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カクテル・パーティー

 この旅始まって以来の慎重な行動で、すでにまったく別の街に来ていた。国境に沿いながら旅を続けていたが、遠回りになるが西の街に来ていた。


 冒険者ギルドの前を雑踏が行き交う、波打ち際のように満ちては引くような、全体が生き物のようだった。通りの椅子に俺たちは座っていた。俺の膝にはミヤビが座り、横にはミオがいた。俺は一人の男を指差して、ミオに説明した。


「いま、あの男が盗もうとしている」


「えっ、どこ?」


「男の前にいる女の鞄、その縫い目に小さな刃物で切れ込みを入れた」ミオが見つけられないようなので、俺は指を目の前に持って行って、その方向を指した。


「あっ、本当だ。指を」


 芸術的な動きで無駄がない、財布を素早く丁寧に盗んで、上着のポケットに手を突っ込んだ。ポケットの中に穴を開けて、生地の裏側に収納する部分を作っているのだろう。上着が不自然な揺れ方をした。


「たいしたもんだ。だけど……」


 俺は盗人の方へ行き、上着の不自然なふくらみに蹴りをいれた。男は目を点にして、俺を見つめていた。


「見られてるぜ。返してやりな」


 本当だったら見逃してやりたいけど、ミオの前だからか真面目に振舞いたかった。


「……あんた、何者だ」


 財布を渡された。


「同業者だよ。同じ穴の狢だ」


 俺は盗まれた女の人に返して、言葉巧みにお礼金を貰った。


「さいてー」


「全部盗まれるよりは断然良いだろ」


「なんというか、正義が足りない」


「正義で腹が膨れるか。さあ、飯にしようぜ」


 街名産のチーズとパンを注文して、太陽は沈んでいないけどビアマルガリータを頼んだ。


「なんですか、それは?」


 雌鹿亭では作ってくれたのだけど、と思って色々説明していると、面倒だから自分で作れと厨房に案内してくれた。ビールとテキーラを入れて、ライムと水を加えた。グラスに果実のライムを添えて、縁に塩をまぶした。


 店員と一緒に試し飲みをして、美味いのを確かめてから戻ってきた。


 ミオが色んな男にナンパされていて、飯をまずそうに食っていた。


「俺の連れに何か用ですか?」


 舌打ちをされたような音が鳴って、男たちは去って行った。


「遅い……いつまで待たせるの」


「カクテル作っていただけ。ほれ、飲むだろ?」


「私、一応未成年なんだけど」


 悪霊とばかり喋っているから忘れていた。彼女の肉体はカレラの実の娘であるミオだ。この旅では人格が現れて来ていないので忘れていた。


「まあまあ、美味いぞ」


 初めて作った割りにはビアマルガリータは味わい深かった。縁にある塩も効いており、すぐに一杯飲んでしまった。ミオがいつまで経っても飲まないので、グラスに手をつけると、


「少し飲んでみたい」と言ったのが運のつきだった。まずカクテルを一緒に作った店員が酒飲みに参加して、珍しい飲み方だなと周りの客も混じり始めて、昼間から酒飲み大会が始まってしまった。


 シャンパンも見つけたので、ブラックベルベットを作り出したら、ミオは乾いた大地のように飲みまくり、全身を赤くして酔っ払い始めた。となると、傾国の美女は美貌を振りまき、取り巻きの男たちを喜ばせるために、店の中心で踊っていた。


 そのまま店で夜飯まで食べて、ミオは酒精を飛ばしながら寝てしまった。仕方ないので担いで宿屋まで戻り、ベッドで寝かした。


「さあ、来るがいい」


 ミオはベッドの上で両腕を広げた。


「酔いを醒ませ」


「女を酔わせておいて、手を出さないのか! ばーか!」


 馬鹿はお前だ。


「ふんだ。どうせ、お姫様の体だから手を出さないんだろ?」


 お姫様じゃなかったら手を出さないかといえばどうだろうか。やはり初恋の娘というのは障害物となってその気にさせないのだろう。


「姫を手篭めにしたら、大犯罪者だよ」


「わかっているよ」


「それでも良いなら、愛してくれー!」


「あー、うるせー、寝ろ。今すぐ寝ろ」


 俺はこの旅が始まったときより、何倍も彼女に情が移っていた。きっと、彼女を封印するために一緒に旅をした男は全てそうだったのだろう。


 生きるだけで悪となる悲しい女。


 何人もの男が、封印する前に彼女と逃げようと思ったのだろう。


 でも、子が生まれれば彼女は子どもになってしまう。


 それは辛いことだ。


 そして必ず生き別れになってしまう。


 だからなのだろう。


 また彼女には恋をしてもらいたかったのだろう。


 頭を撫でて寝るのを待っているとき、心のそこからそう思った。

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