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王道勇者の父上は、やっぱ普通のお父さん

作者: ポロニア

 ――――この度は、『挑み続ける冒険者(キミたち)全力応援フルサポート!!』で、お馴染みの『月刊・冒険者の友』の取材を快く引き受けていただいた事に感謝します。


「はあ、どうも。宜しくお願いします」


 ――――さっそくですが、いよいよ勇者様が魔王の居城に到達したとの速報が入りました。大陸最強とも謳われる英雄のお父様として、今の心境をお聞かせ願えますか?


「はは……あいつが英雄、ですか。まあ、皆さんの期待に応えられたら良いんじゃないかと」


 ――――勇者様は出立前に「この命に代えても魔王を倒す!」と、意気込んでおられましたが、やはりお父様としては誇りに思われますか?


「そうですね。退治するに越した事はないんじゃないですかね。魔王、迷惑ですし」


 ――――失礼ですが、勇者様の出身が王都からこれほど離れた町で、しかも御実家が普通の道具屋さんとは驚きました。


「その分、気兼ねが無くて良かったんじゃないですかね。息子は小さい頃からのんびりした性分ですし」


 ――――勇者様の幼少の頃のエピソードをお聞かせ下さい。


「エピソード? まあ、普通の子供でしたよ。木の枝拾ってチャンバラしてるような」


 ――――なるほど。その頃から騎士としての鍛錬を積まれていたと。


「そんな大層なモンじゃないでしょう。その辺の子供もやってますよ。そうだなぁ……母親に似て、ちょっと体質が弱かったかな。あいつ、小っこい頃は風邪ばっか引いてましたから」


 ――――そう言えば、勇者様のお母様、いえ、奥様はどちらに?


「息子が十歳の頃でしたか……魔王の撒き散らした流行病(はやりやまい)でね。さっきも言いましたが、もともと身体の弱い女でしたんで」


 ――――これは失礼しました。では、この戦いは勇者様にとってお母様の敵討ちでもありますね。


「本人もそのつもりみたいでしたねえ。あんまり気負うな、って言っておいたんですが。ああ、そこの壁に架かってる絵、それが家内が元気だった頃でして」


 ――――ああ、これは綺麗な方ですね。


「へへっ、自慢になっちまいますが、町一番の美人って評判でしたよ」


 ――――勇者様と恋仲と噂される王女様と面影が似ているように思えます。


「そりゃあ、恐れ多い話で」


 ――――魔王征伐の暁には、勇者様と王女様のご成婚が噂されていますが。


「恐れ多いを通り越して、恐ろしい話です」


 ――――王国の、いえ大陸に住む多くの人々の為にも、勇者様の活躍に期待したいところですね。


「はあ。息子が皆さんのお役に立つなら、親としてこれ以上の喜びはありません」









 やれやれ、やっと帰ってくれたな。まったく、何が「お馴染みの『月刊・冒険者の友』」だ。聞いた事ねえし。はぁ……疲れた。取材なんて引き受けんじゃ無かったぜ。

 だいたい町長も町長だ。町興しに人の息子をダシに使うな、っての。息子の名前が焼印された饅頭やら、息子の顔を模したパンだとか、親からしてみたら悪趣味この上ないわ。あーあ、酒でも飲みに行こっかな。

 ……止めとくか。久々にお前の話なんてしちまったもんだから、今夜はお前と飲みたくなっちまったよ。飲めないのは知ってるさ。でも、ちょっとくらい付き合ってくれても良いだろ? あいつが土産にくれた良いのがあるんだよ。ほら見ろよ。やっぱ高い酒は瓶からして違うよなあ。


 ――――あんまりたくさん飲んでは駄目よ。


 たまには良いじゃねえか。いやぁ、しっかし美味いなぁ、これ。王都じゃないと手に入んないんだってよ。あいつが土産持ってくるなんて、気が利くようになったもんだよなあ。


 ――――あの子も、もう十八よ。


 そうか。もう、そんなになったんだな。でもさあ、笑っちまうんだぜ。あいつ、これっぽっちも飲めねえの。何が「大陸最強の英雄」だ? 誰に似たんだよなあ、ホントに。


 ――――ふふっ、あなたもそんなに飲めないくせして。


 へへへ。ま、そう言うなよ。

 なあ、お前。自分の息子が「勇者様」とか呼ばれてんの、どうよ? 嬉しいか? そりゃあ、俺だって息子が褒められんのは嬉しいよ。いまや国を挙げての大フィーバーだぜ。しかもあいつ、王様にも気に入られちまってよ。魔王倒したら王女様と結婚すんだって。はっはっはっ、凄えよなあ。


 ――――ママ、ママ、って、私の後をくっついて回っていたのにね。


 お前、あいつが小っこい頃に良く言ってたよな。「お父さんみたいに、世の中の為に頑張る男になれ」って。だけどさ、俺は他人の為に頑張った覚えなんて無いんだ。俺は、お前とあいつの為だけに働いてきたんだよ。


 ――――あなたは十分に頑張っているわ。


 へへっ、そうかな。だと良いな。だからさ、我が息子ながらあいつは偉いと思ってんだよ。命懸けで世の中の為に頑張ってんだ。凄い奴だ。俺の誇りだよ。


 ――――無事に帰ってきたら褒めてあげてね。


 ……こんなこと言ったら怒られっかな。お前にしか言えないんだけど、俺はさあ、別に魔王なんてどうでも良いんだよ。何であいつがよう、魔王となんか戦わなくちゃならねえんだ? 何であいつがそんな危ねえ真似をしなくちゃなんねえんだ? 何であいつなんだよ。何で俺の息子なんだよ……


 なあ、お前。もしも、もしも出来るのなら、あいつを護ってやってくれないか。

 無力な俺は、ここであいつの無事を祈る事しか出来ないんだ。

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