第29話 ~ 知恵の迷宮最下層 ~
俺たちは、順調に知恵の迷宮を進んで行った。
進みながら、ステータスが上がった感覚を馴染ませていく。
ついでにミリアムさんから魔法を教えてもらい、戦闘には魔法も織り混ぜて戦った。
やっとちゃんとした魔法剣士になれた気がするよ。
それにやっと皆の足を引っ張る事も無くなった。
そこは素直に嬉しかった。
だが、やはり自分で得た力の感じがしないため、あまり釈然としなかった。
ステータスが感覚に馴染んできた頃、俺達は49階にいた。
ここまで来るのにあまり時間が掛からなかった。
皆が俺に合わせる必要が無くなったからだ。
それになぞなぞも何故か、階を降りる毎に簡単になっていった。
てっきり難しくなるのかと思ったが拍子抜けだ。
49階のモンスターは今までのが全て出てくる。
雑魚から強敵までだ。
いよいよ、最終が近い。
俺は今、レッドオーガの相手している。
レッドオーガはその名の通り見たまんま赤鬼だ。
レッドオーガが手に持っている、大鉈を振り下ろしてくる。
それに対して俺は、剣で受け流して懐に入る。
「フレア!」
レッドオーガの腹に手を添えて、火魔法を放つ。
激しい爆発音とともに、腹に大きな風穴を開けて倒れる。
「グアァァァ!」
叫び声が響く。
「よし!」
自分の成長を感じて、思わずガッツポーズを取ってしまう。
魔法を放つ事ができるようになったし、オーガの上位種のレッドオーガにも勝てるようになった。
例え自分の力ではなくても、思わず嬉しくなってしまう。
「タケルのお陰でここまで来れたな。」
「いえ、これも姫様達が俺なんかの為に、特訓してくれたお陰ですよ。」
俺達の目の前には50階へと続く扉がある。
この知恵の迷宮の最下層と思われる50階だ。
ここには何故か例のなぞなぞが無かった。
何故かはわからないが、おそらく最下層だろう、という考えになった。
ここまで来るのにいろいろな事があった。
何回も死にかけたし、何回も挫折しそうになった。
ここまで来れたのは皆が居てくれたお陰だろう。
「いよいよだな!タケル!」
「はい!姫様!」
最下層に降りる前にそれぞれの装備を確認する。
俺の武器はこれまで使ってきた、両刃のショートソード。
貸与用の剣だが、よくここまでもってくれたと思う。
もうボロボロだから、帰ったら整備してもらおう。
防具は未だに傷ひとつない黒龍の鎧。
この装備のお陰で致命傷を受ける事がなくなった。
まぁ、頭を守る兜がないから上方には、気を付けないといけないがな。
皆も装備の確認が済んだようだ。
いよいよ最終戦の雰囲気が立ち込めてくる。
「皆、準備はいいな?」
姫様が皆に確認をとる。
全員が頷いているのを確認して、
「よし!行くぞ!」
姫様の掛け声と共に扉を開けた。
扉の先は階段になっており、ここまではいつもと変わらない。
だが、階段を降りてすぐに大広間だった。
部屋はかなり広く、あのモンスターハウスと同様の広さはありそうだ。
それに中央部には、松明が通路の様に真っ直ぐ並んでおり、その先は大きな椅子が、まるで玉座の様に立っていた。
その玉座に誰か人影が見える。
俺達は慎重にその玉座を目指して進んだ。
「よくぞここまで来たな人間!」
玉座に座っていた男が立ち上がり、仰々しく語り始めた。
「まさかここまで来れるとは思わなかったが.........我が同郷の者が居るのなら話しは別だな。それも勇者とは!我は運が良いみたいだ!ここであの御方の敵を討つ事ができるのだからな!」
よくもまぁ、ベラベラと喋る奴だ。
それに同郷と言ったな.......
じゃあこいつも地球から来たのか?なら何故ここに居る?
疑問に対する答えを聞こうとした時、
「我が名はダン・ピエール・カルダン!いざ参る!」
男が名乗りを上げ、姿が消えた........
「っ!」
一瞬の出来事だった。
目の前には姫様と、先程名乗りを上げた男が剣を交えていた。
まったく見えなかった........
「タケル!下がっていろ!こいつは今のお前には荷が重い!」
「シームさん!」
シームさんに肩を捕まれ、後ろに引っ張られた。
と同時に、激しい爆発音が響く。
ミリアムさんの魔法が男に当たったんだ。
煙が晴れると男は無傷で立っていた。
「なかなかやるな人間!だが、お荷物を抱えている状態では我とは戦えんぞ!」
「黙れ!」
奴の言葉に姫様が怒りをあらわにする。
お荷物とは俺の事だ。
この状況を見ても明らかだ。
俺ではこの戦いに着いていけない。
突然始まった戦闘。
状況が掴めないまま、姫様達はこの男と戦い始めた。
「俺は...........まだお荷物なのか。」
この時、俺は後悔した。
もっと強くなれたら、足を引っ張る事はなかったと...........