私の騎士
俺と魔女は洞穴の中に入り、樹の精霊をやり過ごしていた。
しばらく身を潜めていると、その洞穴が人工的に作られたのに気付いた。
洞穴の奥を見ると、かすかに光っていた。
その場所には竪穴があり、魔女の箒に相乗りして、山の上へと向った。
「何かの採掘をしていた場所みたいだ。ただ、捨てられて何年にもなるみたいだけど」
「火山と何か関係があるのかな」
「さあね」
竪穴を上へと登るに連れて、新鮮な空気が満ちてきた。
竪穴には柵も何も無くて、穴の周りに草むらが覆われていた。
「闇の精霊は、ただの属性の1つだったけど、人々の解釈がそれを認めなかった」
箒の前で、魔女が語った。
「邪神と言われ、迫害が闇を邪にした」
「迫害?」
「希望と勇気のような正の感情に力があるように、悪意や殺意のような負の感情にも力がある。だから――」
水母のような感触と共に、魔女の箒が真っ二つに割れた。
「肥りすぎたかな」
カラカラと魔女は笑い、両手で箒をつかみ、ゆっくりと着地した。
「味なことをする」
「今、何をされたんだ」
「時間を止められたの。オズが動かなくなったから、風魔法をくらいかけたのよ」
だから、箒を盾にした。
「普通の状態なら、時間停止をされても私なら対応が出来るけど……」
「何か問題でも?」
「……おそらく、ダグーと闇の精霊が待ち受けている。闇の精霊はミオだろうね。だから、私はミオがミオの人格を維持できるように、人格を掴む。それをしていたら、時間停止されたら、魔法力の消費のせいで動けなくなる可能性があるんだよね」
「だったら、先にダグーを倒して」
「そうなると、闇の精霊とも戦うことになるでしょ。戦力が分担しているうちに、それはちょっときついよね」
魔女が唇を指先で弄っていた。
しばらくの沈黙の後、後ろから轟音が響いてきた。
樹の精霊が木々をなぎ倒しながら、接近してきつつあった。
「あちゃー。見つかったか」
「せっかくやり過ごしたのに」
「仕方ないな」
魔女は深く呼吸をして、ブツブツと詠唱をした。
「魔女の騎士――クー=デュラン」
ポン、と壮年の男が、ナイフとフォークを持ち現れていた。
「あら? 食事中だった?」
数十年前に流行った物語の主人公は、無言で魔女を見ていた。
「まあまあ、怒らないで」
「食事中だったんだけど」
「見れば分かるわ」
「それだけ? 魔女」
「そうよ――なんか文句あるの?」
「後で、ステーキ奢って」
「良いわよ」
チュ、と魔女は女王陛下の騎士に投げキッスをした。
「エマとコロネはいないの?」
「下で戦っているわ」
「どうせ呼ぶなら先に言ってよ。剣を持ってきたのに」
と言いながら、ナイフとフォークでどう戦えるか確かめているようだ。
「じゃあ、クーは樹の精霊を倒して」
女王陛下の騎士は眼の前に迫りつつある巨大な樹を睨んだ。
「えー、あれー。凄い大きいです」
明らかに嫌な顔をしているが、指先のフォークがクルクルと動いた。
すると、地面から次々と粉が舞い上がり、空中に満ちてきた。
「『鋼』――囲め」
樹の精霊が繰り出してきた蔓を空中に満ちた金属が弾いた。
球体状に次々と作られて、どんどん樹の精霊へと殺到していった。
「いい加減、魔法の名前くらい作りなさいよ」
「嫌だよ。アホ臭い、どうせ僕ぐらいしか鋼魔法使いこなせないんだし」
「次期鋼の精霊候補ね」
鋼の球は精霊を押し返していた。
「魔王も雷の精霊になったんでしょ?」
「うん。ただ、二クラスがもう倒したみたいだよ」
「そうか――」
「精霊になるのも良いかもね。僕が先に死んでもジニーに会える」
人間とエルフの寿命には差がある。
だけど、彼が精霊になれば、今度は逆の立場になるだろう。
「とりあえず、樹の精霊を倒したら、エマたちの所に行って、戻ってくるつもりだからね」
「エマたちは大丈夫だと思うけど」
「なんで?」
「コロネがいるのよ。ああ見えても、けっこうやるのよ」
「本当かな――」
女王陛下の騎士は少し溜息をついた。




