第24話 ~ まだまだ弱い ~
ゴブリンが大量にいた広間からしばらく歩き、迫り来るモンスター達を蹴散らしながら、3階に降りる扉の前に来た。
『何を食べてもおいしいと喜ぶ動物は?』
「またなぞなぞ........」
例のなぞなぞが扉に書かれていた。
「タケル、わかるのか?」
「はい姫様。答えはウマです。」
すると、大きな音をたてて扉が開く。
「よし!先に進もう。」
なんだかなぁ......
知恵の迷宮っていうぐらいだから、もっと難しい謎解きとかあるかと思ったがな......
ちなみに迷宮内でモンスターを倒すと直ぐに消えていく。
なんでも、次のモンスターを生み出す養分になっているらしい。
上手くできてるんだな.........
25階までは道がわかっているため、最短ルートで進んでいく。
そして目の前にやってきたモンスターは蜥蜴人間だった。
「リザードマンだ!気を付けろよ、ゴブリンより強いぞ!」
「了解!」
シームさんに促されて、警戒を強める。
リザードマンは5体おり、それぞれ剣や槍を持っている。ゴブリンの持っている錆びた武器等ではなく、ちゃんとした武器だった。
先手必勝だ!
リザードマンより、先に剣を振るう。
だが、簡単に剣を止められてしまう。
それどころか、弾き返されて体勢が崩れる。
ヤバイ!
リザードマンが袈裟懸けに斬りつけてきた。
身を捻って紙一重でかわす。
そのまま地面に倒れて後方に転がる。
強いぞ、こいつ.......
今度は向こうから攻めてきた。
剣を上から縦に振るう。
それを剣でガード。
くっ!
ガードしたときの衝撃が強すぎて、手が痺れる。
くそが!
無理矢理手を動かし、剣を横に凪ぎ払う。
が、リザードマンは既に距離を開けており、俺の剣は空を斬るだけだ。
こっちから攻めないと防戦一方になる。
魔闘術を発動し、足に魔力を纏う。
一気にリザードマンに近づき、剣を縦に振るう。
リザードマンはこの攻撃に反応しており、剣でガードしてきた。
それは予測済みだ!
剣が当たる寸でのところで止める。
フェイントだ。
右足で蹴りつけてリザードマンを転がす。
と、同時に一気に近づき、剣を突き刺して仕留める。
何とか勝ったか.......
周りを見ると案の定、他のリザードマンは殲滅されていた。
ははは.......やっぱりこの人たちは強いな。
「タケル君は剣の使い方がまだまだですね。」
「バリィさん......」
歩きながらバリィさんが話しかけてきた。
「スキルレベルが低いんじゃない。むしろ剣術スキルはあくまで補助の役割です。剣を振るうのは己自身。どうやったら的確に斬れるか考えながら振った方がいいですよ。」
「わかりました。」
スキルは補助か.......
バリィさんは剣帝だ。素直に聞いた方が良いな。
「よし、少し休憩しようか。」
4階へ降りる扉の前に来た所でシームさんが皆に声をかけた。
俺達は扉の前に座り込んだ。
この扉の付近には何故かモンスター達が寄ってこないので、休憩にはもってこいの場所だ。
俺は先程バリィさんに言われた事を考えていた。
どうやったら斬れるか、かぁ......
難しいな.....
剣なんて振れば斬れる物だと思っていた。
ただ振るだけでは棒を降っているのと同じだ。
そうではなく、"剣"として振るんだ。
素振りをしようと剣を構える。
「タケル、今は休憩中だ。素振りは止めた方がいいぞ。」
「え?」
「この先はもっと手強いモンスター達がいる。こんなところで体力は使ってられないからな。」
「あ、わかりました。」
姫様にそう言われて気付く。
確かにここで体力は使わずに休んだ方がいいな。
実戦で鍛えていくしかないか.........
少し休憩したあと、俺達は4階へと進んだ。
『容器が壊れて出てこない調味料は?』
と、書かれていた。
「.........コショウ。」
いつも通りに扉が開き、階段が現れる。
「よし!先に進もう。」
その前にステータスを確認しておこう。
名前 : 佐藤猛
レベル 6
職業 : 見習い魔法剣士
筋力:520
耐性:470
敏捷:470
魔力:560
魔耐:460
称号 : 異世界者、強さを求める者
スキル : 言語理解、覚醒の卵(ひび割れ)、剣術 2、魔闘術 2、魔力感知 3、生魔変換 1
レベルが上がっている。
それでも1レベルか........
