第20話 ~ 第2王女と少年 ~
更新が遅くなりました。
夢を見た―――
全裸の美女が右ストレートを俺にぶち込む。
俺は吹き飛ばされて壁に激突。
そしてこの世を去る。
そんな夢だった。
「...............おわっ!」
俺は飛び起きた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
悪夢だ........
「ど、どうした?」
声をかけられた方を見るとアールさんがいた。
「アールさん........悪夢を見ました。絶世の美女が俺を殴り殺す夢です.........恐ろしかった。」
「あー、それは夢じゃない。」
「へ?」
「まぁ、君は死んではいないが、殴られたのは本当だ。そして君は気絶して、部屋に運び込まれた。我々にも落ち度があるが、まさかこんな事態になるとは思わなんだ。すまなかった。」
「はい?」
状況がつかめない............
「すみません。何が何だかんだよくわからないんですが。」
「そうか、順をおって説明しようか。」
「その説明は私がします。」
部屋に入ってきたのは、俺を殴り殺した......
違った。
俺を殴り飛ばした人だった。
「まずは自己紹介からね。私は第2王女のルナミス・ルク・サルーレよ。」
「あ、俺はタケル・サトウです。」
突然現れた第2王女..........
どうなってんの?
話しによると........
王女様は遠い所に遠征しに行っていたらしく、今日の夜に帰ったとのこと。そして旅の疲れを癒すため風呂に入ったが、以前と違い女湯と男湯が逆になっている事を知らなく、確認もせずにいつも通りに風呂に入った。そこが男湯だったと。
俺が間違えたかと思ったよ........
風呂に入っているとそこに俺が登場し、あのような事態になったと。
これは......俺が悪いのか?
いや!悪くない.......はず。
「たしかに私が間違えたのに、貴様を殺そうと殴ったのは悪かった。」
おい!殺そうとしてたのかよ!
「だが!貴様は私の裸を見たのだ!責任をとってもらおう!」
「..............え?」
「貴様はお世辞にもカッコイイとは言えないし、剣もダメだと聞いた。だがそんな何の取り柄もない地味な貴様でも、セブンス・エフェクトを発動したのだ。見所は少なからずある。そんな貴様を私の側においてやろう!」
ビシッ!とこちらに指をさす王女様。
そして頭を抱えるアールさん。
ふむ.....またよくわからなくなってしまった。
「姫様、ここからは私が説明致します。」
「ん?そうか、では頼む。」
どうやらアールさんがちゃんと説明してくれるようだ。
「タケルくん、まずは風呂の件は姫様が悪いが、そもそも君が約束通りに帰らなかったのも悪い。」
む.......たしかに、そうかも。
「そして、君が気絶している間にな、そのー、君がセブンス・エフェクトを発動したと聞き付けてな。そこで君を姫様の騎士団に入れたいそうだ。」
「騎士団?」
「ああ、姫様は特別に独自の騎士団を持つことを許されている。そこに君を加えたいという事だ。」
「そういうことですか。」
「ちなみに拒否権はない。」
「はい?!」
「すまないが、これは決定事項だ。」
「.................」
「よかったな貴様。これで出世コース間違いないぞ!」
「.................」
あれ?拒否権なし?決定事項?
俺の異世界での冒険者ライフは?!
こうして、俺は異世界で冒険者から騎士になりました。
騎士に任命されてから翌日、俺は王女様と共に騎士達の前にいた。
王女様直属の騎士団に俺の事を紹介するらしい。
「この者が新たに"特騎隊"に加わった者だ。みんなよろしくやってくれ。」
「初めまして。タケル・サトウと申します。よろしくお願いします。」
みんなの顔つきは、なんだこいつ?って言ってそうな感じだ。
歓迎されてない感がはんぱねぇ..........
ちなみに"特騎隊"とは、第2王女様にだけ許された部隊、特別近衛騎士部隊の事を省略して"特騎隊"という。
「この者は私のお付きとして行動してもらうようになった。」
「え?!」
「おお!いいぞ!よく来た!」
「頑張れよ!」
等々、急に歓迎ムードになり拍手喝采になった。
これはいったい...........どういう事だ?
それから3日がたった。
あの時、なぜ急に歓迎ムードになったかわかったよ。
王女様はとんでもなく我が儘だった。
これがほしいから取ってこいだの、あれが必要だから買ってこいだのと、まさにパシリの様な扱い。
これって騎士のすること?等と疑問に思っても口にすることはできずに大人しくしたがった。
特騎隊の皆がなぜお付きという重役を拒んだのは、この事を知っていたからだ。
俺の前にもお付き役の人はいたらしいが、すぐに辞めてしまったみたいで、その後は誰もやらなかった。
お付き役として決まった時は、これはエリートコースなのでは?!と思っていた自分が馬鹿だったよ.........
