第31話 ~ 神界 ~
何もない..........
見えるのは白、一色だ..........
ここは覚えがある。
何度も来ていた。
またここか..........
何回目だ..........?
だが、いつもは何となく認識していた。
まるで夢の中にいるような感覚だったが、今回ははっきりと認識している。
ここが現実かのようだ。
『いや、現実じゃないよ。まぁ、夢でもないけどね。』
「っ!?」
後ろから声を掛けられ、驚いて振り向く。
そこには男がいた。
そいつは白のローブを着ており、金髪で俺よりも背が高い。キリっとした顔付きに、少し日焼けした肌。
まさにイケメンだ。絵に描いたようなイケメンだ。
「あんたは?」
『ん?覚えてないのか?』
「...........」
会ったことあったかも?
うろ覚えだな。
『まぁ、それも仕方ないか。やっとここが認識できるようになったもんな。』
「っ!」
こいつ......俺も考えを!
『ああ、読めるよ。とりあえず自己紹介しようか。僕は飛島 真人。こっちの世界ではルーファス・ルク・サルーレと名乗っている。』
「あんたまさか..........」
『そうだよ。お気付きの通り、僕が初代勇者だ。』
なんで初代勇者が?
それにここは何だ?
『疑問は山ほどあるだろうけど、順を追って説明しようか。』
「待て!先に聞きたい事がある。」
『ん?なんだい?』
「姫様達はどうなった?」
『ふむ........自分の心配よりも他人か。今代は変わっているな。まぁ、それも説明していこう。』
奴が指を鳴らすと、テーブルと椅子が表れた。
『立っていても仕方ないから座ろうか。』
「..........」
俺はとりあえず奴の言葉を聞き、座る事にした。
『まず、この場所だけど、もう察しはついているだろう?ここは夢と現実の狭間の世界。』
やはりそんな感じだと思ったよ。
『そんなわけないだろう?』
「なっ!?」
『くくくっ!冗談を言ってみたくなってね。』
「ふざけるな!」
俺はテーブルを殴った。
『怒らない怒らない。ここは神界だよ。』
「神界?」
『そう。神様がいるところ世界だ。あ、でも僕は神様じゃないからね。そんでもって、君の愛しの姫様は死んではいないよ。』
「っ!そ、そうか。」
少し安心だ..........
『安心するのは早いよ。今は僕が一時的に時間を停止させているから、大丈夫だけどこのままじゃ死んじゃうよ。』
「じゃあどうすれば!」
俺は席を立ち上がって声を荒げた。
『はいはい、落ち着きましょう。まだ説明が途中だからね。』
「...........」
奴の言葉通り、今は大丈夫なんだ。
焦らずに落ち着こう........
『さて、どこから説明しようかな。僕が初代勇者ってのは聞いたよね?僕には初代勇者の他にもうひとつ肩書きがあるのさ。それは"管理者"だ。』
「"管理者"?」
『ああ、この世界を管理している者の事だ。だが、神ではない。まぁ今は神様がどういう存在なのかは後回しだ。そんでその管理者は、この世界がうまく回る様に管理し、維持している。今は僕が管理しているわけだが、僕達の前は神様が管理していた。というか普通は神様が管理するんだけどね。何でも神様はこの世界を管理することに疲れた、とか言ってある人間に任せたんだ。』
「それが勇者か。」
『そう。だが、僕は"初代勇者"なんて呼ばれてるけど、僕の前にもそういう人達がいたんだ。たまたま勇者としてこの世界に讃えられたから"初代"なんだよ。』
「そうなのか。」
『そんで、人間に世界を管理させたんだけど、これには欠陥があった。』
「欠陥?」
『それは期限付きなんだよ。世界を管理するために、神様から力を貰ったけど、あまりにも強力のため、体が持たないんだ。いくら頑丈に鍛えても、いつかは朽ちる。それは生物だからだ。そのために力を継承させていく。その継承先は適正のある者しかなれないんだ。』
「.......その適正って?」
『その適正はまず、異世界人であること。これは神様が設定したんだけど、理由はその方が面白いと思ったみたいだからだよ。ふざけた理由だよね。』
「糞みたいな神だな。」
『ああ、本当に糞野郎だよ。そんで二つ目は必ず一人になること。これは不思議なんだけど、適正があると周りの家族が死んで、孤独なる。何をどうしようが、必ず一人になる運命だ。』
「ま、待て!それじゃ家族が死んで、俺だけ一人なったは...........」
『そう..........そういう運命だからだ。』
「な、何で.........」
『僕にもわからんな。そんで三つ目はスキルに"覚醒の卵"があること。まぁこれは適正というよりも、そのものなんだけどね。』
俺にあったスキルはその為か........
