表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/95

炎の少女

 カレラとミオは二重人格のように移り変わった。


 カレラは十分に美しかったが、ミオは破格の美しさだった。


 ミオが花を手折る時も、今まで見向きもしなかった老人たちが嘆息するようになった。


 村は枯山水に井戸を掘り当てたように俄かに騒がしくなった。


 俺は日課だった物語を歌うことも無くなった。


 ミオには誰もが群がり、いつしか他の村の人間、他の町から人々が来るようになり、カレラとミオの周りには宝石が散らばるようになった。


 俺の母は泣いて俺を責めて、悪霊の復活を嘆いた。


「泣いているか。当然だな」


 ミオは隙を見て、俺と一緒に山に来ていた。


「カレラは」――どうしている、と聞くと、ミオは顔をしかめた。


「有頂天だ。はははっ、ここまでチヤホヤされたらどんな性格の良い女も、正義感の強い女もイチコロだ。半身である私が美を世界に振りまき、半身がそれを享受して、享楽に落ちる。私は美を振りまくだけ、本当に国を傾かせるのはもうひとつの半身だ」


 俺は自分の行動を恥じた。


 このような事態が起きているのは自分のせいだ。


 ただの村人だったカレラの人生も狂わせてしまった。


 ミオを責めても無駄だった。


 彼女は悪霊として振舞っているだけだ。


 彼女は自分に嘘がつけないから、存在するだけで美を振りまいてしまう。


 千一話目を語らなければ、こんなことにはならなかった。


「私を責めないか」


「俺が悪い」


「……さあ、どうだろうな。あの封印は、別に千一話目の恋物語を語るから解けるわけじゃあない。あの封印は私が私自身を封じ込めるための家だ。自主的にそこにおさまっていただけだ。本当はいつでも外に出ることが出来たんだ」


「じゃあ、なんで出てきたんだ」


「愛を凍らせて眠っていたの心を、あの恋物語だけは燃え上がらせてしまうんだ。物語の良い所は、別の人生を体験できるって言うことだ。そして、語ったのは――オズ、お前だ。私はお前だけに愛されれば良いんだ。それで私は満足だ――ははっ、やっぱり千一話目が封印を解く鍵だったんだな」


 気になったことがあった。


 傾城の美貌も、何故か俺だけにはほとんど通じていないようだった。


「当たり前だ。自分に手に入らないと思うから、欲しくなるんだ。だから、オズの愛するカレラにとり憑き、目の前にいるんだ」


「俺が手に入ったらどうするんだ?」


「……死ぬかもな。満足したら死ぬかもしれない。はははっ……」


 なんて乾いた笑い声だ。


 鳥のさえずりよりも美しいが、悲しいほど狂的だ。


 死で完成する恋愛もあるそうだ。


 俺とミオは何度が口を交わしたが、ミオが本性をあらわにして、周囲の人間を魅了するのを止めるためだった。


 もう名前を呼んでも、ミオを抑えることは出来なかった。


 しばらくの間、俺の知る唇はミオのものだけだった。


 終わりは突然やってきた。


 木造の建物が次々と焼かれて、悪しき兵士たちが次々と村人たちを斬り殺していった。


 この村は国境にあり、歴史的に二つの国に奪い奪われ続けた土地だった。


 美しき女を奪い合うために、両方の国から兵士が放たれて、巻き込まれた村は全てを薙ぎ倒された。


 美しい歌が聞こえた。


 燃える麦畑を、美しい少女は歩いていた。


 煙が上がり、風に打たれて、ミオの瞳にカレラの故郷が燃えるのを映した。


 涙を流しているが、それすら男を魅了する悪霊の業にしか見えなかった。


 どちらが勝ち、どちらが負けるか、値踏みをしているような、憂愁の表情だ。


 俺は母の手を掴んで逃げたが、いつのまにか手だけになっていた。


 この炎は自分の蒔いた種なのは分かっていた。


 だが自分の非が身を焦がそうと、ある火がともった。


 それはどす黒い火だった。


 祠で母の手を埋葬して、祀られていた偶像を倒して壊した。


 その後は有体に言うと盗賊となっていた。といっても、上流階級を狙う怪盗といった方が聞こえはいいだろう。


 とにかく民衆から金を搾取してひたすら溜め込んでいる金を、貧しい人たちにばら撒いた。


 普段は漁師をして金を稼ぎ、怪盗で稼いだ金はすべてばらまいた。


 一度、カレラどうなったか気になって探したことがあった。


 彼女はいつの間にか王后陛下になっていて、国を疲弊し尽くしていた。


 国王の横で美しく着飾った姿に、激しい怒りを覚えた。


 それでも初恋の少女の面影は今でもあった。顔も遠くだが、確認できた。


 ミオの影は差していなかった。


 彼女はどこへ行ってしまったのだろうか。


 それだけの疑問で俺は普通の生活へと戻った。


 生活の拠点としている街で贔屓にしている雌鹿亭で食事をしている時だった。


 看板娘に鳥肉の照り焼きをおまけでつけて貰い、いつも通りに依頼が来ないか待っていた。


 ほとんど狙って盗むがたまに依頼が来る事がある。


 怪盗を始めてからここの店には世話になっているので、しばらく入り浸っても文句は言われない、それに看板娘も荒っぽい中で静かな人間がいると楽だと言っていた。


 依頼が来た。


 初めての依頼人が盗んでくれと頼んだのは、一人の少女だった。


 王后陛下カレラの娘――傾城の美姫ミオ。


 燃えた村から去ってから、すでに20年の時が経過していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