第21話 ~ 強くなるために ~
姫様に鍛えてやると言われて翌日、俺は外の訓練場にいた。
俺はいつも通りの装備、黒龍装備一式と支給された両刃の剣を身につけて訓練場の中央にいる。
そして目の前にはルナミス姫様。
姫様は、白銀の鎧を身につけており、腰には細身の剣が刺さっている。長い金髪はポニーテールにしており、いつもながら綺麗だ。
「それではこれから、タケルの実力を見るために私が相手をするぞ。」
「はい?」
「場所は外の訓練場で行う。遅れるなよ。」
「え?」
というやり取りがあったのは、昨日アールさんの部屋を出てからだ。
そして今は外の訓練場で姫様との戦闘の準備をしている。
周りには特騎隊の皆がいる。
「負けんなよ!タケル!」
「姫様にケツほられんなよ!」
「姫様!手加減しないと死んじまうぞ!」
等々のヤジがとんでくる。
どうやら、俺が勝つか姫様が勝つかで賭けが行われてるようだ。
くそ!あいつら俺で遊んでやがるな..........
姫様に勝てる確率はほぼ無い。
だがおそらく姫様は、俺をなめている。
そしてそこに油断ができる。そこを魔闘術でいっきにケリをつける。
これが俺の考えた作戦だ。
「タケルはセブンス・エフェクトを発動したと聞いている。だから手加減しないで本気で行かせてもらう。」
..........あれ?
これは、まずいぞ..........
「あ、あのー、姫様?あれはセブンス・エフェクトではなく、違う何かだと思うんですが。」
「ん?そうなのか?だが、タケルはあの竜王種を退けたそうではないか!なら本気でいかねばなるまい。そうだろ?」
...........これは、ダメだ!
もう何を言っても意思を変えることはできない!
や、やるしか、ないか.........
せめて死なないように頑張ろう.........
今回は審判役として、特騎隊の隊長"ガット・シーム"さんが務める事となった。
「それでは、はじめ!」
シームさんの合図で姫様との戦いが始まった。
俺は剣を抜くと同時に魔闘術を発動されて、姫様を見る。
だがそこには姫様は居なかった........
「は?」
すると右から衝撃。
それだけで俺は意識を失った。
「そこまで!」
と遠くの方で声が聞こえた..........
模擬戦終了!
実に呆気ない........
俺は訓練場の隅で目を覚ました。
起き上がると、目の前にはルナミス姫様とシーム隊長がいる。
姫様はどこか不機嫌そうだ。
「タケル......お前は弱い!弱すぎる!まさかこれほど弱いとは........」
「...........すみません。」
俺はその一言しか言えなかった。
「謝るな。まだ1ヶ月ある。その1ヶ月で鍛えればよい。」
姫様はそう言うと、城に戻ってしまった。
「............」
俺はただそれを見送ることしかできなかった。
俺はかなり弱い........
特騎隊の中で一番弱い。
そんな事は俺自信もわかってた。
だが、周りの状況が弱いのを許さない。
俺も努力している。毎日剣を振り、走った。
それでも足りない。
なら、俺はどうすればいいだ?
気がついたら部屋に戻っていた。
部屋に入ると、アイリさんが掃除をしていた。
「あ、タケル様。少しお待ちください。いま片付けますので。」
「いえ、そのまま続けてもいいですよ。」
「ですが.........よろしいのですか?」
俺は頷くとアイリさんは少し考えてから、部屋の掃除を再開した。
「アイリさん。少し聞いていいですか?」
「はい。何でしょう?」
「第2王女、ルナミス姫様の事です。」
「ルナミス姫様の、ですか?」
「はい。あの方はどういった人なんですか?」
「そうですね。一言で言えば、好奇心旺盛な人ですかね。小さい頃から色々としていたみたいで、森に入ってゴブリン退治や、勝手に冒険者ギルドに登録するわで、かなりやんちゃだったと聞いています。」
「小さい頃からゴブリン退治........」
俺でもゴブリンは苦戦したのに、子供の頃からゴブリンと戦うとは.........
