第23話 ~ なぞなぞ ~
朝起きると、シームさんとバリィさんが二日酔いでグロッキー状態だったため、出発が少し遅れてしまった。
俺は二日酔いにはなっていない。
やはり、アルコールに強い体質なのかもしれないな。
予定がだいぶ遅れてしまったが、とりあえず迷宮の入口まで来た。
「そういえばこの迷宮の詳細を聞いてなかったんですが?」
「お!そうだったな。」
すっかり忘れていた事をシームさんに訪ねてみた。
「この知恵の迷宮は階層ごとの試練に必ず知恵を試されるんだ。」
「知恵?」
「ああ、普通の迷宮は階毎にボスがいるんだが、知恵の迷宮は問題を出されるんだ。それに正解しないと先に進めないようになっている。それがこの迷宮の厄介さの一つだ。」
「変わった迷宮ですね。」
普通の迷宮は階層毎に試練があり、そのほとんどがモンスターを倒すものだ。
「もう1つ厄介なのが、モンスターのランクが高いことだ。」
「ランクが高い..........」
なんか嫌な予感がするぞ.......
「ランクは"緑"だ。」
ほらやっぱり!
「緑ランクですか?!俺は青ランクですよ?」
「だからだよ。君はレベルが上がりづらい体質だから、レベル上げにはランクの高いモンスターの方が良いんだ。」
ランクの高いモンスターの方が経験値が多いということか。
「な、なるほど。ですが大丈夫なんですか?」
「ああ、別に迷宮をクリアしようって訳ではないんだ。それに俺たちがついてるからな。」
「わかりました。」
本当に大丈夫なのか?
と少し不安を覚えながら、迷宮へと入っていった。
迷宮内は人の手によって作られた洞窟だ。
綺麗に石が並べられており、ただの洞窟ではなく遺跡みたいな感じがする。
壁は魔力を含んでいるため光っており、明るくなっていた。
まさによくある迷宮って感じだ。
そして入ってすぐに、
『この迷宮は50階まであります。己の知恵に自信のある者のみ入って下さい。』
などというふざけた看板があった。
「...........なにこれ?」
「この看板は最初っから設置されていてな。初めは罠か何かと思ったが、特にそんな気配はなくてな。それに壊してみても次来たときは立て直されているという、不思議な看板だ。」
俺の疑問にシームさんが答えてくれた。
「この50階は本当なんですか?」
「さぁな。誰もたどり着いた者はいないから何とも言えんな。」
この世界の迷宮で50階というのはかなり短い。
他の迷宮は100階以上あり、最も長いのは200階を越えているそうだ。
この迷宮は他にも珍しい所がある。
それはちゃんと地面の下に存在することだ。
他の迷宮は入口だけ地上にあり、入ると別空間に繋がっている。そのため地面を掘っても迷宮を見つける事はできない。
だが、この知恵の迷宮は地面の下にちゃんとある。
崩落の危険があるのでは?と思うかもしれないが、不思議な力によって迷宮の壁は破壊不可能だ。そのため崩落することはないし地面を掘ってショートカットすることもできない。
迷宮内を歩いていると、あることに気がついた。
「あのー、ずっと真っ直ぐなんですが?」
入口からしばらく歩いたと思うが、いまだに真っ直ぐな一本道だった。
「ああ、1階はこの直線の一本道しかないんですよ。」
「へ?」
どうやら本当らしく、終点についた。
そして目の前には大きい鉄の扉。
その扉には文字が書かれていた。
『パンはパンでも食べられないパンは?』
「なぞなぞ........」
何故か扉にはなぞなぞが書かれていた。
「ん?タケルはこの問いを知っているのか?」
「ええ、俺の世界にあるものです。答えはフライパンですよね?」
俺がそう言うと、扉は揺れと共に開きはじめた。
「マジかよ......」
「おお!これは楽に進めそうだな!」
「あの.......姫様?」
「ん?なんだ?」
「この仕掛けはいったい?」
「この仕掛けこそが知恵の迷宮と言われるところだ。階毎にこのような問いがあり、答えないと先に進めないし、間違うと罠が発動する。」
「な、なるほど。」
「いやー、まさかタケルの世界のものだとはな。この答えが解らなくてしばらく進めなかったからな。」
姫様の話だと、この1階の扉を開くのに1ヶ月はかかったらしい。
そもそもこの世界になぞなぞみたいな問題は存在しない。だとすればこの迷宮を作ったのは俺たちの世界の住人ということになる。
だが、この世界に召喚された者は俺達以外には一人しか聞いたことがない。
それは初代勇者だ。
ということはこの迷宮は初代勇者が?
いや.......そもそも初代勇者がこの迷宮を作る意味がわからない。
今は考えても仕方がないな。
とりあえず今は強くなることだけを考えて先を進もう。
扉を通ると、下へと続く階段があった。
「この階段を下りたら2階だ。ここから先はモンスターが出るから気を付けろよ。」
「わかりました。」
シームさんに注意を促されて、気を引きしめる。
2階へ下りると、1階と似たような内装になっていたが、一本道ではなかった。
いきなり真っ直ぐと、左右に分かれる三本道だ。
「こっちだ。とりあえずこの階は雑魚しかいないから近道を通るぞ。」
「わかりました。」
いつでも戦闘できるように武器を構える。
「この迷宮はどこまで行ったことがあるんですか?」
「25階までだ。」
シームさんによると、26階へと続く扉の問題が解けないため先に進めないようだ。
しかも間違うとモンスターの大群が来るらしく迂闊に答えられないそうだ。
しばらく歩くと、扉が目の前に現れた。
「この先は広間になっていて中にモンスターがいるから気を付けろよ。」
シームさんにそう言われて魔力感知をしてみる。
確かにこの先に魔力を感じるな.......
だが、数が多い!
俺がわかる範囲では20はいるぞ.......
シームさんを先頭に中に入っていく。
広間はゴブリンでいっぱいだった。
「一気に行くぞ!!」
シームさんの掛け声と共に俺達は走りだした。
シームさんとバリィさんが中央に、俺は右へ、姫様は左に走った。
ミリアムさんは後ろでみんなのサポートだ。
ゴブリン達は色々な武器を手にしており、俺達を見かけて襲いかかってくる。
「グガァァ!」
「だぁ!」
俺は目の前のゴブリンより先に攻撃して仕留める。
だが、数が多く次から次へとやってくる。
くそ!何て数だ!
「ぐっ!」
ゴブリンを3体ほど倒したところで右から攻撃を受けてしまった。
黒龍装備のお陰で怪我はないが、体勢が崩れる。
「ちっ!」
俺はあえて倒れて後方に転がり、距離を開ける。
すると後ろから魔法が飛んでくる。
火の球が飛んできてゴブリンを3体も焼き払う。
後ろを僅かに振り向くとミリアムさんが魔法を放っていた。
なんて絶好なタイミングなんだ。
と思いつつ、ミリアムさんに軽く会釈してお礼をする。ゴブリン達に向き直って、剣を構える。
すると目の前には何もいなかった。
「へ?」
「遅いぞ、タケル。」
姫様、シームさん、バリィさんが残りのゴブリンを殲滅していた。
マジかよ........
「ここではタケルを鍛える事ができんな。先を急ぐぞ!」
マジかよ.................
「この先はコイツらよりもまだマシな奴がいますからね。」
マジかよ.............................
この先、かなり辛そうな予感がするよ。