第10話 ~ 討伐 ~
俺達3人はフルカナ森を目指して、草原を歩いていた。
俺はいつでも戦闘できるように心構えだけは準備した。
前にレイチェルさん、後ろにグレンさんと縦に並んで歩いていた。
草原を歩いて10分は経っただろうか。目の前に森が見えてきた。
あれがフルカナ森か.......
ここまで戦闘は無しか。
ちょっとだけ期待していたんだがな。
歩いていると違和感を感じた。
目の前のレイチェルさんの魔力に僅かな揺らぎを感じ取った。
草原を歩いていた時から随時、魔力感知スキルを発動していた。そのお陰か、レイチェルさんも、グレンさんも常に魔力を微量ながら出しているのに気がついた。
その微量に出ている魔力が少し高まった気がしたのだ。
なんだ?.......
と思ったとき、視界の右隅から何かが飛び出したのが見えた。
「おわ!」
俺は慌てて前に転がった。
振り向き、飛び出したのを確認すると、そこに居たのは角を生やした兎だった。
「兎?.....」
「こいつはニードルラビットさ。」
レイチェルさんが俺の疑問に答えてくれる。
俺は剣を抜いて前に構える。
「初のモンスターとの戦闘だ。君の実力を見せてもらうよ。」
俺はとりあえず魔闘術を使わずに戦うことにした。
素の俺がどこまで戦えるか知りたかったからだ。
ニードルラビットを視界に捉えながら動きをよく見る。
するとニードルラビットは俺に向かって跳んできた。
頭に生えた角を使っての頭突き攻撃だ。
「くっ!」
予想より速く、対応に遅れる。
なんとか右にサイドステップをしてかわした。
たがニードルラビットは着地したと思いきや、すぐにこちらに向かって頭突き攻撃をしてきた。
「くそ!」
悪態をつきながら今度は左にかわす。
なんとなくわかってきた。
ニードルラビットの攻撃は直線的。それに予想より速いが、速すぎる事はない。
それならば対応できる!
ニードルラビットがこちらに向かって、頭突き攻撃をしてきたのをタイミングを合わせて側面に回り込み、思いっきり剣を振り下ろす。
ザシュ!
と音がした気がした。
ニードルラビットを見ると首が落ちていた。
「あ.......」
初めての殺し。
人ではないが、初めて命を絶った。
その事が手に残る感触から伝わってくる。
少しの吐き気が込み上げてきたが堪える。
こんな事にいちいち吐いていたらこの先、戦えなくなる.......
そう思いながらニードルラビットの亡骸を見る。
「ふむ......初めてにしてはなかなか良い動きをしていたぞ。それによく奴がいることに気が付いたな。」
「いえ.......レイチェルさんの魔力が僅かに変化があったので。」
「ほう......魔力感知のスキルか。私の魔力の微妙な変化に気がつくとは、なかなか優秀だな。」
人は何かをする前や何かに備えるとき等は、僅かに息を飲む。その僅かな動作がこの世界では魔力として表れるらしく、俺はそれを感じ取ったのだ。
「だろ!姉さん!こいつと初めて模擬戦をしたとき俺も驚かされたよ。」
「いえ、俺はまだまだですよ。」
「その心意気や良し!その気持ちをわすれるな。たまに自分の力を過信して先走る奴がいるからな。」
「はい、気を付けます。」
赤ランクの冒険者が言うことだ。
気を付けよう。初心忘れるべからずってやつだな。
「では気持ちを切り替えて森へ向かうぞ。おっと......その前に角を切り取っておけよ。それは素材になるから売ると金になるぞ。」
「わかりました。」
レイチェルさんに言われたとおりニードルラビットの角を切り取る。
角は少し螺旋状になっており、光沢があった。
なんでも薬の材料になるらしい。
その角を支給された鞄に入れる。
なんでも魔法の鞄らしくかなりの容量が入るらしい。
いわゆるアイテムボックスみたいなものだ。
それからしばらく歩くと森の入口に着いた。
王都を出てから3時間程だろうか。
その間はニードルラビットがちょくちょく襲ってきたが、対処法さえわかってしまえば簡単に倒せる。
俺が戦っている間は2人は周囲を警戒しつくれており、戦いやすい環境を作ってくれてた。
「よし!ここいらで休憩するぞ。」
俺達はそこら辺にあった丸太に腰かけた。
丸太は椅子のようになっており、三角形を作るように3つ置かれていた。
その中央には焚き火をした後があり、おそらくよく休憩場に使われているのだろう。
休憩しているとおもむろにグレンさんがこんな事を聞いてきた。
「タケル君ってさ......どうしていつも一人で?というか苛められているのか?」
「ああ.....その事ですか。」
「バカ!そんな事はさらっと聞くんじゃない!」
とレイチェルさんがグレンさんの頭を殴る。
「イタ!すまない.......」
「いえ、気にしないでください。そうですね......まぁ、別に苛められているわけじゃないんですよ。ただ皆は俺に関わりたくないだけですよ。」
俺は2人に過去の出来事を話した。