施設案内
「取り敢えず、改めまして。サキです、よろしくお願いしますね、ユウナギさん!」
ピンクの髪と笑顔が眩しい。
私とサキちゃんは今、エレベーターに乗っていた。
「まず、ユウナギさんに案内しておきたいのが2〜3階と9階にある訓練施設です」
サキちゃんは、2階とか3階とか言っているが、地下の話である。
「訓練施設って事はやっぱり戦闘訓練?」
「はい。私たちサラウンダーは、基本的に特殊兵装を用いた攻撃作戦の為に作られた人間兵器なので、やっぱり戦闘が本分なのです」
なんだかんだ言って、カテゴリーは「兵士」じゃなくて「兵器」なのね…。
ピー…
エレベーターが付いたのは3階訓練場であった。
天井がやたら高い…。
「これ、2階層分の広さ?」
「はい、2階と3階をブチ抜いて作った訓練場で、2階で降りれば、壁の中腹にある、あのギャラリー部分に出ます」
あ、確かに。
内壁をぐるっと囲むようにギャラリーが備えてある。
「このフロアは、基本的にサラウンダーの肉弾戦闘訓練に適しています」
肉弾戦……って。
限りなく白に近いグレーの壁に囲まれた凄く広い空間だが……床や壁、なんなら天井には明らかに肉弾戦では付かない様なキズが幾つも見受けられた。
「肉弾戦って……素手?」
「素手ももちろんですが、物理的、原始的な武器を利用した戦闘も含みます。剣とか棍棒みたいな、簡単な武器ですね。
特殊な機能が付加された武器も、ここではその機能を使わないのがルールになっています
正直、この階の壁はそこまで丈夫じゃ無いので」
剣とか棍棒であんなキズが付くって…サラウンダーっていったい………。
「武器の全ての機能を使用可能な訓練は9階限定になります。
10階がこのチームの総合研究施設でもあるので、特殊兵装のデータが取りやすいんですよ」
なるほど。
「それじゃ9階に行ってみますか。ユウナギさんはカンナさんの研究助手とゆう事ですので、9階と10階の方が利用頻度が高いかも知れないですしね」
♪♪♪♪♪
ピー…
9階。
エレベーターの扉が開くとそこは、白い砂で覆われた砂漠の様な場所だった。
そして…なにより、広い。
「砂漠……?」
「驚きました?
この階は8階までと比べると、床面積が2.5倍くらい広いんですよ!
ちなみに、この砂…厳密には砂鉄なんですけど、「トーン」と「チーム」が共同開発した訓練施設用特殊変異砂鉄なんです」
「特殊変異砂鉄?」
「はい、実際に見た方が良いですね。シオン!」
不意にサキちゃんが呼びかけた。
『お呼びでしょうか、サキ様』
フロア全体に男の人の電子音声が響いた。
電子音声とゆうことは…セキュリティーインターフェース?
「この子、今日からチームに入ったユウナギさん」
『存じております。カンナさんの研究助手だとか?
初めまして。
私、この9階戦闘訓練フロアを統括する、戦闘訓練補助及びセキュリティーインターフェースのシオンと申します。今後ともよろしくお願いいたします』
「あ、よろしくです」
取り敢えず、ヤオトよりは礼儀正しいみたい。
そして、戦闘訓練の補助まで兼任してくれるから、多分ヤオトより「出来る」んじゃない?
