので素直に首を横に振る。
「ならば、少しの間此処に留まりなさい。私が貴方を獣から一端の人にしてあげるわ」と言われたので喜んで頷く。
「世話になる」
「貴方の名前は?私はモルガーナ=レメナ=ゾルダッドよ」
「モルガーナは貴族なのか?」
この世界で苗字があるのは大抵が貴族であった。
「ふふ、さあね。それより貴方の名前は?」
不思議に思いながらも「俺の名はアルガドだ」
「そう、これからよろしくね。アルガド」
「ああ、よろしく頼む」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
モルガーナとの出会いから2年の月日が流れた。
この2年だ身長は伸び190cm代へてなり筋肉もだいぶ付き筋骨隆々な身体を手に入れた。
この筋肉はしなやかで伸縮性があり戦う為に特化した筋肉へと立派に育った。
アルガドは少年から青年へと立派に成長した。
モルガーナは時に母の様に、姉の様に接してくれた。
そして女の手ほどきも受け一人前の男はとアルガドは成長した。
モルガーナは謎多き人物で日中は殆ど外へは出歩かず建物の中で過ごす事が多かった。
モルガーナからは一通りの武術を習い武器の扱い方や食べられる植物や毒草などを教わった。
戦術や政治についてもある程度教わったが、難しくて覚えられたか怪しい。
それに何処から調達したのか馬も扱い方も習い今では中々の腕前だ。
そして別れの日モルガーナは餞別として丈夫で頑丈なハルバードと革鎧に特注のマントをくれた。
マントにはモルガーナの匂いが付いておりとても良い匂いがした。
「アルガド。今日でお別れね」
「ああ、必ずモルガーナに相応しい男になり戻って来る」
「これは少ないけど持って行きなさい」と金貨20枚を渡された。
見ると習ったことの無い金貨であった。
「ん?この金貨は初めて見るな」
「大丈夫よ。ちゃんと使える筈よ」と言われたので大人しく奴隷商人から奪った財布の中に入れる。
奴隷商人の財布には金貨12枚に銀貨24枚、銅貨8枚が入って居たので暫くは大丈夫だろう。
「では、行って来る」
「ええ、行ってらっしゃい」と別れのキスをして振り返る事なくアルガドはこの森から一番近くの町へと向かい進んで行く。
森から出た後は貰った馬に乗馬して風光明媚な景色を眺めながら町を目指して進む事1時間ほどで漸く街道に出る事が出来た。
「確か、左手の方を進めばガリブロ王国の町で右手の方を進めばメチフ小国の町だったな。え〜と、ガリブロ王国は国土は広いが人口は少なくて特にこれと言った産業が無い国だったな。メチフ小国は小国ながら軍が強い国で国内に鉱山を多数保有し鉄が良く採れる国だったか?」モルガーナに教わった知識を引っ張りだしながら何方の国に行こうかと悩む。
ガリブロ王国方面の町へは馬の脚で2日、メチフ小国方面の町へは馬の脚で3日掛かる距離だった筈だ。
「まあ、悩んでも仕方がないか」と其処らへんに落ちている枝を拾い枝を真っ直ぐ上に立てて手を離し落ちた方向に行くことに決めた。
綺麗に右と左の何方かに倒れればいいが………「っお!左に倒れたな。よし!じゃあガリブロ王国の方へ行くか」と馬に乗り馬首を左にしてガリブロ王国方面へと馬の脚を進める。