第32話 ~ 覚醒 ~
俺達は今、死騎将のダン・ピエール・カルダンと対峙している。
奴は長めの銀髪に深紅の瞳をしており、口からは牙が見えている。
まさに吸血鬼といった姿だ。
ちなみに奴以外の吸血鬼は瞳の色がオレンジ色らしい。
「ふぅー。」
俺は大きく息を吐いて剣を構える。
貸与されたとはいえ、ここまでよく持ってくれた剣だ。
後で誰がこの剣を打ってくれたか聞こう。
などと思っているのは、自分でも不思議なくらい心に余裕があるからだ。
管理者の力がそうさせているのか.........
奴は急に喋らなくなった。
手には俺を突き刺した、深紅に輝く剣が握られている。
魔剣というやつだろうか。
「皆さん、ここは俺にまかせて回復してください。」
俺は奴を睨めつけながら話しをした。
「な、何を言っているんだ、タケル!」
姫様が抗議の声を上げる。
「皆さんはかなり消耗しています。それに俺はある力を手に入れました。奴を倒せます。」
「し、しかし.......」
姫様達は吸血鬼との戦いでかなり消耗していた。
次、戦ったら誰かは犠牲になる。
それは避けたい。
「お前が一人でか?.......ふははははは!なめられたものだな!」
「ありがとう........」
「あぁ!?」
「お前のお陰で力を手にいれた。」
「ほざけ!」
奴は剣を構え、こっちに接近してきた。
以前は見えなかっただろう。
だが、今は普通の速度に見える。
奴は袈裟斬りに斬りつけてくるが、それを剣で受ける。
つばぜり合いになり、俺は奴を押し返して蹴り飛ばす。
「ぐっ!」
あまり力を入れてないが、奴は壁まで飛んでいった。
マジか..........
自分でも驚いた。
まだ、強くなったのに対して認識が追い付いてないようだ。
「やってくれたな!」
壁から抜け出した奴が声を荒げる。
奴は勢いよく接近してきて、剣を振ってくる。
それを冷静に受けていく。
「やはりその力、脅威だ。ここでお前を殺す!」
そう言うと奴は、全身から魔力が溢れだした。
「全力で貴様を殺す.........」
「そうか.........なら、こちらも全力でいこう。」
俺は力を全開で出す。
「はあああぁぁぁぁ!」
俺の体にも魔力が溢れだし、虹色に輝いていた。
「セブンス・エフェクト.........」
姫様の声は聞こえてはいたが、今は答えられない。
この状態はかなりの集中力が必要で、少しでも気を逸らすと解けてしまうからだ。
「行くぞ........ファイアボール!」
俺は初級火魔法の火球を放ち牽制する。
と、同時に奴に向かって駆け出した。
「ヌン!」
奴は火球を避けることなく、手で振り払った。
「はっ!」
剣で袈裟斬りを放つ。
だが、奴は剣で防ぐ。
お互いが一歩も引かず、部屋の中央で斬りあっていた。
しかし、どちらの攻撃も届かず全て避けられるか、ガードされてしまう。
実際、今斬りあっている早さは3分も満たずに幾つも斬撃を放っていた。昔の俺では考えられない早さだな。
このままでは埒があかない。
セブンス・エフェクトで身体能力を極限まで高めているが、奴は俺と似たような事をして、同じ様に身体能力を高めている。
この力についてくるとは..........
こいつ、かなりの実力があるぞ。
「だぁ!」
思いっきり斬り飛ばす。
案の定ガードされてしまうが、距離は放せた。
俺は一気に魔力を練り上げて、魔法を放つ。
「グラン・レイ!」
光魔法で最上級の魔法だ。
簡単に言えば、極大のビームだ。
俺の魔法は奴に向かって襲いかかる。
「ナメルナァァ!.......グラヴィティ・ノヴァ!」
奴は対抗するために、闇魔法の最上級を放つ。
お互いの魔法がぶつかり合い、衝撃波が発生した。
「ぐっ!」
あまりにも強い衝撃に、迷宮全体が揺れているかの様に感じる。
お互いの魔法は相殺され、消えていった。
俺はすぐに奴に接近して斬りかかる。
それに反応して奴も斬りかかってくる。
だが、奴の動きが悪い。
「はぁ!」
隙をついて、胸を斬りつけた。
「グッ!」
奴は一旦距離をとろうとするが、そこに蹴りをいれる。
「グァア!」
腹に直撃し、地面に転がる。
「どうせ距離を取るなら、大きく取らせてやったぞ。」
「クソガァァ!」
口から血を吐きながら立ち上がってきた。
おそらく、姫様達との戦闘や闇魔法の最上級を放った事により、消耗してきたのだろう。
「カース・エッジ!」
闇の刃を放ってきたが、光の魔法剣で切り裂く。
俺は奴に向かって駆け出し、
「ライト・エッジ!」
光魔法をのせた剣で斬りかかる。
奴は剣でかろうじて防ぐが、体に切り傷をつけられる。
パキィィン!