「そんじゃシオン。ここの設備を見せてあげたいから、取り敢えずフロアをまずスタンダードアルファにしてちょうだい」
『かしこまりました』
サキちゃんがシオンに指令を出した。
不意に砂が高速で動き、うねり、色が変わり…
なんと、今まで白い砂漠だったフロアが、一気に戦場の様な市街地となった。
「な、なにこれ!?」
「凄いでしょ!じゃ次はマイナーガンマ!」
『かしこまりました』
シオンが快諾すると、すぐさま市街地は元の砂に戻った。
が、直後に青々と萌える草原が目の前に広がった。
「こ、これって!?」
「これは全部さっきの砂なの!」
「うそ!?」
私は試しに足元の草を千切ってみた。
確かに、手の中にある草は、草の形、色をしているけども、ザラザラしており、手触り自体は固めた砂である。
「シオン、説明してあげて!」
さっきから思ってたんだけど、サキちゃんがなんで得意げなのかがわからない。
まぁこのふんぞり返りドヤ顔してるピンク髪は、身長も相まって可愛らしいんだけど……。
『サキ様。ご自身で説明出来ないのでしたら最初から言っていただければ、説明致しますよ?』
「んぐ!?」
言うなよシオン…なんとなく気付いてたけどさ…。
ほら顔が赤くなった。泣きそうな顔してるし。
シオン…もしかしてSっ気あるな……。
『それでは説明させて頂きます。
このフロアの砂は、先ほどサキ様が仰った様に「特殊変異砂鉄」と申しまして、厳密には砂鉄です。
このフロア全体に人体に影響の無い微弱かつ特殊な電磁波を流す事により特殊変異砂鉄を自由な形と色、強度に変異させているのです』
「で、この砂鉄をトーンとチームが共同開発したってこと?」
『おっしゃる通りです。流した電磁波の形にそって砂鉄が動き、空中で固着します。
フロア全体に人の動きを感知するセンサーが張り巡らせてあるため、物を形作った変異砂鉄は、外部干渉もプログラムによって再現されます。』
「ん?とゆうと…?」
『つまり、先程ユウナギ様がされた様に、「草」を形作った砂鉄を、本物の草の様に引き抜いたりすると、引き抜いた者の動きを感知して、「草」が元の位置から動いても、それを電磁波が追従し、電磁波の効果範囲内であれば、どれだけ「草」を移動させても「草」は形を保つのです』
「かなり本物志向なのね?」
『はい物理法則に基づいた自然な動きを再現致します。
コレは市街戦などのさい、爆発物を仕様された時のガレキの飛び方や、その回避の訓練などに応用出来るため、至って有用なのです』
へぇ〜………てか、サキちゃんまだ不貞腐れてるし。
『次の特徴と致しまして、この変異砂鉄は、
流す電磁波の微細な電力の違いにより色が変わります。
再現できる色は赤、緑、青、黒、白となっていますが、粒子が細かいため様々な色を表現可能です』
「テレビみたいな色の表現をしてるわけね」
『おっしゃる通りです』
取り敢えずここまで聴いて………
やばい………
すごい……凄すぎる!!
私にとって楽園みたいな技術の宝庫!!
なんか興奮してきたぁぁぁあ!!!
「ん?新入りじゃん?あ、そうか。サキが案内してるんだっけ?」
不意に後ろから声がして振り向くと、
紅いポニーテールが犬の尻尾を思わせるユフィと、常に前髪で目元を隠している冷静人間…いや、冷静サラウンダーのスズネが、エレベーターから降りてくるところだった。
スズネは先ほどと少し出で立ちが違い、黒いマントを羽織っていた。
『おはようございます、スズネ様、ユフィーリア様』
シオンの挨拶に、ユフィは「おう!」と返事をし、スズネは無言で頷いた。
「シオン、今日はスタンダードデルタでよろしく!」
『かしこまりました』
ユフィの声にシオンが応答すると、草原を形作っていた砂鉄はみるみるうちに、何処かの工場内部の様になっていた。
「あのユフィさん、今から戦闘なんですか?」
不貞腐れていた顔が元に戻っていたサキがユフィに尋ねた。
「おう、スズネとちょっと手合わせをな!
ウチの「ゴング」をまたカスタムしたんで、その試験って感じだな!」
「そう…ですか」
なにか、サキが少しシュンとした声で返事をした。
「先に行っておく」
そう言ってスズネはすごい速さで工場の中に消えていった。
相変わらず、冷静とゆうか、冷たいだけとゆうか…。
私はふと思い、ユフィに声をかけた。
「ユフィーリアさん」
「ユフィで良いって!」
「じゃユフィ。」
「順応早いな」
「その「ゴング」ってのは?」
「これ」
私の質問に対して、ユフィはエレベーター入り口近くに置いてあった、
ユフィが会議室で装備していた、あの大きなグローブを指差した。
「あれが「ゴング」か…トーンの特殊兵装?」
「おぅ!でもちょっと世代は古いんだよねぇ。ま、ウチの戦いには合ってるから良いんだけどさ!」
なるほど…。
「トーン」の特殊兵装には幾つかの世代があるのは知っていたけども…私は最新世代の第三世代から知ってるから…「ゴング」ってどれくらい前の世代なんだろ?
おもむろにユフィはグローブ…「ゴング」を腕に装着した。
装着すると、前腕部が全体的に普通の腕の5〜6倍もの大きさとなった異様なシルエットで、「ゴング」の名の示す通りとなった。
てか…いったい何キロあるんだよアレ……。
ユフィは「ゴング」を装着した状態で腕を上げグリグリと振った後、手のひらをグーパーグーパーと動かした。
「うっしゃ!シオン、スズネは位置についたか?」
『はい。ちょうど着いたところです』
「いよっしゃ!!見てろよスズネぇ!!ウチの新たな「ゴング」によるぅぅ!!猪突猛進戦法ぉぉぉおおお!!!」
猪突猛進戦法って……それ戦法?
言うが早いか、ユフィは両拳を前に突き出した状態で、目の前の障害物などまるで無いかの様に一直線に走り出した。
すごいよ。
うん。
行く手を阻むものは拳で全て打ち砕くあの感じ?
