二人の絆
エマと二クラスが追撃する悪意の塊――シグルズと命の精霊に牽制しながらついてきている。俺はエマの胸に隠れていたアイ=ドールを取りだして、色々と相談していた。
「アイ=ドールはワンちゃんの作戦に賛成なの」
「だったら――」
俺たちは森の中を駆けずり回り、逃げていたので何度か同じ場所を通っていた。山の上では精霊が誰かと戦っているので、そちらへは逃げられずに下へ戻ってきた。
見つけたのは、洞穴だった。
洞穴の奥は仄かに輝いているので、おそらく抜け道があるのだろう。
「あそこへ逃げ込め!」
「洞穴だよ!」
エマが抗議したが、二クラスは狙いが分かって、少し蒼ざめた。
えっさ、ほいさっ、と私たちは洞穴に入って、アイ=ドールがセセラ笑った。
「岩さん落ちてー!」
洞穴は急激に震えて、追って来たシグルズと狐を押し潰した。
いくら精霊とはいえこれにはひとたまりも無いようで、身動きが取れなくなり土にと岩に埋もれた。洞穴の上でも騒ぎ声が聞こえてきたので、樹の精霊も何かしらに巻き込まれたかもしれない、俺たちは竪穴を見つけて、アイ=ドールが少しずつ階段を作り昇っていった。
「はっはっはっ! 年季が違うのだよ」
「アイ=ドールは言っちゃうよ。お犬さん得意満面のところ悪いけど、まだ終わってないの」
「えっ?」
竪穴の半分は昇ったころに、埋もれたところからシグルズが出て来た。
俺はエマを抱えて、上空へ投げた。二クラスも抱えて、ぶん投げて、俺はシグルズと対面した。
「これくらいで……止まるか」
「男らしく、諦めろ。もう――お前は死んだんだ」
俺はシグルズの剣の腹を拳で叩きつけて、一撃を食らうのを避けた。竪穴の内壁は崩れにくかったけど、本気で蹴ると緩くなった。だが、止まるわけにはいかない。反射する光のように飛び跳ねて、頭、脇腹、股間と、次々と拳をめり込ませた。
さすがのシグルズも接近戦で劣ることに気付いたようだ。
だが――シグルズには魔法があった。
魔剣鳴子――この反響する内壁に逃げ場は無かった。
「男を曲げたな」
真剣勝負のときに魔法は使わない男だった。
いや――だからこそ所詮――悪意の塊だ。
「お前はシグルズに及ばない」
魔法が殺到する前に、特攻で懐へ飛び込んだ。
だが――その拳は届かなかった。
俺の周りは鋼に包まれた。
「なんだ?」
竪穴の上へ出ると、そこにはクーがいた。
クーはナイフを動かして、竪穴内のシグルズを見た。
「誰だ? お前のようなゴミが――シグルズを汚すな」
地中の鉄分が竪穴内を幾度も交差して貫いた。土砂降りの雨よりも激しく、シグルズの体は鉄の矢に貫かれた。
「ぐっ」
シグルズは上を向いて、血を吐いた。
「眠れ……魔王軍の勇者よ」
鋼魔法は止まり、シグルズは数百の矢に刺されて止まった。
「可哀想に……悪意の塊が……」
二クラスがディエス・イレの銃弾を悪意の塊に撃とうとしたが、クーがそれを止めた。
「止めておけ。弾の無駄だ」
その時、二クラスとエマの体が止まった。
俺の手にいたアイ=ドールも動きを止めて、世界は止まってしまった。
「これは……時を停止させたか」
「あらら……って、えー! そんなことできるの」
「ああ、解明されていない魔法だけど。普通使うにしても、世界全体には使わない――これは使用者も焦っている証拠だな」
「魔女かな?」
「魔女なら、ここに僕を召喚したと同じで、召喚してくるはずだ」
「となると、ダグーか」
「手遅れになる前に行くぞ」
クーを見ると、魔女の元を離れたといってもやはり魔女の騎士なのだろう。心配そうな表情を浮かべて、少し汗をかいている。
「あっ、そうだ……助けてくれてありがとう」
「いや、どうだろうな」
クーは走りながら言った。
「あの時、鋼魔法を使わなくても、大怪我はしたが良い線はいっていたはずだ」
「まあ、そうだけど」
「あのオモラシちゃんがここまで強くなるとわねー」
……いつの話をしているんだ。
「それすら懐かしいな」
「たしかに――2人で肩を並べて戦うのも本当に久し振りだ」
俺たちは危機的状況なのに、すこし心が和んでいた。




