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「ここで待っていろと言われてもな」


 大陸各地、大陸外も旅行したけど、ここに戻ってくるのは久し振りだった。


 勇者の剣――ヘルメスが錆び付いて大地に突き刺さっている。


 剣の周りには建物を建てられて、偶像として祭られて、観光名所となっていた。


 空を飛んだ島が潰した湖は、島に押し出される形となり、島の横に人々の生活を支える水源となっていた。


「湖を潰したせいで、この近辺の人たちには恨まれたから、怖くてこれなかった」


「あなた――もう二十一年前だよ」


「ジニーは人間の怨念を舐めている。人間の怨念は何百年と続く……」


 ジニーこと、妻がヘルメスの周りを歩きながら笑った。


 僕もジニーも三十七歳になったが、冒険者としては一番脂が乗った時機だ。魔法と肉体が一番つりあっており、僕も今ならシグルズの全盛期と闘っても負けないだろう。


「しかし……本当に抜けないんだね」


 ヘルメスは物語の伝説の剣のように勇者にしか抜けないと言われていた。目を盗んでこっそり引き抜こうとしてみたが、びっくりするほど固かった。


「女王陛下の騎士も形無しね」


「地面の金属に癒着しているみたいだね。アイ=ドールを使って周りの岩を掘って――」


 そんなこんなしていたら、観光名所を管理している人に怒られました。


「くそー。元は僕の剣なのに」


「五年も寝ているから悪い」


「アイ=ドールが岩を粉々にしてやろうか」アイ=ドールが鞄から出てきた。普段は家で留守番だけど、エマが冒険に出たと聞いて心がうずいたそうだ。


 エマと冒険したい。彼の願いだった。


「盗みに間違われるから嫌だ」


「アイ=ドールはチキンだと思うの」


「うるせっ! ったく、剣は観賞用じゃねーのによ、闘う為に剣は存在する」


「だったら、今の私たちにもいらないでしょ」


「そうだけどよー」


「あっ、来たみたいだよ」


「あれ? 魔女もいるじゃん」



 エマは無垢の花を持ちながら、翼竜ワイバーンから飛び降りた。俺と二クラスは翼竜ワイバーンが着地してから降りた。


 これを売ればいい値段になるらしいが、エマにはジニーの姿しか見えなかった。


「おかーさーん」


「エマ。用って何なの?」


「こーれ」


 エマはジニーに抱きついて、無垢の花をジニーの左頬につけた。


 ジニーは国王に傷をつけられ、何十年も共にしていた傷だ。


 無垢の花は魔法に反応にして霧散したが、傷も風に洗われてなくなってしまった。


 久し振りに見る、傷無しの美しい顔がそこにあった。


「やったー。なおったよ」


 エマは傷の無い左頬に唇を付けた。あんまり唇をつけていたため、クーが脇を持って優しく離した。


 嫉妬丸出しだ。


 相変わらず、夫婦仲は良好のようだ。


 だが、クーはエマの頭を優しく撫でてくれた。


 ジニーは手で頬の傷を確認してみて、鏡で自分の左頬を見た。


「ありがとう。エマ。本当にありがとう」


「どういたしまして」


 俺たちの苦労が忘れられていると思って、自分を指差していた。


「コロネも、あと二クラス君もね」


 和やかな雰囲気に包まれていたが、俺は少し気になることがあった。


 魔女から聞かされた、第四の仲間のことだ。


 調べなければならなかった。



 俺は魔女と二人で、エボンの街に戻り、違和感の正体を探った。


 四人目の顔と存在の感覚は魔女が一番分かっていたので、街の中探していたら、数日後に透明の何かを見つけることができた。


 といっても、俺には見ることが出来なかった。


 だが、透明な何かが誰かと会っているのを見つけることが出来た。


 魔女は透明な方、私はその誰かに別々に接触した。


 夜の廃屋、老けた男がせせら笑っていた。


 出来ると言う印象だった。


「獣人か……。好都合だな。魔女はあいつにまかせるか」


「名前を知っているかもしれないが、俺の名前はコロネだ。お前は」


「魔王軍の元軍師、名前はダグーだ」


 魔女と戦って生き延びた数少ない魔王軍の一人だ。二十年前の幻影が現れたようだ。


「いまさら……負け犬がなにをしている」


「語る必要はない」


 毒龍を倒したとしても、それは有益なことだった。いま対立する意味は無いが、何か不信なことがあったら戦うつもりだった。


「だが、お前に用はある」


 なにを……。


「俺はお前には会っていないが、こいつは会っているんだよな……」


 ダグーの背後は暗かったが、それは闇だからではなかった。黒いものがいた。


 クーがコアから出てきたときに叩きのめしたはずの悪意の塊だった。


 まだ生きていたのか。


「俺は平和に生きていたんだぜ。だが、この悪意が俺を狂わせちまったんだ」


「もう一度叩きのめす」


 俺は獣化して、人型の狼となった。廃屋を飛び回り、天井を蹴り、壁を蹴り、床を砕き、二階建ての建物は吹抜けとなり、すべてが砕け散った。


 隣の建物の屋根に乗ると、ダグーも追撃してきた。


 ここ数年では一番手ごたえのある感覚だ。


「獣人にしては強い。だが――」


 そのとき、黒い影が横切って、黒いものを叩き切った。


「ちっ、ここまで来たのか!」


 しばらくダグーと接近戦を繰り広げて、ダグーは距離を取った。


「しつこい男だ」


「あの娘を返せ……」


 両手に短剣を持ち、身軽な男はダグーとの距離を測っているようだ。


「二対一では不利だな」


 ダグーは信じられない脚力で空に消えてしまった。


「あんた……あの男を知っているのか?」


 美丈夫。黒髪が眼まで隠していて、洞穴の奥のような陰湿さが見えた。だが、内側に熱を隠していて、今にも溢れそうな男だった。


「そこまで詳しくは」


「俺の名前はオズだ」


 俺は黒い騎士と出会った。


 無垢の花 完

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