第27話 ~ モンスターハウス ~
26階へと進んだ俺たちは警戒しながら歩いていた。
なにせ、ここは誰も踏み入れた事のない階層だからだ。
ここで出てくるモンスターはプチデビル。
大きさは日本猿をイメージしてくれればわかりやすい。
その日本猿を紫色にして、小さな羽を生やした感じだ。
なんとも凶悪な顔をしている。
しかもすばしっこく飛び回るし、火魔法を使ったり、持っている槍で攻撃してきたりと、厄介なモンスターだ。
そして目の前にはプチデビルが3体。
まず、ミリアムさんが魔法で牽制。そこをシームさん、バリィさん、姫様が駆け込み一刀両断。
うん!俺の出る幕がない....
まぁ弱いので仕方がない。
それでも俺は生き残った奴に止めをさす。という事を行っており、まさに寄生をしている。
そのお陰かレベルが上がった。
これでいいのだろうか?
と思えてきたので、プチデビル1体と戦わせてもらった。
結果は惨敗だ。
プチデビルが素早すぎて追うので精一杯だ。
しかも的確に攻撃してくるので、防戦一方になってしまう。
こちらが攻撃すれば簡単かわされて、カウンターをくらう。
ミリアムさんに回復してもらいながら戦うが、それでも勝てない。
結局はバリィさんに仕留めてもらった。
もっと、早く剣を振れたら.....
もっと、早く動けたら....
と思ってしまう。
プチデビルを蹴散らしながら27階へと続く扉の前まできた。
小休憩をはさみ、扉の前に立つ。
『ほくろ・証し・身代金・人間、この中の仲間外れは?』
またかよ....
だが、今回はわかるぞ。
「答えは、人間。理由は色の名前がつかない。」
すると扉が開きだす。
「よし!」
「うむ!順調だな!」
27階へと降りた俺たちは、いきなりモンスターに出会した。
27階はドーム状になっており、広さは大体東京ドームぐらいだろうか。
そこには大量のモンスターがいた。
ゴブリン、オーク、オーガ、リザードマン、プチデビル、スケルトン等や上位種にはワイバーン、デーモン、ゴブリンキング、デュラハンがいた。
モンスターハウス......
この部屋を見たときその言葉を思い出した。
ヤバい.......
「戦闘体制!!!」
目の前のモンスターの大群に臆していたとき、シームさんからの怒号が聞こえてきた。
「っ!」
俺は剣を構えた。
「ミリアム!広範囲魔法を中心にブッ放せ!バリィ!姫様!俺と一緒に近づいてきたモンスターを殲滅!突っ込み過ぎるなよ!タケル!俺達が取り残したモンスターを殺してミリアムを守れ!」
「っ!は、はい!」
シームさんが的確に皆に指示をだした。
こちらから行くのではなく、接近してくるモンスターを倒すことに重点をおき、防御を固める作戦だ。
ミリアムさんの魔法の詠唱が始まる。
それと同時にモンスター達が動き出した。
「グオォォォォォォ!」
「ガアァァァァァァ!」
「ギャオォォォォ!」
それぞれのモンスターの声が聞こえる。
大群が押し寄せてきた。
生き残れるのか?
という疑問が頭をよぎるが、振り払い剣を握り直す。
「ふぅーー。」
大きく息を吐き、気持ちを落ち着かせる。
するとミリアムさんの魔法が発動した。
俺たちの前に大きな魔方陣が現れる。
そこから光の剣がいくつも形成されて、モンスター達に向かって飛んで行く。
その剣に当たったモンスターは体を抉られて絶命していく。
光属性上位の魔法、"セイクリッドセイバー"
この魔法を使えるのはこの国でもごく僅かだろう。
魔法を掻い潜ったモンスター達がシームさん達と接触した。
と、同時にモンスター達が切り刻まれていく。
血の雨を降らすとはこの事か........
辺りにモンスター達の血や体の一部が撒き散らされていく。
なのにどういう訳か、皆の体には返り血を浴びてない。
なんなんだ?
そんなことを考えているとゴブリンが1体脇から接近してきた。
「っ!」
直ぐに反応して一太刀で葬る。
ゴブリン相手ならもう簡単に倒せるようになっている。
相変わらず皆の強さは凄まじいが、ここにいるモンスターの数が減っている様には見えない。
どんだけいるんだよ.........
脇から抜けてきたモンスターを倒していると、何かに足を捕まれた感触がした。
「む?」
足を見ると触手が.......
「っ!!」
直ぐに剣で斬ろうとするが、引きずられて倒れてしまう。
「ぐっ!」
受け身をとり、頭部を守る。
ヤバい!
と思った時には既に遅く、モンスターの群れに向かって引きずられていく。
その早さと力強さは凄く、俺なんかじゃ太刀打ちできなかった。
「なっ!タケル!」
姫様の声が聞こえたが、それも遠くに聞こえる。
「ぐっ!」
地面の上を引きずられているので、鎧と地面がぶつかる音が響く。
「タケルーーーー!」
姫様!
触手から解放された場所は360度モンスターだらけ........
絶望的状況。
モンスター達がこちらを見ている。
どうする?
戦うに決まっている。
でなければ死ぬ.......
直ぐに起き上がり、剣を構える。
戦いながら姫様達の元に行くしかない.......
「ガアァァァァァァ!」
モンスターのどれかから叫びが聞こえる。
たどり着けるのか?