破天荒と言ってもいいかもな。
「ですけど、そんな姫様は必ず成果を上げてました。遺跡の探索で魔法具を大量に持ち帰ったり、盗賊から村を救ったりなど、とても勇敢な方ですよ。」
「そうですか........」
すごいな........
姫様は昔から凄い事をする人だったのか。
あの強さも頷けるな。
俺って召喚された意味ってあるのか?
とこんなことを考えてしまう。
努力しても弱い........
それは変えようのない事実かもしれない。
俺はどうしたらいいんだ?
と、考えてしまう。
昼になったので昼食を食べていると、そこに姫様が現れた。
「タケル......こんな所で呑気に食事を摂っている暇はないぞ。これからタケルを鍛える為の遠征に行くぞ!」
「へ?」
俺は姫様に手を捕まれて、引き摺られる様に退室した。
まだ食べ終わってないのに........
城を出ると、馬が用意されており、俺と姫様の他に3人いた。
職業:騎士 ガット・シーム
特騎隊の隊長で、皆から親しまれており姫様に忠義を尽くしている。レベルは62と特騎隊の中で一番上という事はないが、特騎隊を指揮する能力はピカ一だ。
職業:剣士 バリィ・パートン
特騎隊の中で、剣を扱わせたら右に出るものはいないと言われている人でレベル60の剣帝だ。だが、魔法は一切使えないらしい。
おそらくレベルは低いがレイチェルさんより強いと思う。
職業:魔法使い ミリアム・アルバニン
特騎隊の魔法使いの一人でレベル55。火、水、光の属性を扱えて、それぞれスキルレベル6だ。特騎隊の中でも一番強い魔法使いという事はないが、状況にあわせて魔法を使うのがうまい。
簡単な人物紹介をしたが、ここに集まってるのは特騎隊の中でも上位に入る人物たちだ。
「えっと........皆さんはなぜここに?」
俺は状況がつかめなかった。
「これから遠征をするメンバーだよ。」
隊長のシームさんが答えてくれる。
「君はこのままでは負けは目に見えているからね。だから手の空いている者を集めて君を鍛えようって事で遠征隊を組んだのさ。」
「...........ありがとうございます。」
俺は頭を下げた。
何とも言えない感情が沸き上がる。
みんな俺の為に集まってくれたのだ。
感謝の一言では言い表せないな。
「さて、メンバーも集まったのだ。これから出発するぞ。」
姫様に促されて皆が馬に乗る。
「えっと........何処に向かうのですか?」
と、聞くと姫様は得意気な笑みをうかべて、
「これから迷宮に向かう!」
と、言った。
「........迷宮?ですか?」
「ん?なんだ、タケルは迷宮を知らないのか?」
「いえ、迷宮は知っていますが、近くにあるとは知らなかったです。」
迷宮とは、別名"ダンジョン"とも言い、古代の遺跡やただの洞窟が魔力の溜まり場となり、モンスターたちの棲みかになってしまった物の事だ。
いわゆるファンタジーと言えば必ずあるような物だ。
そして俺が聞いた話では、この国には迷宮は存在しない。
あるのは隣の国しかない。
「実はこの国にも迷宮はあるのだ。だがちょっと訳ありな迷宮で、実力のある者しか入れないし、被害を少なくするため情報規制をしているんだ。その迷宮の名は"知恵の迷宮"と呼ばれている。」
「知恵の迷宮.......そんなのがあったんですね。」
「そうだ。そこで、タケルを鍛えようって事だ。」
「ありがとうございます。」
「なに、タケルには居てもらわなきゃいけないからな。それでは出発しよう!」
「はい!」
俺はこのときまだ知らなかった。
"知恵の迷宮"が緑ランクである事を。
そしてその迷宮で待ち受けている者を.......