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魔女の家にエマが来て数年経過した。俺は大陸の北西を拠点に、冒険者として活動しており一仕事を終えたので魔女の家に戻って来ていた。
エマとニクラスは地味な作業、古書の書き写しをしていた。
俺と魔女は休憩がてらに紅茶を入れて、エマが作ったバニラ風味のマフィンを食っていた。
「コロネも料理が美味ければいいのに」
「魔女に言われたくねーわ」
雑談を重ねていると、製作者のエマに見つかり、四人での雑談となった。
そして――俺の一言をエマが見逃さなかった。
「それ、取りに行こうよ!」
俺が魔女に語った『無垢の花』伝説が気になったそうだ。
俺とエマと二クラスは翼竜に乗って、大陸の北西へと来ていた。
魔女はついて行きたい雰囲気を出していたが、素直について行きたいと言わなかったので、留守番を言い渡した。
ちなみに、ワイバーンはジニーと亜と魔女と赤龍が結託して作った翼竜空輸局から、「金を払って」荷物の郵送と相乗りした。
到着した先は、エボンの街だ。
エボンの街はドラクロワ王国の北西端にあり、街の北西側には迷宮や魔物の巣が広がっているので、冒険者ギルドが集まり活発のある街だ。
道に人が溢れて、生の匂いが充満していた。
「うひゃー。人がいっぱいだー」
エマがはしゃいでいた。ジニーとクーの娘なので色々な地へ行っているはずだけど、最近は魔女の家に引き篭っていたので懐かしいのだろう。
「はいはい、行くぞ。エマ」二クラスがエマの手を引っ張って戻ってきた。
「そうだぞ、冒険者ギルドへ行くぞ」
建物に入った瞬間に声が静まった。
ちなみに俺は三十四歳、二クラスは二十歳、エマは十六歳。
「「「こ、子どもがいたのか」」」
知り合いの冒険者たちからいっせいに声がした。
「ちくしょ~、馬鹿にしやがって」
カウンターでエマを冒険者として登録した。二クラスは以前に別の街で登録していたが、まったく使っていなかったので証明書を再発行した。二人とも仮の証明書を渡された。
「なんか、どこかで聞いたことのある名前ですね」冒険者ギルドの若い男性職員が言った。
「まあ、気にするな」
「で、今回の依頼されている仕事のいちら――」
「待て、シシノ山での依頼はないか」
「あそこは初心者たちが行く場所では無いですが」
「俺がいるから平気さ」
「……ありますが、毒龍から指輪を奪い返すって仕事なんですが」
シシノ山の毒龍の話は赤龍から聞いたことがある。
「あんなの雑魚だ。ワシとは違うからな」と言っていたけど、シシノ山の恐ろしさは毒龍によることが大きい。
俺たちの目的はシシノ山の山頂に生えている無垢の花だけど、シシノ山へ行くには街の許可が必要だった。
警備兵にギルドからの依頼書を見せて、厳重に警戒された山道をあるいてシシノ山に入ると、次から次へと魔物が出てきた。
二クラスの魔道銃は見敵必殺で魔物を無力化、俺とエマの出る出番はほとんど無かった。
「魔物がけっこう出るんだね」
「そうだね」
人間が切り開いた大地にはほとんど魔物はいない、どんな生き物でも食料の確保と闘争の回避が肝要だからだ。
俺がジニーとクーと旅をしたときも数えるほどしか遭遇しなかったけど、魔物の巣となっているエボン近辺では、他の地域で住む人間が遭遇する魔物の一生分が一時間ほどで出てくる。
苦戦する魔物が出てきた。
大弓をもった骸骨――初めて遭遇するので名前は知らなかった。二クラスの魔弾を骨の間を通して、後ろの壁を弾けさせていた。
「援護するよ」
エマの手から伸びたのは鞭だった。
軌道が読めず、神速で叩きつけられ、骨を砕いた。
趣味が悪いと思ったが、魔女が仕込んだだけあり正確無比で無慈悲だった。
「やったー」
ピースしているが、やっていることは悪魔のようだった。
最深部へ行く道と分岐して山頂へ行く道があった。
「無垢の花は山頂だが……」
「指輪を取り返したいな」
「んんん……難しいな。対処方法も分からな……」
何か違和感があった。
何かに見られている。
「どうしたの? コロネさん」
「……いや、やっぱり花を取りに行こう」
俺は周囲を確認してみたが、気になるようなものは何も無かった。
それは、とても不気味だった。




