第14話 ~ 長い1日の始まり ~
グレンさんを起こして俺たちは森の中へと歩いていく。
まだ完全に夜が明けきっていないので、薄暗い森となっている。
現在俺が倒したレッドウルフの数は5頭だ。
目標の10頭まであと半分。
まだ薄暗いなか、何かが動く気配がする。
俺はすぐに魔力感知スキルを使うが、感知できなかった。
不思議に思っていると、何かが飛び出してきた。
そこまで早くなく、余裕をもってかわすと、ニードルラビットがいた。
また飛びかかって来たのでそれをかわし、すれ違いざまに斬りつける。
もうニードルラビットとの戦闘はお手のものだな。
だが何故か魔力感知に反応がなかった。
なぜだ?
「グレンさん、さっきのニードルラビット、魔力感知に反応がなかったんですが。」
「ああ、それかい。それはニードルラビットの魔力値が低すぎるからさ。」
この世界の全ての生物は魔力を持っている。
だが魔法を使えない小動物やモンスターは魔力値が極端に低い。そのため魔力感知のスキルには反応しないらしい。
生物を感知するなら気配察知が一番有効とのこと。
森を歩いていると、前からレッドウルフが走ってきた。
しかも10頭も......
多い.....
どうする?と考えていたところ、
「よし!一気に倒してクエストを終えるよ。」
レイチェルさんがそう言ってきた。
と言うことは、俺は5頭も討伐しなきゃいけないのか?
レイチェルさんの顔を見ると、真剣の表情でこちらを見ていた。
これはマジだ.......
殺るしかない......
俺は意を決してレッドウルフ達に向かって剣を構えた。
「ふぅー。」
大きく息を吐いて落ち着かせる。
集団の先頭を走っていたレッドウルフが俺に気づいて、大きく口を開けて向かってきた。
俺は一瞬だけ魔闘術を発動させ、攻撃をかわしてその口に剣を突っ込む。
剣はレッドウルフの口に入り、喉を裂いて内臓を破壊し、体の内側から剣が飛び出した。
辺りに血が飛び散る。
すぐに剣を振り、死体となったレッドウルフを退かす。
レッドウルフ達は走りを止めて、こちらを伺うがすぐに襲いかかってきた。
3頭が俺に向かって来る。
俺はまた一瞬だけ魔闘術を発動させ、レッドウルフ達の間を通り抜ける。
すれ違いざまに1頭を斬りつけた。
レッドウルフが絶命したのを確認し、残りのレッドウルフを見る。
レイチェルさんとグレンがもう3頭倒していた。
早いな........
などと思っていると、急に目の前にレッドウルフが見えた。
うわ!あぶね!
俺は寸でのところで攻撃をかわす。
「何やってんだい!しっかり集中しな!」
レイチェルさんから喝がとんできた。
やべぇ.......集中しろおれ......
目の前にはレッドウルフが3頭。
こいつらを倒せばクエストクリア。
「ガゥ!」
レッドウルフが1頭飛びかかってきた。
魔闘術発動!
攻撃をかわして、すれ違いざまに斬りつけて1頭倒す。
続けざまに剣を振り、2頭目の頭を落とす。
よし!あと1頭......
魔力に反応?!
「ワオォォォン!」
ファイアボールが飛んできた。
それをかわして、一気に接近。
「はあっ!」
剣を振り下ろして、レッドウルフの胴体を深く斬り裂いた。
レッドウルフはじたばた動いたが、じきに動かなくなった。
辺りを確認すると、残りのレッドウルフは2人に倒されていた。
「ふぅー。」
大きく息を吐いて、緊張と魔闘術を解く。
「まだまだだが、とりあえずはクエストクリアだな。」
「はい。ありがとうございました。」
「まだ早いよ。街まで戻るまで油断したらダメだぞ。」
「あ......わかりました。」
グレンさんにそう言われてしまった。
それもそうか......
クエストクリアしたしたのに帰れなかったら意味ないもんな。
レッドウルフの死体を処理したあと、街に向かって歩き出した。
途中、レッドウルフやニードルラビットが襲ってきたが、特に問題なく倒せた。
だがなんかモンスターとの遭遇率が増えた気がする.......
「姉さん......なんか遭遇率が増えた気がする。」
「確かにそうだな........警戒しよう。」
2人もそう思っていたのか......
警戒しながら森を進んで行くと、ファンタジー世界には欠かせないあのモンスターが出てきた。
そいつは魔力感知にひっかかった........
「ん?反応がある。」
魔力感知に反応があった方を向いた。
まだ遠いが、そいつはいた。
緑色の体で醜悪な顔つき、身長は子供ぐらいか。手には棍棒を持って赤い目でこちらを睨んでいた。
「あれは......ゴブリン?」
「そうだ、ゴブリンだ。」
俺の疑問にレイチェルさんが答えてくれた。
「ちと厄介だぞ.......」
「え?」
「ゴブリン単体は弱いが、いつも集団で行動している。数や構成によっては、黄色ランクの冒険者でも苦戦する。」
「マジですか........」
ゴブリンって普通は弱いの代名詞と言っても過言でないと思うのだが......
まさかこの世界のゴブリンは強いの部類に入るとは......
「グゴガァァァ!」
ゴブリンが唐突に叫ぶと、木々の周りからゴブリン達が溢れ出てきた。
その数は22頭.......
マジか!どこにそんなに居たんだよ!
「メインはタケルがやれ!サポートは私達がやるから。」
レイチェルさんが即座に指示をだした。
げ!マジかよ!
