外伝 陽だまりの家
魔女の視点のお話です。これもエンディング候補でしたが、クーとジニーが出てこないので、ほぼ外伝ですね。
あれから数十年が経ち、魔女の騎士は伝説の存在となった。
女王陛下の物語も、創作された物語とされた。
それもそうだ。
まさか、過去へまで行けるとは思えないだろう。
年月が経てば、全てが幻だったかのように思える。
私はしばらく一人で暮らしていた。
森の一角に小さな家を新築して、優雅に紅茶を啜って、お菓子を主食に生きていた。
クー=デュランが核に取り込まれてから、一時期コロネが一緒に住んでいたけど、なかなか才能豊かな少女で、最終的には辺境を旅する冒険者となってしまった。
男も女も、去っていく。
がっかりだ。
長命だと悲しいことが多い、誰か私を介護してくれ。
と、寂しがっていた。
だが、とある人物が現れた。
五年前、私は杖をついて森を散策していた。
「魔女、覚悟―!」
私は杖を握り締めて、声の主を吹っ飛ばした。
すぱーん、と。
「誰だ?」
「なんだ。その杖は……」
「これは鈍器だ」
年が経つにつれて衰えてきたので、杖状の筋トレ器具を持って鍛えていたのだ。
声の主は少年だった。
人々に恨まれるのは慣れているが、これほど小さな少年に命を狙われるとは思わなかった。
「私はベロニカ=クンツだ。名を名乗れ」
「僕は……二クラス=アスマン」
「魔王と同じ名前……」
二クラスは私の家の周りで、野宿して毎日のように襲い掛かってきた。
私も暇だったので、返り討ちにしまくっていたら、かなり成長したようで、私は本格的に鍛練させてあげたかった。だが、二クラスは私の命を狙っているつもりなので、到底私の言うことを聞くはずが無かった。
そんな中、コロネが戻ってきた。
「二クラスがそんなことを」
コロネが二クラスに私の元に行くべきだと伝えたそうだ。
「コロネは私を殺す気か」
「私と話していたときは尊敬しているようなことを言っていたんですが」
コロネが帰って数日経ち、大雨の日があった。
私は窓を眺めて、表面を撫でる雨を見ていた。
二クラスの隠れているつもりの家に行くと、顔を真っ赤にして倒れていた。
風邪だったようだ。
私は家に連れて行き、看病した。
一週間ほどで完治した。
それ以来、二クラスは私の家で住んでいる。
憑き物が落ちたように大人しくなり、新たな魔女の騎士を育てている気分になった。だが、クーが最後の魔女の騎士だ。最初で最後の騎士。彼の代わりは誰もいなかった。
彼は残念ながら魔法を操る能力が欠けていた。
魔王が雷魔法の達人だったのが嘘のようだ。
私はコロネの持っていた魔道銃を二クラスに渡した。
島の戦いで、レスターから預かった魔道銃だ。
魔王が作った、魔法の使えない者の武器。
巡り巡って、彼の元に辿り着いたようだ。
それがどういう意味があるか分からない、意味など無いのかも知れない、ただ、父親の作ったものだと伝えると、表情は変えなかったが喜んでいるように見えた。
ある日、私は風邪を引いた。
「若くないなぁ」
「寝ていてください」
すっかり棘が抜けた二クラスは、私の看病をずっとしてくれた。
やはり歳だったようで、完治するまで一ヶ月かかった。
一時期は熱で意識が無かったようだけど、二クラスが寝ずに看病をしてくれたそうだ。
「弱っている時に、命を狙えばよかったのに」
「……ベロニカが病気の時に……」
二クラスがある事を語った。
私は病気で臥せている時に泣いていたそうだ。
許してくれと、何度も言っていたそうだ。
数々の夢を潰してきた魔女は熱病に浮かされて弱音を吐いてしまったようだ。
「僕は、あなたを救わなければならないと思いました」
正直、驚いた。
心の奥底に口付けをされたような清涼感に溢れた。
「僕は、ベロニカを許しますよ。だから、もう自分を責めないでください」
親の敵への燻りは残り続けていたはずだが、許すと言った。
その一言で、私の心は軽くなった。
数年が経ち、コロネが一人の少女を連れてきた。
「今度はこの子を育ててください」
「私は保育園か」
「人がいるほうが寂しくないでしょ」
コロネの言うとおりだが、的を射ている分だけ腹が立つ。
コロネが去り、少女が残された。
産まれた時も人並みはずれていたが、美しい少女だった。
私は彼女の部屋に案内した。
「お父さんとお母さんから離れるけど、泣かないように頑張るんだよ」
「うん」
「同居人もいるから紹介するから」
二クラスは庭の雑草を片付けていたので、私は呼んで少女と挨拶をさせた。
二クラスは私の家で過ごしている。修行をしていたので、それなりに強いのだが、私の元から去るのを嫌がっている。
二クラスは少女と対面して、その美しさに驚いたようだ。
「僕は二クラス=アスマンだ。君は」
少女は二クラスにお辞儀をした。
「私は――エマ=デュランです」
「エマか」
――私の母の名前が由来の少女だ。
あーあ、二クラスは恋をした顔をしている。
これだから、男は――。
だが――きっとこの二人は次の時代を築くだろう。
世界をかけて戦った魂は、安住の地を得たのだろうか。
敵も味方も、時は消してしまった。
残ったのは――。
未来への希望だった。
これで完結かな……。
読んでいただきありがとうございました。




