失踪と設い
記憶の錯綜。
曖昧に繋がり、想い出を撹拌する。
誰彼に関わりなく、時場を物ともせず、優劣すら忘れるように。
出来るだけ大きな手で、形を崩さぬようにゆっくりと掬い取る。
震える指先を抑え、平に乗せるそれは、しかし形作ることを是としない。
掬い取り、すぐさま崩れ去る姿は儚げで、憂いすら響かせるように蕩ろけ、滴り落ちる。
飛沫の走る水面を見つめる瞳は焦点を合わせず、事象の有無に気付かないふりをする。
切り取られた一枚絵。
静止した手指に残るものは、残滓と呼べるほどに少ない。
それでも、と。
その残滓があれば事足りると思わせるように、想像し尽くす。
がむしゃらに混ぜ込んだ記憶と妄想。
崩れ落ちる記憶を妄想で補填し、点と点を繋いでゆく。
そうして設えた記憶は、想い出として呼び出される。
虚実の混交は大事ではなく、思い出せる事に意味を成す。
また一つ、過去の物語が形作られる。
自身は真であると主張しながら。