ある意味爽快だわ。
「と、取り敢えずここは危険になるので、移動しましょうか…」
「そだね…」
サキちゃんの言う通りである。
♪♪♪♪♪
「ここが10階。チーム総合研究施設です!」
訓練施設である9階と同じくらい広い空間に、やたらわけのわからない機械類が多種多様なラインナップで置かれていた。
なんだこのコンピュータ市場……。
そんで、一番異様なのが……
「ここ…人は居ないの?」
広さの割に無機質なコンピュータ群しか存在しない…なんかホラーゲームとかにこんなステージ出てきそうだわ…。
「ま、全部SIFが管理してますし?」
セキュリティーインターフェースの事かな?
「トオンとかが?」
「はい!たまにカンナさんがいろいろ弄りに来たり、月一であるチーム全員での模擬戦闘をここでみんなで観たり…それくらいですね?」
「模擬戦って9階で?」
「はい!今も観ようと思えばスズネさんとユフィさんの闘いとか見れますよ?」
『観ますか?』
「「うわぁ!?」」
不意を付いてシオンの声が聞こえサキちゃん共々驚いた。
「シ、シオンってここも管理してるの?」
『いえ、この総合研究室に至っては全セキュリティーインターフェースの管轄ですので』
なるほど。
さっきからなるほどしか言ってないけどね、私。
『ところで、ユフィーリア様とスズネ様の戦闘、拝見なさいますか?』
言いながらもうモニター起動してるし。
画面に映ったのは……
『ん!あぁ!やめろスズネ!!そ、そこは!あぁ!!』
「んなッ!?」
鎖によって がんじがらめにされてる上、空中に吊られているユフィの、なんか妙にエロい姿だった。
ユフィが意外と巨乳なことを、嫌と言うほど見せつけられてしまった。
ちなみに、このユフィを絡めている鎖はと言うと…。
「スズネの武器?」
『はい。スズネ様の特殊兵装「コブラ」です』
マントによって詳細はわからないものの、
明らかにスズネの羽織っているマントの下から伸びた鎖が天井近くの鉄骨部分を通り、ユフィを絡めていた。
「てかこれ………ユフィの負けじゃん」
「ですよね…」
『降参ですスズネさまぁぁ!ゆるしてくださぁぁい!』
本人が言っちゃダメでしょ…。
♪♪♪♪♪
あぁ変なもの見ちゃったよ……。
「まぁ8階は特殊兵装の整備設備や、保管庫になっているので、まだ個人の特殊兵装がないユウナギさんには、今は説明しないでも大丈夫ですかね?
多分特殊兵装が決まる頃に利用する様になると思うので」
そしてサキちゃんと乗ったエレベーターが次に止まったのは、4階だった。
ピー…
エレベーターの扉が開くとそこは、なんとゆうか……ゲーセンだった。
「ここって?」
「はい!カンナさんの趣味で作られた娯楽施設です!世間一般の有名なアーケードゲームやクレーンゲーム、それに写真シール機とかもありますよ?」
「写真シール機……?」
サキちゃんが何故かちょっとイラっとする顔をしてふんぞり返った。
「ユウナギさん、写真シール機知らないんですか?
では、ご覧にいれましょう!
これが写真シール機ですよ!!」
サキちゃんの指差した先に有ったのは…
「プリクラじゃん。」
うん、なんか予想出来たけどさ…。
「え?あ、いやこれは!写真シール機と言って!幾つか撮った写真が1枚のシート状のシールとなって出てくる画期的な代物なんですよ!
ぷ、ぷりくら(?)とは違いますよ!」
あ、サキちゃん必死モードだ。
「し、しかもこの写真シール機!なんとすごい機能が付いてて!
撮った写真に………」
「文字を書き込んだり、スタンプ貼ったり出来るの?」
「そうなんです!!………え?」
「いや、だからプリクラなんでしょ?」
サキちゃんしゅんとしちゃったよ。
可愛らしいから良いんだけどね。
なんか、この子、弄りがいがあるわぁ。
『『いらっしゃいませぇ』』
急に2人分の電子音声が響いた。
『ここのセキュリティーを担ってるフォルテでーす』
『同じくピアニです』
少し低めの女声と、真面目さの中におっとりとした感じが含まれる女声だった。
「ピアニぃぃ!こいつがいじめる!!」
『サキ様は充分な知識を持たないまま、知ったかぶりをするから今みたいな事になるんですよ?しっかり勉強しなければなりませんね?』
おっとりとしたピアニの声がサキちゃんをなだめていた。
………いや、これなだめてるか?