『その覚醒の卵が孵化した時、管理者としての力にも目覚めるっていう事さ。』
「じゃあ俺は管理者になるのか?」
『ああ、そのうちにね。』
「そうか.........」
『だが、問題が起きた。それは君だ。』
「俺が?」
『スキルに覚醒の卵があった場合は必ず、職業が"勇者"だった。だが、今回は別々になっている。』
「何でだ?」
『それは僕にもわからないな。なにせ初めての出来事だ。』
「俺はこれからどうなるんだ?」
『これから君は僕と契約を交わす。そうすると卵が孵化して、君は力に目覚める。そうなったら全てを理解する。』
「全てを理解?」
『ああ........まぁここまで説明したが、実際は卵が孵化して力に目覚めると同時に、この世界の全ての情報を得るんだ。だからさっき説明したことも、ここで説明しなくても自動的にわかるんだ。』
「そうなのか.........」
『それじゃ契約をしようか。』
「ま、待て!なんで"契約"なんだ?」
『ん?ああ........それは力の継承はある条件を下に行うからだ。』
「その条件って?」
『その身が尽きるまで管理者.........』
「なっ!ふざけるな!」
『ふざけてなんかないよ。それにこれは避けては通れない。そういう運命なんだから。』
「そんな運命なんて糞食らえだ!」
『ああ、僕も当初はそう思っていたよ。力を継承したらわかるが、継承するのは力だけじゃないんだ。』
「力だけじゃない?」
『姿も継承していく。今の姿は人型だが、本当の姿はこれだ。』
そう言うと、突然光だした。
その光は強く、目を開けてられない程だった。
光が収まり、目を開けると、そこには白く輝いている大きなドラゴンがいた。
「ドラゴン..........」
『そうだ。種族は神龍種。この世界を管理している者だ。』
「なぜ、ドラゴンなんだ?」
『龍種はこの世界で頂点に君臨する種族で、唯一管理者の力に耐えきれる種族だ。そして契約したら徐々に体が変化していく。完全に変化したら管理者として、この神界に連れてかれるんだ。』
「連れてかれるってのは?」
『召喚されるんだ。変化し終わったと同時にね。』
「............ふざけてる。」
『さて、長く話しすぎたな。』
気づいたら奴は人間の姿になっていた。
『それでは契約するか。』
「逃れられないのか?」
『ああ、遅かれ早かれ契約しなくてはならない。それに管理者の力は絶大だ。君は力が欲しいんだろ?』
「........そうだな、力が欲しい。」
そう言うと、奴は俺に笑顔を見せた。
「なぜ、笑う?」
『僕も最初はそう思って契約したからだ。』
奴は右手を差し出してきた。
「.........一言いいか?」
『なんだい?」
「絶対に抗ってやる!」
そう言って俺は奴の右手を握った。
気がつくと俺は迷宮の最下層にいた。
「戻ったのか..........」
辺りを確認すると、姫様達があの吸血鬼と対峙していた。
少し場所が離れている為か、俺には気づいていない。
「お前を絶対に許さない!」
姫様が奴に向かって叫んでいた。
その手には剣が力一杯握られており、涙を流しながら睨んでいる。
そういえば、俺は死んでいる事になっているんだったな。
さっさと姫様の前に行って安心させてあげよう。
俺は床に落ちている、自分の剣を拾い上げ足を屈めた。
そして力一杯床を踏み込んだ。
視界が変わり、踏み込んだ床がひび割れた。
一瞬だ。
一瞬で姫様の所に到着した。
俺は奴と姫様の間に立った。
皆の顔が驚きの表情になる。
「た、タケル......なのか?」
「誰だ!貴様は!」
姫様とうるさい吸血鬼が声を上げた。
「俺はタケルですよ。」
吸血鬼は無視して姫様と話しをする。
というか何で皆、不思議そうな顔をしているんだ?確かに一回死んで、生き返ったけど、顔は変わらんだろ?
俺は剣を鏡代わりにして見た。
「...........あれ?」
剣に写った顔は自分の顔とは少し違っていた。
目は金色になっており、髪は銀髪で長くなっている。
顔付きも少し鋭さが増した気がする。
どうやら早くも変化が表れたか...........
「説明は後です。先ずはこいつを倒しましょう。」
「あ、ああ!そうだな!」
姫様の顔に安堵の表情が見える。
もう後悔はしない.........
姫様を守り抜く!