虚影親子
遥か昔の魔銃の持ち主からの贈り物は、親父を穿つことはできなかった。
ディエス・イレ。光魔法の最高峰は虚しく空振りに終わった。
「俺の息子にしては弱いな」
「馬鹿な」
アンタは元々ただの鍛冶屋だろ。そこから這い上がって魔王になった大器晩成型だ。
「まだまだ、評価をするには早すぎる」
「そうだと。いいが」
その後も、銃弾と雷魔法の乱稚気騒ぎは収まらなかった。
銃弾には数がある。
精霊には――限りは無いのかも知れない。
数々の弾が雷球に破壊されて、火花を散らせた。
僕は近づこうとするが、親父は遠ざかろうとしている。
銃弾で退路を防ぎながら、再装填時は退いた。
波のような押し引きは、自分に有利な間合いの奪い合いだった。
どちらも飛び道具なので当然かもしれないが、有利な間合いは半歩で変わるぐらいの微妙さだった。
「どうしてそんなに不満な顔をしている?」
「はあ?」
「お前はこの闘いに絶対的な理由を見出していない。だから、鈍るのだ」
「……だから」
俺は水の魔弾を撃った。
「戦いには理由が必要だ。誰かのために戦うというのは、お前が心から望む理由ではない。それとも俺がいるから来たのか? それじゃあ、殺意は漲らないぞ」
「……親父は何がしたいんだ?」
わざわざ殺されたいのだろうか。
「分かっていないな。俺はドッペルゲンガーの体を借りているのと同じだ。だから、これは精霊である俺の遺志だ。つまり――こんな紛い物ごときを殺せない馬鹿息子では困ると言いたいのだ」
「紛い物にしては強い気がするけど」
「困るんだよ。こんな魔物に操られているように思われてはな。だから、遠慮なく殺すがいい――だが、抵抗はするがな」
一つの体が二律背反している。精霊の意思とドッペルゲンガーの意思が衝突しあっているため、このような言葉がでてくるのだろう。
「生きることに理由は無い、だからせめて戦うことに理由をつけろ」
「理由ね」
「馬鹿親父を殴りたいでも、何でもいいぞ」
僕は考えて、言葉にした。
「アンタを救ってやるよ」
それからの闘いは間合いをつめたものになった。
場所を替え、木を盾にしながら、殺傷できる距離で撃ち合った。
僕の服は焦げ、眼もチカチカとして疲れてきた。
精霊の力は本当に無尽蔵だった。
僕は再装填をして、気息を整えて、木の陰に隠れた。
途端に、攻撃がやんだ。
こちらを見失っているのだろう。
僕は草むらに隠れながら、ディエス・イレの弾丸を入れた。
木の陰から親父がでてきて、殺せた。
だが、僕は撃てなかった。
先ほどまでアホみたいに銃弾を撃っていたのに、殺すことができなかった。
再び、草むらに隠れて、僕は自分に言い聞かせた。
あれは親父じゃない。
あれは……ただの幻影だ。
一度も見たことの無い親父は、僕に本当にそっくりだった。
僕に撃てるのか。
いや――撃つべきだ。
魔王の息子だからこそ、親父を撃つべきだ。
俺は再び隠れて、機会を窺った。
親父が姿を見せた。
僕は親父に抱きつくように飛び込み、腹に銃口を突きつけた。
「そうか」
「サヨナラ、親父」
ディエス・イレの弾丸が発射されて、魔王は焼き尽くされた。
勢いで吹き飛び、受身を取って立ち上がると、ドッペルゲンガーが腹を吹き飛ばされてもがいていた。
僕はドッペルゲンガーにとどめをさした。
上に行くと、エマとコロネが剣士と乱戦を繰り広げていた。
特にエマは死にそうになりながら、戦っており、僕はエマに加勢した。
さすがに剣士――シグルズは不利と見たのか、二体は合わさった。
「いやー、助かったよ」
「コロネがいて」
情けない、と言おうとしたら、相手にも加勢が現れた。
黄金の狐が坂の下から駆け上がってきた。
「げっ! 命の精霊!」
コロネはシグルズと黄金の狐を見比べて、僕に振り返った。
「逃げるんだよ!」
「ええっ!」
僕たち3人はシグルズと狐を置いて逃げ出した。