早く1桁から抜け出したいな。
4階も似たような構造となっており、出てくるモンスターも同じリザードマンだ。
俺は先程バリィさんに言われた通りに、"斬る"という事を考えながら剣を振った。
それに皆が協力してくれて、俺が相手をするモンスターはいつも単体だった。
正直、かなり助けられている。
そして5階に降りる扉の前。
『牛は牛でも、太陽から頭を守ってくれる牛は?』
「これが、難しかったんだよなぁ。」
と、シームさんが嘆いていた。
「........帽子。」
扉が開き、階段が現れる。
「あの時もタケルが居たら楽だったんだがな。」
「.......かなり苦労したみたいですね。」
「ああ、かなり大変だったよ。そもそもこの問題はなんなんだ?普通は階層毎にモンスターがいるもんだろ。」
「まぁ、いいじゃないですか。タケル君がいるお陰で楽ができるんだから。」
そんな会話していると、前からモンスターがやってきた。
またもやリザードマン。
だが、今度のリザードマンは鎧を着ている。
「リザードナイトだ。気を付けろよ。強いぞ。」
俺はシームさんに頷き、剣を構える。
魔闘術を発動して、一気に前へ出る。
それに反応してリザードナイトが剣を振り下ろす。
剣でガードしながらそのまま体当たりで転がし、突き刺した。
浅いか?!
リザードナイトは何にもなかったかのように立ち上がった。
直ぐに近づき、剣を下から振り上げる。
が、簡単に防がれてしまう。
何度も剣を振るが全てガードされる。
くそ!剣が通らない。
焦りが出てきた。
そして大振りになったところを狙われて右肩を突かれた。
「ぐっ!」
右肩を押さえながら直ぐに後退する。
落ち着けおれ!
剣術なら向こうが上だ。
別の方法を探すんだ。
今度は向こうから攻めてきた。
俺より早いスピードで近づき、剣を振ってくる。
「っ!」
攻撃が先程より重い!
ガードしても防ぎきれない。
所々に傷が出来てくる。
「ぐっ!ぅぅうおらあぁ!」
魔闘術を全開して、剣を弾き返す。
相手の体勢が崩れたところを、袈裟懸けに斬る。
鎧を切り裂いたが、致命傷にはならず浅い傷ができていた。
何をやっているだ、俺は!
剣に魔力を纏わせるのを忘れているじゃないか!
剣に魔力を纏わせていたら、先程の攻撃で倒していただろう。
この失敗はかなり大きい。
リザードナイトは警戒して攻めてこなくなった。
考えろ!おれ!
「ふぅー。」
大きく息を吐いて、気持ちを落ち着かせる。
今度も一気に前へ出る。
だが、次からは違う。
剣をリザードナイトに向かって投げた。
その行動にリザードナイトは驚愕し、慌てて剣で弾く。
その隙に、リザードナイトの下に潜り込む。
「うおらぁ!」
下から右拳を突き上げた。
リザードナイトの顎を直撃し、骨が砕ける感触がする。
リザードナイトの体が宙を舞う。
落ちていた剣を拾い、慌てて立ち上がるリザードナイトの喉を切り裂いた。
血が辺りに飛び散る。
俺も返り血を浴びて装備が赤く染まっていく。
拳を見ると、血が出ており、骨が折れていた。
折れた感触は自分のだったか........
リザードナイトの硬い鱗に俺の拳が耐えきれなかった。
敵の方を見ると、リザードナイトは力を失い、地面に倒れる。
「.....やっと......勝った.....」
その場に倒れ込む。
もう魔力も体力も底をついたよ。
1階降りただけでなんて強さだ。
「大丈夫か?タケル?」
「姫様......すみません。俺が弱いばかりに。」
「気にするな。ミリアム、タケルの手当てを。」
ミリアムさんが俺に近づき回復魔法を唱えてくれる。
傷が塞がっていく。
「ありがとうございます。」
「バリィ、タケルを担いでやってくれ。」
「わかりました。」
バリィさんが俺をおんぶする。
ここにいてはまたモンスターがやってくる。
なので6階へ降りる扉の前に移動する必要があった。
移動中は皆の戦いを間近に見ることができた。
シームさんは相変わらずの強さだ。
バリィさんにいたっては、俺を担いでいるのに簡単にモンスター達を倒していく。
ミリアムさんは魔法で補助をして、時折遠くのモンスターに魔法を放っている。
どうやら厄介そうな敵を先に倒しているみたいだ。
姫様の戦う姿を初めて見たが、綺麗だ。
ふざけている訳ではなく、戦いかたが洗練されていた。
細身の剣と魔法で戦っているのだが、剣で体勢を崩した所に至近距離からの魔法。
あんなのは絶対にかわせない。
というか見ててわかったが、恐らくこの中で姫様が一番強い。
何となくだがそう思った。