奴を斬りつけたたら、剣が折れてしまった。
だいぶ使い古していたから、仕方ないか。
俺は大きくバックステップをして、姫様の所へ行く。
「姫様、ちょっと剣を借ります。」
「へ?おい、ちょっと........」
今は答えてられない。
何故なら奴がこちらに向かっているからだ。
姫様の剣はミスリルで作られており、最高級の鍛冶士によって打たれた剣で、ちょっとやそっとじゃ折れない。
「そろそろ、終わりにしよう。」
奴と剣を交えながら、話しをする。
「貴様をコロス!」
「死ぬのはお前の方だ!」
お互い同時に距離を離す。
俺はセブンス・エフェクトを剣に伝えて、収束させる。
刀身が虹色に輝く。
奴はさらに身体全体に魔力で覆っていく。
背景の全てが暗闇に覆われていくかの様だ。
これがお互い最後の一撃になるだろう。
「終わりだ!.......セブンス・セクター!」
「シネェェ!.......デッド・エンド!」
お互いが剣を振り降ろす。
凄まじい衝撃と魔法による光が辺りを包む。
「うおおおおぉぉぉぉぉ!」
「ガアアァァァァァ!」
一瞬の強い衝撃波と共に辺りが急に静寂になる。
立っているのは、俺一人だ。
奴は頭部だけを残して、地面に転がっていた。
いくら吸血鬼といえども、ここまで損傷を受けたら回復できないだろう。
「我は負けたの、だな.......」
「.......ああ。」
俺は奴の下まで歩み寄った。
「我は負けたが、あのお方はもっと強いぞ.........我より遥かにな。」
「..........ああ、知ってるよ。」
管理者の力を得た時、魔王に関しての情報も得ていた。
「クククク..........ハーハハハ!お前達は必ず魔王様に屈する!あのお方は絶対的強者!勝てる者などこの世にはいない!せいぜい足掻くんだな人間どもよ!!」
そう言って奴は塵と化した。
いつまでも奴の笑い声が聞こえているかの様だった。
俺達は今、迷宮を出て知恵の村まで来た。
「いやー、あの時の姫様ったら.......大胆でしたなー。」
「シームよ.......まだ、言うか。」
シームさんと姫様があの時の事をまた話しをしていた。
吸血鬼のダン・ピエール・カルダンを倒した後の事だ。
「姫様......勝ちましたよ。」
俺は姫様の方を振り向いた。
「タケルーー!」
振り向いたと同時に姫様が突っ込んで来た。
「ぐぼはぁ!」
腹に突進が直撃して、吹っ飛ばされる。
いくら力を得ても、不意討ちなら大ダメージだな。
「ひ、姫様.........」
「タケル!心配したぞ!なぜ一人で戦った!何だその力は!どうして生きている!」
「あ、あの.......とりあえず、離れませんか?」
今、姫様は俺に跨がっている。
なんか前にもこんな事があったような.........
「へ?.........き、きゃああぁぁぁ!」
この状態を理解したのか、急に顔を赤らめて拳を振り降ろしてきた。
当然、俺はマウントをとられているので、ボコボコやられる。
「り、理不尽だ........」
なんか.........前にもこんな事があったような。
と、いうことがあった。
そして説明のために知恵の村まで戻ってきた。
これから宿で部屋を借りて、俺の身に何が起きたのかを話す。
正直、あまり話したくない........
何故なら、絶望的な話しになるからだ。