いや、やらなけば死ぬぞ!
「うおおおおおぉぉぉぉ!」
己を奮い起たせてモンスター達に向かっていく。
先ずは手前にいる雑魚から。
その次は最短距離を探す。
幸いにもミリアムさんの魔法のお陰で場所はわかる。
目の前のゴブリンを斬ったあと、また走りだそうとするが、目の前にはオーガが。
「うそだろ.........」
3、4メートルはありそうな巨体に手に持っているのは2メートルはありそうな棍棒。頭には2本の角が生え、牙は鋭く口からはみ出ている。
オーガが棍棒を振り上げる。
はやい!
棍棒を振り下ろす。
それだけなのに、凄まじい轟音と風圧を感じた。
咄嗟に受け流しをしようとしたが、受け流しきれずに吹き飛ばされてしまった。
「ぐっ!」
壁に激突。
「クソッタレが!」
倒れるのを拒み、足に力を入れる。
だがモンスター達は待ってくれない。
右からプチデビルが迫ってくる。
「キキッ!」
ふざけた鳴き声だ。
プチデビルに向かって剣を振る。
だが剣は空を切るだけ。
かわりにプチデビルの槍が肩に刺さる。
「くそっ!」
次に火球が迫ってくるのを、転がってかわすが、そこにはリザードマンがいた。
「だぁ!」
リザードマンの剣と俺の剣が交差する。
「クルァ!」
リザードマンが倒れる。
俺も攻撃を受けたが、黒龍装備のお陰で怪我はない。
だが、これではいつか致命傷をおってしまう。
急がないと........
皆の所へ走れ!
走りだしたが、またもや目の前にはオーガがいた。
「邪魔だあぁぁぁ!」
オーガの棍棒を紙一重で避ける。
懐に踏み込んで一閃。
深く斬りつけることができたが、手応えでまだ生きている事がわかった。
直ぐに振り向いて背中を一突き。
「ガアァ!」
オーガが短い叫び声をあげると倒れた。
ステータス的にはレベル40であってもおかしくないんだ。
コイツらを倒せないなんて事はない。
周りをよく見ろ!
右からリザードマンが接近してきた。
左からはゴブリンが。
俺は正面にいるデーモンに接近した。
デーモンはプチデビルの上位種で、そのままプチデビルを人間サイズにした感じだ。
「グオォォォ!」
デーモンが叫びながら槍をくりだす。
それをうまく受け流して、背後から接近してきたゴブリンに当てる。
さらに右から接近中のリザードマンを蹴る。
ガードされたが距離をあける事ができた。
再度デーモンから槍がくるが、受け流す。
「だぁ!」
魔闘術全開で剣を振り下ろしてデーモンに斬りつける。
たが、デーモン脇から何かが飛び出してきた。
それは俺の腹にあたり吹き飛ばされてしまう。
「ぐあっ!」
息を吐き出した。
よく見ると触手だった。
デーモンが倒れた所から出てきたのは、スライムみたいな体を持ち、何本も触手を生やしたモンスターのローパーだった。
あの時のはこいつか......
ローパーに向かって剣を構えるが、頭に衝撃を受けてしまう。
「がっ!」
後ろを見るとゴブリンが棍棒を持っていた。
くそ!油断した!
頭を殴られた事により、足下がおぼつかない。
しっかりしろ!
意識を失えば死ぬぞ!
ゴブリンを斬りつけて倒した。
が、ローパーの触手が腕に絡み付いてくる。
「邪魔すんな!」
魔闘術で強化して触手を思いっきり引っ張る。
するとローパーがこちらに飛んできた。
「どりゃ!」
剣であっさり真っ二つになった。
ローパーはもともとそんなに強くない。触手が厄介であるだけのモンスターだ。
その後も迫ってくるモンスターを倒していく。
しかし、一向に減る気配がないし、皆からの距離はどんどん遠くなっていく。
「......くそ!」
もう体力も尽きかけていて、肩で息をしていた。
魔力も残り僅かだ。
だが、モンスター達は休ませてくれない。
前からオーガが迫ってくる。
「グオォォォォォォ!」
棍棒を振り下ろしてくる。
「くっ!」
もうかわすので精一杯だった。
「はあ、はあ、はあ。」
右からデュラハンが近づいてくるのが見えた。
そして左からはアークデーモンが。
どちらも上位種で、赤ランクのモンスターだ。
「ちくしょう......ここまでか?」
いや、まだだ......
剣を振り続けろ!
「うおおぉぉぉぉ!」
俺は気合いの叫びと共にモンスター達に向かっていった。
「あれ?ここは?」
気がつくと、真っ白な空間にいた。
左右を見渡しても白しかなく、周りには何も無かった。
「どうなってんだ?」
「やあ、初めまして。」
不意に後ろから声をかけられ、振り向くと白いローブを羽織った男が立っていた。
男の身長は自分くらいでその顔つきはローブのせいでわからない。
「君は?」
「僕は△%δΚΠだよ。」
「え?」
「そうか、まだ聞こえないのか。」
「君はいったい?それにここは?」
「すまないが、話してる時間がなくてね。一言だけ言うよ。」
そう言って男は俺に近づいて、手を突き出してきた。
「資格はあと一つだ。」
「え?何を言って.......」
突然、男の手が光だした。
「うあ!」
眩しくて手で覆うと、急に意識が遠のいてきた。
「待ってるよ......」
そう、男が言ってる気がした。