こうなったら殺るしかない!
全力だ!!
「魔闘術発動!!」
気を引き締める意味も込めて声を出す。
ゴブリン達をよく見ると、棍棒だけではなく錆びた剣や槍等を持っている者や、中には木でできた鎧を着ている奴もいた。
「グガァァァ!」
「うおおぉぉぉ!」
俺は叫びながらゴブリンへと駆け出した。
まずは先頭を走っていたゴブリンと戦う。
手持ちの武器は錆びた剣だ。
リーチはこっちに分がある。
先手必勝!
ゴブリンが間合いに入った瞬間に斬りつける。
胴体を斜めに斬り裂かれ、臓物と紫色の血が辺りに飛ぶ。
「グガァ!」
悲鳴を上げていたが気にせず次のゴブリンを目にやる。
次は棍棒を持ったゴブリンが近づいてきた。
先程と同じように斬ろうとするが、視界の隅のゴブリンが剣を投げてきた。
「なっ!」
俺はそれを剣で防ぎながら、近づいてきたゴブリンに蹴りをくらわす。
ゴブリンは後方へ大きく吹き飛ぶ。
そんな攻撃もするのかよ.......
内心驚きながら、さらに接近してきたゴブリンを斬り付けていく。
剣を振り下ろして斬りつけると、そのまま振り上げて次のゴブリンを斬りつける。その間に近づいてきたゴブリンには蹴りをくらわして、距離を開ける。
多対一の戦闘も慣れてきたな.......
そう思っていると、後ろから魔法が飛んできて背後に近づいてきたゴブリンを仕留めた。
俺は後ろを少し振り向いて見ると、グレンさんが魔法を放っていた。
よく見ると別の場所でレイチェルがゴブリンを引き付けている。
まぁ、そうだよな.....
さすがにこの数は1人では厳しいよな。
俺は2人に改めて感謝しながら、迫ってくるゴブリンを斬っていく。
それから数刻がたち、辺りにはゴブリンの亡骸とその残骸。そして紫色の血が周囲に飛び散っていた。
幾つか攻撃を受けしまったため、あちこち怪我をしている。
攻撃を受けるたびグレンさんが魔法で回復してくれたので傷はそんなに深くはない。
途中から数は数えてないが、おそらく最初に現れた数より多い。
40頭ぐらいは居るんじゃないか?
それにゴブリンだけではなく、レッドウルフや他のモンスターもいる。
いつのまに来たんだか.....
「あの、レイチェルさん?数、増えてません?」
「ああ、途中から増援が来てな。それに周りから他のモンスターが寄ってきて、まぁ、ざっと50頭以上は居たな。」
「マジか.......」
そんなに倒しのか......
もう無我夢中で剣を振っていたから気がつかなかった。
と言っても俺はせいぜい20頭倒していれば良い方だな。
そういえばグレンさんがいないな。
すると、奥からグレンさんが歩いてきた。
「あ、グレンさん。どこに行ってたんですか?」
「ああ、ちと偵察にね。」
「グレン.......どうだった?」
「姉さん......やっぱり様子がおかしい。モンスター達が向かって来ている。それに俺を無視して走っていくモンスターもいた。」
俺が不思議に思っていると、グレンさんが説明してくれた。
このフルカナ森は初心者の冒険者でも来れる場所で、普段こんなにモンスターと遭遇することはない。
それにこの森にはゴブリンは出ないそうだ。
「え?じゃあゴブリンが出てきたってことは........」
「ああ、おそらくあのゴブリン達はこの森の先に居たんだろう。そして何者かに住みかをおわれて、この森に来たって事だと思う。」
「その何者って?」
「わからん.......だがここのモンスターたちが逃げているってことは、少なくともここにいるモンスターよりは強いって事だな。」
なるほど.....遭遇率が高くなったのはそういう事か。
あれ?これってヤバイんじゃない?
「ふむ、クエストもクリアしたことだし、急いで街に戻るぞ。この事をギルドに報告せねばな。それと、君はこれを飲んでおけ。」
レイチェルさんに渡されたのは魔力回復薬だった。
非常時に備えておけと言う事だろう。
「わかりました。」
俺は魔力回復薬を飲んで回復した。
ちなみに魔力回復薬はかなり高価な物で冒険者でも高ランクの冒険者しか手に入らない物だ。
魔力が回復したのを感じながら、街へと向かって歩き出した。
いつのまにか太陽が真上にあり、もう昼時だ。
休憩無しに街まで行くことになったので、歩きながら携行食を食べる。
早く街でおいしいご飯を食べたい物だな.......
街まであと1時間程の距離まで来たところで魔力の反応があった。
「っ!」
「これは........」
「え?」
俺よりも早くに2人が気づき、そのすぐあとに俺が気づいた。
「グオオオオオォォォォァァァァァァァ!!!」
「なっ!」
「この声は!........ヤバイ!!走れ!!」
とてつもない大きな叫び声に驚いていると、グレンさんから指示があった。
何が何だかわかないまま、一気に駆け出した。
そして背後から凄い勢いで迫ってくる魔力反応。
本能が警告を発しているかのように、全身に鳥肌がたっていた。
何か.......ヤバイのが来る!
走っていると、奴は姿を現した。
そいつは風圧とともに周りの木々を凪ぎ払い、俺たちの前に降り立った。
そいつは黒々とした甲殻に身を包み、大きな翼と尻尾を持っていた。
そいつは頭に2本の角を生やし、金色の眼でこちらを見ていた。
「...........ドラゴン.......」
この時から俺達の長い1日が始まった。