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なんだ。この違和感は?
俺はシグルズの音波探査を思い出して、魔力の気配を探ってみたが何も感じなかった。俺もあの当時と比べたら段違いに魔法が使える。何の違和感も感じないと言うことは、よほどの魔法巧者かただの勘違いだろう。
一応、臭いも嗅いでみた。だが魔物の異臭と毒龍の臭さもあり探知できなかった。
ただ……違和感の原因はあるはずだ。
そうでなければ、違和感は生まれない。
「おい」俺は二クラスに耳打ちした。「エマと手を繋いで歩け」
「はあ?」ニクラスは顔を真っ赤にした。
「何か違和感がある。もしも狙われるなら一番弱いエマだ。手を繋げ」
「な、なんで僕が」
「良い機会だぞ」
……二クラスがエマに説明をすると、エマは緊張した顔になり、二人は手と手を力強く握った。二クラスは表情を固くしているが、にやけ顔を抑えようと我慢しているようだった。
山頂に辿り着くと、月夜を迎えていた。花は萎み、夜闇に識別も難しいので、交代で寝て朝を迎えることにした。
だが、先ほどの違和感が気になったので、俺はなかなか眠れなかった。
「やったー! 花、あったよ」
エマが手にしたのは無垢の花だった。見つけるまで、朝日が出てから太陽が頂点に行くまでの時間はかかった。
「これが命のスレイブか」
命のスレイブなら至るところにあるが、無垢の花には破格の力を持つ。固有技と言っても良い、幻の回復魔法が使える。
これが欲しかった。
「さあ、目的は終えた。帰ろうか」
帰り道、頂上と毒龍への道の分岐点、臭いが変わっていた。
強烈な死の臭いがした。
俺たちは意を決して、毒龍の所へ行くと、それは死んでいた。
「ど、どういうこと?」
「おい、ニクラス。エマの手を離すなよ」
火事場泥棒だとは思ったけど、依頼された指輪を探した。毒龍の毒液が当たりに散らばっていたので難儀したが、なんとか目的の指輪を見つけることが出来た。
「帰ろう。ここは危険な臭いが強すぎる」
俺たちはエボンの街へいき、冒険者ギルドに指輪を渡した。依頼金は受け取らなかった。その指輪は依頼人の両親の結婚指輪だったそうだ。
「毒龍が死にましたか。私たちにとっては良い知らせですが」
俺は冒険者ギルドの若い男にシシノ山での違和感について語った。
「……この数ヶ月、そのような噂は聞きますね。冒険をしている最中に何かの視線を感じた。誰かが後ろからつけてくるような気配がした。私たちは自然と戦う仕事ですから、そういう気配に敏感な人たちはいますが、なにやら不気味ですね」
俺は話を切り上げようとしたが、若い男はまた話しかけてきた。
「あの。夕飯は食べましたか?」
「ん? いや、まだだけど。連れもいるしね」
「……一緒に食事をどうですか?」
「いいよ。どこで食べる?」
「二人っきりという意味なんですが」
と言うことで、珍しく誘われたコロネは僕たち二人を置いていってしまった。
冒険者ギルドの建物からコロネがいなくなると、周囲から悲しみの声があがった。
コロネがいなくなると言うことは、僕たちも二人っきりで食事を取ると言うことで、今は面と向かってパスタを食べていた。
今なら邪魔な魔女もいない――。
「あのさ」
「なに?」
「僕、エマのこと好きだよ」
「私もだよ」
……あれ? 軽い。
「あのさ、軽い意味じゃなくて」
「ん? そうだよ。そういう意味の好きだよ」
ん、何?
「だって、二クラスは私のこと好きだよね。いつも見ているから分かるよ。二クラスは私の事をいつも見ているのに分からなかったの?」
「……すみません。分かりませんでした」
「駄目だなー」
「なに、のろけてんだよ」
エマの横から顔が浮き上がってきた。魔女だった。
いつの間に来ていたんだね、魔女様。
「……なんで来ているの?」
「いやー、心配だったしー、危なかったら助けようと思って――つけていた」
まさか、コロネが感じた違和感って。
「魔女のせいかよ」
「はあ? 何が?」
俺は魔女に違和感があったことについて言うと、
「えー、気配を気付かれないように行ったんだけどなー。衰えたかな」
「あーあ、良かった。お化けかと思っていたから」
「しかし、お前たちも薄情だな。四人で冒険をしていたくせに、コロネは男のところへ。お前たちは二人っきりで食事かよ。もう一人とは友好を深めないのかね」
魔女がパスタをもぐもぐと食った。
よ、四人……。
「んなやついないよっ! 僕たちは三人で冒険していたよ!」
魔女がパスタを味わっていた。
「へー。なるほど、どおりでオボロげだと思った」
魔女はからからと笑っていたが、僕たちは笑えなかった。




