なんでも無い1日
その日の空葉原は珍しく人が少ない様に感じた。
平日ではあるものの、放課後にココに来ると少し歩いただけで人の多さに酔ってしまいそうな場所なのに。
個人的にはゆったりとスクラップやらジャンク部品やら見て回れるからいいけど。
ここ、空葉原は日本の国家指定工業都市だ。
表通りには高層ビルが立ち並び、その1つ1つが工業製品の専門店となっている。
正規ルートで入手できるジャンク部品やスクラップもココにほとんど集まっている。
が、学生には手が出せない値段の商品ばかり。
ただし、少し裏の通りに入れば、表通りほどでは無いものの、豊富な品揃えのスクラップがあり、
なにより!正規ルートで入手するものより格段に安い!!
とは言っても、裏ルートで出回っている危なげなジャンク部品もあるから…油断は禁物だ。
この歳で警察にお世話されるのは嫌ですし。
まぁ私と同年代の学生は、普通裏通りなんか行かないけどね。
……私は好んで行くけど。
ビル街からさほど遠く無い所に位置している裏通り。
見た目はさながら「シャッター商店街」と言った感じかな?
とはいえ、シャッターが閉まってるだけでこの通りの店は全て開店している。
そりゃ裏ルートで入手した物を売ってるワケだし、表立って販売は出来ないよね。
「よぉ、ユウナギ。またスクラップ漁りか?」
ある店の閉まったシャッターの前。そこに立っている、薄汚れたツナギを着たおっちゃんが声をかけてきた。
「まぁねぇ、ちょっと探してる物があるからさぁ」
裏通りを歩いていても、こうやって見知った店主が話しかけてくるくらいに、私はここによく来る。
そして、この声をかけてきたおっちゃんは、
私がよく通うジャンクパーツ屋の店主、村瀬さん。
この商店街、閉まったシャッターの前には誰かしら人が立っている。
立っているのはもちろん店員か店主。
表立って店は開けない、けれどお客さんが来ないと意味が無い。
だから店の人が、訪ねてきたお客さんが、お客さんとして信用出来るか判断するために、シャッターの前に立ってるのだ。
ま、客選びと店の警備を同時にやってるようなものだね。
危なっかしい物も取り扱ってるが、裏通りで店を構えているのは、みんな西日本から流れてきた気の良い人達だ。
西日本……。
私がまだ幼稚園生の頃だから、全然覚えてないんだけど、
日本の西側に位置していた大国 帝華が「有益戦争」を銘打って侵略してきたのだ。
そのころの日本は私が生まれる前の大きな事件のせいで、国の軍事力はほぼ無い状態だった。
九州に上陸した帝華軍は瞬く間に西日本を制圧。その時の被害は甚大で、10年以上経った今でも復興していない。
確かその時はいろんな国が連合組んで、日本に攻めていた帝華軍を弾圧。
加えて、帝華という国そのものを壊滅させたらしい。
ま、学校で習った歴史の授業の受け売りだけど。
その時に西日本から東日本に移住してきた人の一部が、この裏通りにいるわけで…かくいう、私も西日本の出身だったりする。
「探してる物?ユウナギが進んで物を選ぶなんて珍しいな?」
村瀬さんはすこし驚いていた。
「ちょっと「トーン」の特殊兵装カタログ見てたら、面白そうな物があってさぁ」
「トーン」とは、この日本で最も巨大であり、世界で見ても5本の指に入る軍需企業だ。
主に特殊兵装と呼ばれる物を作っているのだが、そのカタログが月一のペースで出回る。
そんな兵器のカタログなんて、正規ルートで入手しようとすれば、私みたいな学生は…まぁかなり早い段階で入手ができない事を知るんじゃないかな?
そりゃ兵器のカタログなわけだしね。
まぁそーゆーとこ、裏ルートとか裏通りってのは楽で良いね。
兵器のカタログなんて、コンビニに置いてある求人広告の冊子くらい簡単に手に入る。
「特殊兵装ねぇ?
ま、ユウナギならスクラップからちょちょい!っと作っちゃうんだろうけどな」
「まぁねぇ」
私には特技がある。
それはスクラップやジャンク部品から道具を作る事だ。
その製作スピードが普通の速さを、容易に越えているのは、この年齢になれば分かる。
つまり、私にかかれば、
何世代か前のプッシュキーの付いた携帯電話なんて、パーツさえ揃っていれば1〜2時間で作れる。カメラ機能付きでね。
「そんで、おっちゃん。こんな感じのパーツ探してるんだけどさぁ………」
♪♪♪♪♪
一番欲しかったパーツは無かったものの、おっちゃんが手に入ったら取り置きしてくれるらしいし、それ以外には何個か別の店で手に入ったから今日は良しとしよう!
にしても12月の風は、女子高生には結構キツイ……
タイツを履いているものの、下半身は腰に布を巻いただけなわけで、ほんとにスカートってなんなのかね?
学校指定の制服の生地なんて、防寒能力はクソスペックだし……。
マフラーをしっかりと巻き直し表通りに出ようとした私は、突然細道から出てきた誰かにぶつかってしまった。
「わ!ごめんなさい!!」
ぶつかったのは同じ年頃の女の子だった。
その人は見た事の無い型のヘッドホンを付けていて、前髪は目元を隠すくらい長いが、髪型としては雑に切ったおかっぱ?と言った感じで、とてもキレイなツヤをした黒髪だった。
「あ、あの大丈夫ですか……?」
鉄製のジャンク部品がジャラジャラ入っている私のカバンに、どこかぶつけていたら結構大変だ…。
しかし、女の子は特に何も無い様に、ただ私を見つめていた。
……かなり無表情で。
「あのぉ…………?」
「………びっくりした」
「ぉ………おぅ…ですよね」
凛とした声で、わりと普通の事を、とても溜めて女の子は言った。
「お前は……サラウンダーなのか?」
「………ん???」
突拍子もない事を言う、とんだ電波な子だったのか?
「そのヘッドホン。チューナーだろう?」
「え?あ、これ?」
確かに私もヘッドホンをしていた。
しかしそんな名前を付けた覚えは無い。
「これは私が作ったものだよ。ちょっと物作りが趣味でね!でもただのヘッドホンじゃないよ!!
耳から脈を取ったり、脳波を感知したりして身体の健康状態を管理できるし、ここに小型のカメラがついてて私が見たものそのまま画像とか動画で保存したり、それからそれから!!」
「それ……チューナーだろ」
自分で作った物を説明してると、興奮して止まらなくなるのは私の悪い癖だけど…それをぶった切ったこの子は、全く人の話を聞いてないのか?
「だぁから!違うって!
だって私が作ったんだもん!!
はぁ………あなたも、変わったヘッドホンしてるけど…何処のメーカー?もしかしてあなたも自作のヘッドホン??」
「だからこれはチューナーだろう。
………お前……頭ぶつけたか?」
私のセリフだ。それは。
てか「チューナー」ってなによ?
「……お前、調整はしっかり受けているのか?」
「調整…?なんの調整よ?」
「……調整を受けてないのか。
分かった。少し緊急自体の様だ」
なにが緊急なのよ。
てか、なんなの、この子。
「ついて来い」
そう言うと、彼女は私の腕を掴みツカツカと道を歩き出した。
「え!?いや、ちょっと!何処行くわけ?」
「私のチームの、拠点だ」
お読みいただき、ありがとうございます。
らくしむす と申します。
この作品以外でも何個か書いているんですが、しばらくの間、この作品「有益戦争と調律者」に力を注ごうと思います。
何卒、応援よろしくお願いいたします。
では、次話でお会いできる事を願っております。