『ま、こいつバカだから無理じゃない?』
フォルテがバッサリ言う。
「ピぃアぁニぃぃぃぃ!!!」
サキちゃん、半ベソかいてる。
『フォルテ?また全ての機能に制限を掛けてあげましょうか?』
『い、いやそれは!ちょ、ちょっとスズネの所行ってきまぁす!』
………なんか垣間見えた上下関係。
♪♪♪♪♪
『ここはチームの皆さんが息抜きのために来るフロアでして、ここのゲームは全て無料で遊べますし、奥の方には大型浴場もありますのでいつでも気軽においでなさって下さい』
ピアニが説明してくれた。
「みんなここに遊びに来るんだ…」
『はい。今もマキナ様があそこでクレーンゲームをしてますし』
「「え?」」
少し奥の方を見てみると、なんかやたら可愛いウサギのぬいぐるみが取れるクレーンゲームとマキナさんが対峙していた。
これ、見ても良いやつなんだろうか?
♪♪♪♪♪
なんだかんだと施設を一周し(とは言ってもエレベーターで上り下りしただけだが)
私とサキちゃんは地下1階にある食堂へとやって来た。
「もぅお昼ですし、ユウナギさん、何か食べません?」
「でもここの食堂って何があるかよく分からないし」
「大抵のものはありますよ!ワニ肉とかカエル肉とか」
「何そのマイナーなラインナップ!?」
食堂は、さすがというか、清潔感に溢れる白を基調としたテーブルやイス、壁紙で、所々に置かれている観葉植物の緑がキレイだった。
『はいはぁい!いらっしゃぁい!サキちゃんにユウナギちゃん!
あ!ユウナギちゃんは「初めまして」だね!』
食堂にいたのは、今までのインターフェースと違って、「身体」のあるインターフェースだった。
つまり、ロボット。
身長が約160cm程のロボットで、脚ではなく、恐らく車輪で動いていると思うが、ロングスカートを思わせる外装でハッキリとは分からない。
腕は人間と同じ形で、顔はシンプルで、丸く、顔面の3分の1はある大きな青いクリアパーツの目があり、口や鼻は無い。
髪は生えてないのは、ロボットだから良いとして、ただポニーテールのようなパーツが後頭部にある。
とゆうか、まるで定食屋のおばちゃんを思わせるバンダナを頭に巻いており、腰にもフリルの付いたサロンエプロンを着けている。
ちなみに、胸部分にモニターがあり、そこにはトオンやヤオトのように3DCGのヘ音記号が表示されていた。
『アタシはここの食堂全てを取り仕切る、食堂の女神!ヘオでーす!よろしくね!』
そして、ヤオトよりもふざけてる……いや、砕けてる性格のようだ。
『で、何食べる?』
「私はいつもの!ユウナギさんは?」
「え?あ、じゃあ生姜焼き定食とかあります?…うわ!」
ヘオが急にビシッと人差し指を突き出してきた。
『ちっちっちっ!甘いよユウナギちゃん!』
「な、なにがです?」
『言ったよね?アタシはここの、食堂の女神だと!
アタシに作れない料理なんて無いのさ!
カレーライスにハンバーグ!
シチューにステーキ、ちゃんこ鍋!
更には更には!
お好み焼きに、豚骨ラーメン!
キリタンポから湯たんぽも作り!
おにぎり!おむすび!にぎりめし!
ジンギスカンからゴーヤーチャンプルーまで!!
なぁんでもござれよ!!
生姜焼きなんて、んなもん作れるに決まってるでしょぉ!!』
………おにぎり率高いな。
てか、途中食べ物じゃないものもあったし。
取り敢えずいろいろ作れるみたいですね……。
まぁ食べる物が普通の物なら、それで良いよ。
こうして、若干ドタバタしてるけど、チームでの最初の1日が始まった………。
『あーあー、マイクチェックしてまーす。
あ、えーっと。
新入りのユウナギー、あとユフィ、サキ、タンヤン。
今呼ばれた人たちは、このあとヒトサンマルマルに、6階講義室まで来てくださーい。
以上でーす。
えっと、あれ?このボタンだっけ?あ、違う。
あ、このボタ』
………なんか、変な放送がカンナさんによって流された。
はぁ……まだ1日は始まったばかりなのにね……。
お読みいただきありがとうございます…。
もぅほんと。
一度半分くらいまで書いた下書きを誤って消去するとゆうなかなかの失態をしでかしまして…
泣きたくなりました。
今回施設案内を中心にしたんですけど、意図して簡易に説明させてもらいました。
まぁ後々階ごとにエピソード書くつもりなので、長い目で見ていただけると嬉しいです。
では引き続きお読みくださるみなさま、応援してよろしくお願いいたします。
ご意見、ご感想、ご指摘、お待ちしております!
では次回、お会いしましょう。