この3日間は忙しくて、大変だった。
姫様のご機嫌とりや特騎隊との訓練など、馴れないことが多くて大変だった。
そして俺がなんとか特騎隊の皆と仲良くなってきた頃、問題が起きたらしくアールさんに呼び出された。
「失礼します。」
立派な作りをしたドアをノックして中に入る。
この部屋はアールさんの執務室となっており、机の上には書類が山積みだった。
「急な呼び出し、すまないな。」
「いえ.........」
俺は直立不動な気をつけをしてアールさんの前に立つ。
「ふふ、君もすっかり騎士団の仲間入りだな。」
「はい。ありがとうございます。」
俺は左胸に手を当てる。
これが、騎士団の敬礼になるみたいだ。
「私の前ではそう畏まらなくてもよい。前みたいにでかまわんよ。」
「あ、はい。」
俺はアールさんに促されて椅子に座る。
「さて、本題に入るが........」
と、アールさんが話をきりだしたとき、
バァン!
大きな音をたてて部屋に入ってきたのは姫様だった。
「聞いたぞ、アール!なぜタケルを我が元に置いておけぬのだ!」
姫様はアールさんに掴みかかる様な勢いで捲し立てた。
「姫様、落ち着いて下さい。部下の目の前ですぞ。」
「む..........」
姫様は俺に気づいたらしく、急に大人しくなり俺の席に座った。
俺は立ち上がり、姫様に敬礼をしようとするが、アールさんによいと言われ、そのまま座った。
「ふむ.........それでは本題に入ります。」
アールさんは俺の方へ向き、
「タケル君、君を騎士団に入れたことに対して問題が起きた。」
と言った。
「え.........?」
俺は急に言われて訳がわからなかった。
「君を騎士団、しかも特騎隊に入れたことで、周りの貴族達がよく思わない人がいてな。それで異議を申し立ててきたのだ。」
「ふん!どうせミラの取り巻き貴族共だろ!まったくいつも私の邪魔をしおって........」
「姫様、落ち着いて下さい。」
ちなみにミラとは、第1王女 ミランダ・ルク・サルーレ様の愛称だ。
そしてルナミス姫様とミランダ姫様は仲が悪い。
昔は仲がよかったが、今ではどういう訳か仲が悪くなったようだ。
ルナミス姫様は憤慨した様子で腕を組んで険しい表情をしていた。
顔を険しくしても美人であることにはかわりないとは、どんだけ綺麗なんだこの人は.......と思った。
「という事だ。理解できたかな。」
「あ、はい。それで俺はどうすれば?」
「選択肢は2つ。1つはこのまま特騎隊を辞めて、元の冒険者に戻る。」
「それはダメだ!タケルは私の物だ!」
姫様は席を立ち上がり、そう宣言した。
「.............」
「..............」
俺とアールさんはその宣言に固まってしまった。
それはどういう意味なんだ?ただ単に所有物としての扱いなのか、それとも違う意味なのか.........
「あ...........」
姫様は自分の宣言に気づき、顔を赤らめて、
「今のは忘れろ!」
右ストレートを俺にくらわした。
「ぐはっ!」
俺は席を転げ落ちる。
今回は黒龍の鎧を着けていたので軽症ですんだが、これがあってもこの威力........実は姫様ってけっこう強い?
「ふふふ、まぁ落ち着いて下さい。姫様。」
「何を笑っておる!アール!」
「いえ、随分と一人の男にご執心な様なので。」
「む.......ふん!」
姫様は席に座って、そっぽを向く。
俺は立ち上がり、アールさんの続きを聞いた。
「1つ目の選択肢は無さそうだな......そして2つ目の選択肢は決闘をすること。」
「はい?決闘?」
「そうだ。向こうの貴族が君と決闘をして、勝ったら認めようと言ってきたのだ。」
「それってもしかして.......」
「うむ、君の事をなめている。」
「やっぱり。」
まぁそうだよね。レベル一桁の人間に負けるわけないよな。
「決闘と言っても命のやり取りは無い。武器も木製のを使うし、審判は私が勤めるから安心していい。君はこの決闘を受けるかな?」
「その貴族は強いんですか?」
「君の相手はその貴族じゃない。副団長が相手だ。」
「へ?」
「決闘は代役も用意できる。その代役は我が騎士団の副団長にあたる"アーザル・ロックアン"がやることになった。」
「............」
マジか!副団長って言うぐらいだからかなり強いんじゃない?!
これってヤバイかも........
俺はチラッと姫様を見た。
なんか心配してそうな、寂しいような表情をしている。
まぁ答えは決まってるか.......
「その決闘お受け致します。」
「そうか。では先方に承諾の返事をしておくよ。」
「はい。」
「それでこそ特騎隊の一員だ。」
姫様は嬉しそうに笑っていた。
笑顔がとても可愛く、危うく見惚れるところだったよ。
「決闘日は1ヶ月後だ。それまではできるだけ鍛えておけよ。」
「はい!」
「そういう事ならこの私が鍛えよう!なに、私に任せておけば心配ない。」
と、姫様は胸を張り笑顔を向けてくる。
「あ、はい......」
なぜだろう.......とても心配だ。